第14話 騎士
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「今日はここで解散する」
城の正門前で、シュヴァーンは任務を無事に完了したことを改めて告げた。
そして、明日からまたしばらくあける有無を伝える。
「よろしく頼む」というシュヴァーンの言葉に、ルブランが「お任せください」と敬礼し、部下たちもそれに倣った。
シュヴァーンは頷くと彼らに背を向けた。
それと同時に、任務が終わったことにほっとしたのだろう、周りの空気が一気に緩んだのを感じた。
そして、さっきの貴族出身の騎士たちが言っていたことについて、再び文句を言い始める。
やってられないやら、腹が立つやらと繰り返し、憤りを見せる彼ら。
その様子に何と言葉をかけてやればいいのか分からず、リリーティアはただそれを黙って見ていることしかできなかった。
これまで何度も貴族たちの態度に苦しめられてきた彼ら。
そんな彼らに対して、彼女はいつも声をかける言葉を見い出せないでいた。
そんな時だった。
「今日はご苦労だったな」
そのまま城に向かうと思っていたシュヴァーンが、そう言ってこちらへ振り向いたのである。
彼の部下たちははっとして、慌てて姿勢を正した。
彼の労いの言葉に、あまりに不意だったからか皆は言葉を返すことができす、その場で固まっている。
一気に周りの空気が張り詰め、彼女は訝しげに彼を見る。
少しの間、静寂が辺りを包み、彼は静かにその口を開いた。
「身分に苦しめられることはあっても、お前たちは、-----身分で苦しめることはしないだろう」
そう言うと、 シュヴァーンは背を向けた。
それは彼らに問いかけたような言葉にも聞こえたが、あれは、はっきりと言い切った言葉だった。
「それを忘れてくれるな」
彼の言葉に、シュヴァーン隊の皆が呆然と立ち尽くしていた。
静寂の中に、ただシュヴァーンの纏う甲冑の音が静かに響く。
隊員たちの誰一人として何も言わず、立ち去っていく己(おの)が隊長の背をじっと見詰め続けていた。
彼らだけでなく、それはリリーティアも同じで。
シュヴァーンの言葉。
平民という身分で苦しめられている彼らは、だからといって、騎士として市民たちに対して威張ることはしない。
平民だから、騎士だからと、身分を理由に理不尽な事を成すことはしない。
彼は、部下たちに対してそう言い切ったのだ。
彼らのことを理解し、彼らを信じているがの如くに。
平民出身者である彼らの苦しみも、騎士である彼らの心を、彼は----------知っていた。
しばらく、リリーティア自身も言葉を失ったまま、その場に佇んでいた。
彼女に至っては、彼の言葉以上に、その言葉と共に浮かべていた彼の表情に驚きを隠せなかった。
笑みを浮かべていたのだ。
微かな笑み。
本当に僅かな変化。
その笑みを見た瞬間、彼女は気づいた。
あの時、自分の身を案じてくれた時に浮かべていた微かな笑み。
そして、今の笑み。
それが同じ笑みだというのは当たり前。
でも、あの時は、レイヴンとしての彼が笑っているのとを比べると、それは笑顔とは呼べないのかもしれないと思っていた。
けれど、それは大きな間違いだった。
今、重なったのだ。
はっきりと。
シュヴァーンとしての彼の微かな笑みと、レイヴンとしての彼の笑顔が。
そして、いつか見た遠い過去の、彼の笑顔と。
そう、あの遠い過去に見たおどけた笑みも、僅かな変化でしか見えないあの笑みも、大げさに見えるあの笑みも、
どれも同じ----------彼の”笑顔”だ。
すでにシュヴァーンは、城内の門を潜っていた。
城内へと入っていく彼の背。
その姿にふと蘇る記憶。
その記憶の中に浮かぶ、ひとつの言葉。
”本当の騎士”
誰が言っていただろうか。
けれど、確かに記憶にある。
”本当の騎士”とはどんな姿と問われれば、
迷わず、はっきりと、胸を張って、
私は、----------”彼だ”と答えるだろう。
きっとその答えは、彼らも同じだ。
黙したまま、じっと己が隊長の背を見詰め続ける彼らなら。
今、彼らはその瞳に映したに違いない。
”本当の騎士”の姿を。
第14話 騎士 -終-