第15話 ギルド
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
***********************************
指令を伝え、背徳の館を後にしたリリーティアは森の中を進んでいた。
行きの時と同じように、ゴーシュとドロワットが彼女の先を歩いている。
「送ってくれてありがとう。いつも悪いね」
リリーティアは頭巾(フード)の下で申し訳なさそうな笑みを浮かべた。
すでに雨は止んでいたが、彼女だけは外套(ローブ)に身を包んで頭巾(フード)を深く被っている。
「これはあたしらがいつも勝手にしているだけなのん。だから、ししょーは気にすることないわん。ね?ゴーシュちゃん」
「ああ。それに、私たちは師匠のために何もしてあげられていません。せめてこのぐらいはさせて下さい」
ゴーシュの言葉に「うんうん」と大げさにも頷くドロワット。
「何言っているの、ゴーシュ、ドロワット。”何も”、じゃないでしょう。二人はいつも私の事を心配してくれる。それだけで私は本当に助けられているんだよ。それに、ギルドの仕事を立派にやっていること、イエガーさんからよく聞いてる。何よりそれが私にとってとても嬉しいことなんだから」
あれから幾年か過ぎ、その顔には未だ少し幼さが残るが、出会った頃よりもだいぶ背が伸びたゴーシュとドロワットは、今や『海凶の爪(リヴァイアサンのつめ)』の一員として日夜活躍している。
彼女たちが頑張っていることを聞く度にリリーティアは嬉しく、またほっとしていた。
それは、彼女たちが元気にしているということでもあるからだ。
「私たちがそれでは納得できないんです」
「うん。もっともーっと、ししょー師匠の役に立ちたんだわん」
「ありがとう。その気持ちは十分私の役に立ってるよ。だから-------」
急に足を止めゴーシュとドロワットが揃いに揃って勢いよく振り向いたので、リリーティアは思わず口を噤んだ。
「師匠」 「ししょー」
ジト目で見上げてくる二人。
彼女はその視線にとっさに一歩身を引いたが、このあと、何を言われるのかは大概予想はついていた。
「前から言っていますが、師匠は一人で何でもしようとし過ぎです!」
「そうだわん!もう少し人を頼ることをしてほしいのん!」
腰に手を当てて、強い口調で言う二人。
彼女は二人の弟子に叱られながらも、これじゃあどっちが師で弟子なんだろうと、心の中で笑った。
こうして会うと、二人は説教じみた口調で師に対して何かと言うようになった。
会う度にそれが酷くなっているように思えるが、それだけ師を案じているということなのだ。
「心配してくれてありがとう、ゴーシュ、ドロワット」
リリーティアは被っていた頭巾(フード)を取って、笑みを浮かべる。
彼女たちの言葉に嬉しく感じている反面、心配をかけてしまっていることに心苦しさも感じていた。
「む~、そうやっていつも笑って誤魔化すのダメだわん!」
「私たちは師匠にもっと頼って欲しいと思っているんです。それは・・・、私たちの実力はまだまだですが・・・」
「頼りないかもしれないけど・・・、それでも、ししょーの為ならあたしら頑張るむん!」
リリーティアは僅かに眉をひそめると、腰に手を当てて二人の目の高さに合わせて体を屈めた。
「だーれーが、あなた達の実力はまだまだなんて言ったー?」
さっきのお返しとばかりに、今度は彼女が二人にジト目を向けた。
「で、ですが・・・やっぱり私たちは、師匠やイエガー様と比べれば、剣も魔術もまだまだで・・・」
「まだまだ足元にも及ばないぬん・・・」
さっきの勢いはどこへやら、ゴーシュとドロワットは顔を俯かせて、声の調子を落とした。
そんな弟子たちの様子に、リリーティアはわざとらしく大きくため息をつく。
「あなた達の実力は誰よりも私が知っているし、認めている。それは私だけじゃなく、イエガーさんもそう。そうじゃなければ、そもそも彼のギルドに入れなかったし、私のあの依頼だって任せていない」
リリーティアは言い聞かせるように強い口調で諭す。
もっと自信を持ってほしいと。
それでも、二人はまだ納得していない様子で、まだ己の持つ実力に不安があるようだった。
「そうでしょう?」
けれど、その眼差しは二人の不安をかき消すほどに力強いものであった。
それでいて、弟子を想う優しい瞳。
「それに-------、私はあなた達に師と認めてもらった身」
リリーティアは屈めていた体を上げると、少しばかり胸を張って腕を組んだ。
「師である以上、そう簡単に弟子に追い抜かれてたまるもんですか、てね」
そう言って、彼女は悪戯な笑みを浮かべてみせた。
師のその笑みは、とても優しく、温かく、二人は彼女の弟子であることを改めて誇りに思った。
「それにね、ゴーシュ、ドロワット」
リリーティアはゴーシュとドロワットの頭に手を置くと、そっと目を伏せた。
「あなた達は強い。誰よりも・・・ね」
そう、すでに彼女たちは師をも超える強さを持っている。
師である自分には失われてしまったその強さを。
絶望の中でも、翳ることはしないその瞳。
闇の中でも、輝き続ける命。
疑うことはしない、己の信念。
それが彼女たち、弟子たちの強さだ。
リリーティアは微笑むと、二人に背を向けて歩き始めた。
師の言葉の真意がよくわからなかったゴーシュとドロワットは訝しげに互いに顔を見合わた。
だが、二人はすぐにはっとなった。
またはぐらされたのだと思い、先を行く師の背中を慌てて追いかけた。
その背に追いつくと、「もっと自分の身を労わるように」と師に対しての説教が再び始まった。
リリーティアはそんな弟子たちからの説教を聞きながらも、始終、その表情には小さく笑みを浮かべていた。