第14話 騎士
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地平線から朝日が昇り始める頃。
金属の音と蒼葉の擦る音が鳴り響く森の中。
生い茂った葉が行く手を阻んだ道なき道を進む、橙に身を纏う<帝国>騎士団 シュヴァーン隊。
住民が寝静まっている頃に帝都を出て、ここまでの間に一度だけ魔物との戦闘になったが何ら問題もなく事は進んでいた。
木々の隙間から差し込んできた淡い光に、リリーティアは目を細めた。
いつもの魔導服(ローブ)は羽織っていないが、その左胸には<帝国>の徽章(きしょう)が着けられている。
彼女は木々の間から見える天を仰ぎ見た。
この空模様だと少なくとも帝都へと帰路に着くまでは天気は良好だろう。
今日の任務が無事に事成すことを願いながら、彼女は視線を前方に戻した。
反<帝国>勢力の調査、その過激派の身柄拘束。
その任務のために、今向かっている場所は帝都を出で南方向に広がるマイオキア平原。
その周辺には街も何もないのだが、最近になって怪しい集団が行き来しているとの報告があったのだ。
簡単に身柄の拘束とは言えど、帝都内でテロを行うことも厭わない人たちの集まりであり、爆発物を所持している。
どんな犯罪者も追い込まれた時は捕まるまいと、正常さ欠いて思わぬ手段をとることがある。
どの任務時でもそうだが、最悪の事態にはならないように事を進める手筈は事前に何度も話し合ってはいるが、
拘束の際は誰が何を仕出かすか分からない為、それが少し不安ではあった。
そんな一抹の不安を感じながらも、今回の任務はそれなりに安心感もあった。
リリーティアは視線を少し横へと移す。
視線の先には、隊の先頭を堂々たる身振りで歩くシュヴァーンがいた。
今回は彼がいてくれることが何よりも心強かった。
そして、自分だけでなく、隊にとっても彼の影響は大きいことを改めて実感した。
〈人魔戦争〉終戦当時は、行く先々で英雄と崇められていた彼。
しかし、いつしか城内だけでなく、市民の前でもあまり姿を見せなくなったために、あの”戦争”の英雄としてのシュヴァーン・オルトレインは世間から次第に忘れられていった。
今ではあの頃のように誰彼と崇めることはないが、彼が隊長でもあるこの隊ではシュヴァーンを仰ぎ見る者が多い。
今回の任務に同行する隊員たちも、いつも不在である隊長がいることに驚きを露にしていた。
気が高揚している者が多く、いつも以上に気を引き締めて任務に取り組んでいることが感じられた。
しばらく道なき道を進み、少しずつ木々との隙間が開けて歩きやすくなってきた時、先頭を歩くシュヴァーンが足を止めた。
彼はリリーティアへ目配せし、彼女が頷いたのを見ると、一人その先へと進んでいった。
彼女は後ろにいる隊員たちへと振り向き、仕草でその場での待機を命じると、側にいるルブランに隊員たちの様子を窺うよう指示を出す。
ルブランが隊員たちと会話を交わしている間、彼女は隊列を組んでいる隊員たちをざっと見渡した。
ルブランに確認をとらせているが、見る限りでは怪我や調子の悪い者がいるということはなさそうだ。
日が昇って数時間、一行は過激派集団の一派のアジトに近付いていた。
今回の任務はもとより隊の数は小規模なのだが、それからさらに隊員たちの数を減らしていた。
それは、道中木々が生い茂った道なき道を進むには、大勢で行軍するには時間がかかる上に、
ガサガサと物音を立てながら進んでいては、大いに目立ち、アジトにつく前に過激派集団たちに見つかっても困る。
そのため、今は隊の人数はすぐに確認がとれるほどの程度で行動していた。
けれど、この任務の帰路に着くときには、過激派の人たちを連行しながらの道中になる為、
彼らを身を確保しながらの魔物との戦闘を想定し、森を抜けた辺りで別動隊が待機している。
また、アジトでの身柄拘束の際に緊急の事態が起きた場合には、伝令を担う隊員に彼らへ応援を頼むよう手筈を組んであるが、そうならないことを願うばかりだ。
ルブランから異常はないという報告を受けたのと同時に、アジトへ偵察に行っていたシュヴァーンが戻ってきた。
情報通りこの先にはアジトがあり、そのアジト内には過激派集団もいたということだった。
それだけでなく、聞き取れた会話の中には帝都各地を爆破し混乱に陥れるという話もしていたという。
それを聞いて、その前に騎士団が動いたことに安堵しつつも、
彼ら以外の反<帝国>勢力集団の過激派たちも、それを行う危険があるのだと思うと早く鎮圧させなければという思いも増した。
情報の一致とアジト内の様子から、事前に話し合っていた通りに一行は行動を開始し、アジトを取り囲むようにして配置についた。
リリーティアは木の影にその身を潜めながらアジトを窺い見てみると、開けた場所の中に一軒の小屋があった。
壁はボロボロで大半が植物に覆われた、もう何十年以上も放置されたような古い小屋だ。
よくこんな場所を見つけたなと、彼女は少し呆れにも似た気持ちでそれを見る。
こんな森の中なら身を隠すには最適なのかもしれないが、結界もなく、森の中であるからいつ魔物たちに襲われてもおかしくない。
危険な場所をわざわざアジトとすることが、彼女には理解できなかった。
そうまでして<帝国>に恨みを晴らしたいのか、関係のない人たちを巻き込んでまでして。
そんなことを考えて、彼女は内心はっとして、その表情を曇らせた。
彼女はおもむろに己の左の手を見詰めた。
何の変哲もない左の掌(てのひら)。
それが一瞬、朱(あか)に染まったように見えた。
----------関係のない人たちを一番に巻き込んでいるのは、私だ。
リリーティアは表情を僅かに歪めると、その手を胸の前で強く握り締めた
彼女はすぐにその思考を切り替えた。
特別補佐としての自分へと。
彼女は、暗澹たる気持ちを振り払い、シュヴァーンの指示をただ静かに待った。