第15話 ギルド
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
***********************************
リリーティアは一人、橋の上に立っていた。
橋の上では行商人など、多くの人たちが途絶えることなく往来する。
ここは、トルビキアの北大陸にあるギルドの巣窟、ダングレスト。
彼女は森を抜けた先でゴーシュとドロワットと別れ、ここダングレストへと入った。
背徳の館まで行く道のりは、ダングレストを経由していくことになるから、彼女は数時間前にもここを通ったが、その時もこの一帯は夕陽で赤く染まっていた。
そして、こうして戻ってきた今も尚、この街は鮮やかな赤に染まっている。
半日前と同じ状況がまだそこにあった。
街中の喧騒に耳に、リリーティアは目の前に浮かぶ夕陽を見つめた。
実は、この街を含むこの周辺一帯には夕方と夜しかないのである。
誰かが黄昏の街と称していたのを耳にしたが、その名の通り一日中黄昏時だった。
朝も昼も空は常に赤く染まっていて、夜になるとほかの場所と同じように闇に染まる。
けれど、朝は訪れても朝日は訪れず、赤い太陽が地平線に浮かびあがり、日中この辺りを赤く染め続けるのだ。
単に空の色が変化しているというのではなく、本当に常に夕方だった。
理解をも超えたこの現象の理由は、誰にも分からないらしく、
この街の住民から、「大昔の連中が何かヘマをやらかしたせいだ」というのを聞いたが、結局本当のところは謎のままだった。
初めて訪れる以前から、彼女はある行商人に話だけは聞いていたが、正直なところ半信半疑だった。
だから、実際に目の当たりにした時は心底驚いた。
まだ昼も回っていない時間帯のはずなのに、ダングレストが先に見えた途端、曇天の空が急激に薄れ、空が赤く染まりはじめたのだ。
それはまるで二枚の絵が徐々に切り替わるかのように、まったく別の景色へと変化した。
その現象に、時間の感覚に混乱した彼女は、その場にしばらく立ち尽くしてしまうほどに驚きを隠せなかった
リリーティアは懐中時計を見る。
今は、この不思議な現象に調和した時刻のようだ。
これまで何度かダングレストを訪れているが、彼女は未だに時間の流れが掴めないでいた。
夜以外は黄昏というこの街の中では、日中の時間経過が分かりづらいため、時間配分がどうしても掴めない。
このような独特な土地に建つ街だからこそ、街中に時計があってもいいように思えるが、これまでどこを見渡してもそれを見かけたことはなかった。
長年ここで暮らす者にとっては、すでに時間感覚を培っているらしい。
彼女は懐中時計を服の内に仕舞うと、おもむろに左の掌(てのひら)を見た。
夕陽に染まって、その手は鮮やかな茜(あか)に染まっている。
目を細め、じっとその手を見詰めると、その手を強く握り締めて重い息を吐いた。
「リリィちゃん?」
「!」
聞き慣れた声に彼女はっとして振り向いた。
「レイヴンさん」
「どーしたの、こんなところまで?俺様びっくりなんだけど」
それは、レイヴンだった。
言葉通り、目を瞬かせて、少し驚いている様子だった。
帝都から遠いダングレスト、それに、彼女は<帝国>騎士団に席を置いている。
<帝国>に対して反感の念を持った者が多いギルドの街中で、騎士団の人間だと知られれば何かと目につけられるのは確かだ。
<帝国>に従事する者にとっては危険な街である場所に、彼女が訪れていることは彼にとって思わぬことだったのだろう。
「お久しぶりですね」
リリーティアの言葉にレイヴンは手をひらひらとさせて久しぶりと返した。
互いに久しぶりだと返すものの、実のところ一週間ぐらい前にも城で会っている。
ただし、シュヴァーンとしての彼に。
シュヴァーン隊を率いて帝都周辺の魔物討伐を行ったのが一週間ほど前の話。
しかし、レイヴンとして会うのは実に半年ぶりだった。
「ちょっとここまでくる用事がありまして」
「にしても、ここまで大変だったでしょーに。ごくろーさん」
レイヴンはにっと笑う。
彼はそれ以上、彼女がここまで来た理由を問うことはしなかった。
多くの人が往来するこの場所だからというのもあるだろうが、そうでなくとも、彼はそれ以上を聞くことはしない。
それは立場が逆となっても同じ。
彼がリリーティアの知らない所でアレクセイから何度も密命を受けているのも承知しているし、その内容をすべて知っているわけではない。
逆にレイヴンも彼女がアレクセイの密命でこれまで何をやってきたのか知っているものもあれば、知らないものだってある。
どちらかといえば、知らないものが多いかもしれない。
けれど、それでもお互いにいちいち何を指示されたかなど聞くつもりはなかった。
時に何かを察することはあれど、余計な詮索はしないのが二人であった。
だから、二人はこうして互いに、いつ、どこで、どのような立場でも、当たり障りなく接することができているのだろう。