第14話 騎士
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「(私は知っている)」
あれからリリーティアは何度も頭の中にこの言葉を繰り返した。
後ろを歩く隊員たちもまだ怒りが収まっていないようで、彼女たちの後ろでぶつぶつと文句の声が微かに聞こえる。
彼らのその不満な声とやり場のない怒りを感じながら、彼女は思いに耽った。
何度目にし、耳にしただろうか。
シュヴァーン隊の彼らを蔑む言動を。
彼らを無能呼ばわりする貴族出身の騎士たちを。
----------私は知っている。
シュヴァーン隊の隊員全員が完璧なわけじゃないこと。
面倒な任務ばかりで嫌になったり、貴族出身者たちの態度にやるせない思いを抱き、任務に精が入っていないのを見たこともある。
確かに、ルブラン小隊長のように、常日頃、任務に対して覇気ある姿勢を保つことは並大抵の心意気ではできないことだ。
だから、時に任務を怠ってしまう者が中にはいる。
----------私は知っている。
無能と呼ばれる理由も。
下町の人たちの税金徴収の任務になると、仮病で休む者。
中には、徴収したお金を紛失させてしまったと、嘘を吐く者。
税金徴収を阻止しようと幼い子どもたちが仕掛けた罠にはまって、怪我を負う者。
それだけ見れば、この隊は無能と呼ばれても仕方のないことだと思う。
----------私は知っている。
それは事実でも、違うということを。
仮病を使うのも、任務が面倒だからと逃げているようにも見えるが、彼らは何より苦しいのだ。
貧しい人たちから強制的に税金を徴収する行為に、心を痛め、苦しんでいる。
誰よりも深く苦しんでいるのだ。
だから、彼らは優しい。
----------私は知っている。
嘘を吐くのも、貧しい日々を懸命に生きている人たちを、これ以上苦しめたくないのだ。
責任を取って自分の給金を回してほしいと自ら進言するほどに。
己を利を顧みない。
だから、彼らは誠実で。
----------私は知っている。
一国の騎士が子どもが考えた罠にはまるのも、子どもたちの想いを大切にしたいから。
幼い子たちの、自分たちでもみんなを守れるんだという気持ちを、守りたいのだ。
・・・・・・まあ、時には本気でその罠にはまっていることもあるみたいだけど。
そうやって、自らを犠牲することも厭わない。
だから、彼らは強い。
----------私は知っている。
だから、彼らを愚かなどとは思わない。
ただ己が率いる隊だからという贔屓で見ているつもりもない。
これは、事実だ。
ただ厳然たる事実を言っているだけ。
彼らは確かに実力は乏しい、
けれど、はるかに優れた心を持っている。
誰よりも他人(ひと)を想う心を。
だから、彼らが無能なんて絶対に間違いで。
彼らを蔑む目で見ないでほしい。
彼らが優れているということを知ってほしい。
----------誰よりも、シュヴァーン隊長には。
彼が、さっきの騎士たちの言葉を鵜呑みにしているとも思わない。
きっと気にも留めていないだろう。
けれど、それはあの騎士たちの言葉だけでなく、自身の隊のこと事態、気に留めていないのかもしれない。
それは何だか虚しかった。
知っていてほしい。
周りの言葉は間違いなのだと。
あなたの隊がどんなに優れているのかを。
リリーティアは彼の背を儚げに見詰め続けていた。