第14話 騎士
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一行が帝都に到着した頃には、すでに辺りは薄暗く、街の街灯にはすでに光が灯っていた。
大正門の前で、帝都で通常の任務にあたっていたシュヴァーン隊の隊員たちと合流した。
拘束した過激派の人たちを、彼らに引き渡す手筈となっているからだ。
今回の任務に就いたシュヴァーン隊の隊員たちは、帝都についた時には疲れ果てている様子で、任務中はいつも活気に溢れているルブランも、今回ばかりは疲労困ぱいといった疲れた色を隠せないでいる様子であった。
隊長であるシュヴァーンはさすがというべきか、いつもと変わらない出で立ちで、一切の疲れを感じていないように見える。
リリーティアも疲れた様子は見せないものの、実際は肩の痛みもあり、疲労で体が重く感じていた。
任務から帰ってきた仲間たちのその姿に、帝都に残っていたシュヴァーン隊の隊員たちは何度も労いの言葉をかけてくれた。
その言葉に少しは疲れが和らいだようで、隊員たちの顔には微かな笑みが浮かび、互いに他愛無い言葉を掛け合っている。
リリーティアは見守るように、部下たちのその様子を眺めていた。
隊内での引き継ぎ作業を終え、過激派の人たちが連行されていくのを見送った後、一行は城へと戻るため城に続く街の大通りに向かって歩き出す。
大通りは人の往来が激しかったが、 一行が通るのを見るやいなや、そそくさと道の脇へと寄ってその道を譲った。
いつもこうだった。
<帝国>騎士が街中を歩くと、平民は必ず逃げるようにして道の端に寄って距離をとる。
その距離が、昔から変わらない騎士と平民の埋まらない溝をありありと映し出していて、リリーティアはそれを見るたびに心苦しくなるのもいつものこと。
何度見ても慣れない光景だった。
それはシュヴァーン隊の隊員たちも感じているようで、少し居心地悪そうな雰囲気が伝わってきた。
シュヴァーン隊の彼らは平民出身者ばかり。
騎士に対して距離をとる平民たちの気持ちを誰よりも知っている彼らだからこそ、余計に複雑な気分なのだろう。
彼らは市民を脅かすために騎士になったのではないのだから。
「なぁ、さっき連行されていったやつら、見たか」
「ああ、なんか<帝国>に反乱起こしてる過激派のやつらだっけ」
帰城する途中、どこからともなく聞こえた会話。
街中の往来が激しく、様々な会話が飛び交う中で、その会話はいやにはっきりと聞こえた。
「この前も連行されるのを見たけど、毎度毎度よくやるよなぁ。こっちはいい迷惑だっての」
「迷惑つっても、俺らの担当じゃないから、どうでもいいけどな~」
リリーティアはその会話に不快感を覚えながらも、気に留めないように努めた。
けれど、そうやって気にしないようにと意識すればするほど、嫌でも耳に入ってくるもので、
それはシュヴァーン隊の隊員たちも同じだった。
「そりゃそうだ。オレらみたいな貴族があんな奴ら相手できるかよ。あんな野蛮な奴らと付き合えるのは平民くらいしかいねえって」
「じゃあ、平民揃いのあのヘナチョコ隊にはお似合いの任務だな。ははは」
シュヴァーン隊がそこにいるのを知ってか知らずか、いや、知っているからこそああやって声高らかに話しているのだろう。
明らかにシュヴァーン隊に対する侮辱な言葉。
シュヴァーン隊にというよりも、それは平民の存在自体を否定しているような物言いだった。
「ていうかよ、過激派の奴らって平民の奴らばっかだろ」
「違いねえな。生まれの卑しい奴らが考えることは俺らには理解できそうにないね。おー、こわいこわい」
隊員たちの中にはいよいよ我慢の限界が近いのか、仲間同士で何かを言い合っている。
その怒りを背に感じながら、彼女は前を歩くシュヴァーンを様子を窺い見た。
後ろで怒りを露にしている部下たちとは違い、聞こえていないかのように淡々とした足取りで歩いている。
おそらく気にはしていないのだろう。
彼女はそう思いながら、そのことにどこか虚しさを感じていた
「じゃあ、オレらもあのヘナチョコ隊にやられないように気をつけないとなぁ」
「はは、ヘマばかりするあいつらが俺たちに何が出来るってんだよ。心配するのも無駄無駄」
彼らの数々の非道な言葉に、後ろで何やら騒ぎ出す部下数名にルブランが一喝している。
彼らのその気持ちは十分理解できるが、ここで事を起こしても何も変わらない。
何を言っても、結局は最終的にこちらの非になるのだ。
「ま、あの無能っぷりは惨めすぎて見てられないね。オレはあんな惨めな姿さらけ出して、こんな往来の中なんて歩けねえよ」
「あいつらはずいぶんと図太い精神をお持ちようで。ほんと、それに関しては俺もあいつらを尊敬するぜ」
彼らはそう話して、高笑いする。
そして、その声は人々の雑踏の中へと溶けるように消えていった。
リリーティアは彼らの言葉が聞こえている間、ぎゅっと拳を強く握り続けていた。
そのせいで、ただでさえ痛む左肩は更なる痛みを感じたが、それでよかった。
沸々と湧き上がる苛立ちを紛らすためには。
そうでもしないと、この苛立ちを隠すことは出来なかっただろうから。