第14話 騎士
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「-------補佐!リリーティア特別補佐!」
「!」
物思いに耽っていた彼女は、自分を呼ぶ声にはっとした。
「大丈夫でありますか?」
「あ、はい」
気づくと、ルブランがまた心配した面持ちでこちらを見ていた。
「やはり、無理をなさっているのではありませんか? 明日の任務は我々にお任せして、少しお休みになられたほうが・・・。明日は隊長も来て下さるようですし」
「いえ、私は大丈夫で-------え、シュヴァーン隊長が?」
リリーティアは内心驚きながら、シュヴァーンへと視線を向けた。
物思いに耽っている間に話していたのだろう、シュヴァーンも共に明日の任務へ向かうようになったようだ。
しかし、彼には密命がある。
それにギルドの街であるダングレストと、ここザーフィアスまでの行き来はけして楽とはいえない。
遠い道のりを行き来しているのだから、彼女としては休めるときに少しでも休んでほしいという思いがあった。
「はい!次の任務は急がなくても良いとのことで」
「ああ」
頷くシュヴァーンを彼女は戸惑った表情で見る。
彼が共に来てくれるならば、確かに心強いものであり、何より隊員たちの士気も上がるだろう。
それでも-------と、彼女は惑う。
彼にはギルドでの生活がある。
未だギルドでの生活がどんなものなのかは知らないが、彼にとっていい影響を与えているのはもう知っている。
レイヴンとしての彼と何度か接するうちに、段々とそれを強く感じていた。
だから、彼自身は騎士としてここにいることをどう思っているのか。
それが気がかりでもあった。
自分が感じているように、彼自身もギルドのほうが居心地がいいと感じているのなら、無理をしてまで騎士団にいてほしくはない。
----------少しでも、そう、ほんの少しでもいい。彼が”彼”でいられるのなら・・・。
リリーティアは胸に疼きを感じ、眉を潜める。
その疼きには、なぜか寂しさにも似た感情も入り混じっているような感じがして、自身のことながら戸惑いを覚えた。
「リリーティア特別補佐殿!」
「っ!!」
ルブランに声を大にして名を呼ばれ、彼女は再び我に返った。
「む・・・、リリーティア殿」
「え、あ・・・、な、なんでしょうか?」
ルブランは眉を寄せて、彼女の顔を凝視している。
「やはり無理をしてらっしゃるのですな!先ほどから心ここにあらずというように見受けられますぞ!怪我が痛むのではありませんか?ですから、あれほど無理をせずにと-------!」
「怪我?」
シュヴァーンは訝しげにリリーティアを見た。
「ルブラン小隊長!・・・本当に大丈夫ですから、少し考え事をしていただけで」
ルブランが怪我の事を口にした途端、リリーティアは内心焦った。
怪我はシュヴァーン隊の皆が知っている事であるから、隠さずともいずれは彼の耳にも届くかもしれなかったが、それでも彼女は、彼には余計なことで煩わせたくはなかったのだ。
「実は、先の任務で怪我を負いまして-------」
「・・・・・・」
リリーティアは至って何事もないがの如くに振舞うが、シュヴァーンは怪訝な目で彼女を見ている。
「怪我といっても、そんなに大した怪我ではありませんので-------」
「・・・・・・」
彼女がそう怪我について説明するも、彼の視線は何かを疑うようなものであった。
黙したまま、彼女をひたと見据える視線はどこか痛い。
「しばらく治癒術師の方に看てもらっていたましたし、今はもう大丈夫だと-------」
「・・・・・・」
リリーティアは何とか笑みを浮かべ、疑惑の目の向ける彼を見る。
それでもシュヴァーンの視線は何ら変わらない。
明らかに疑っている。
「本当に大した怪我ではなくてですね、今は怪我もよくなりたしましたから」
「・・・・・・」
そう言葉を繕っても、彼の疑いの目はやはり変わらないままで。
「そうですよね、ルブラン小隊長!」
とうとう、彼の無言の視線に居た堪れなくなった彼女は、それから逃げるようにルブランへと助けを求めた。
「と言われましても、実際怪我をされた様子を伺っていませんし。任務で怪我を負ったとしか知らせ聞いただけですので、いやはや何とも・・・・・・」
ルブランは困ったように笑いながら、頭に被る兜を撫でる。
いつも騎士団の仕事を補い助けてくれる彼。
今こそ何かしらのフォローをしてほしかったと、彼女は心の中で嘆き項垂れる。
シュヴァーンの方へと恐る恐る視線を戻すと、彼は何か言いたげな表情でこちらを見ていた。
「シュヴァーン隊長、ルブラン小隊長、怪我のほうはもう大丈夫なのです」
リリーティアは真剣な眼差しを向けて、シュヴァーンとルブランへと向き直った。
そして、深々と頭を下げる。
「どうか明日の任務は私もよろしくお願いします」
ただでさえ、普段から騎士団の仕事のほとんどはルブランを始め、シュヴァーン隊の隊員たちに任せっきりになっている。
だから、出来る時には騎士団の仕事を少しでも務めておきたかった。
深く頭を下げる彼女に、ルブランは困惑した表情で隊長であるシュヴァーンを見た。
彼はルブランに一瞥すると、内心苦笑を浮かべて、頭を下げ続ける彼女を見据えた。
----------変わらない。
シュヴァーンはそう思った。
彼は具体的な過去の記憶には触れず、ただ記憶の一片一片を思い返した。
無理をしてでも事を成す姿勢は記憶の中の彼女と同じだった。
そんな彼女だから、怪我も完治と言えるほど治ってはいないのだろう。
彼は最初からなんとなくそれを察していた。
さすがにどれほどの怪我を負ったのかまではわからないが、任務の内容を話せないのならそれも仕方がないことだった。
その任務が騎士団長からの密命であるのなら、尚のこと-------。
シュヴァーンは、一度目を閉じて短く息を吐くと、その口を開いた。
「よろしく頼むのはこっちのほうだ。明日はよろしく頼む、リリーティア、ルブラン」