第14話 騎士
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
************************************
「明日の任務は、夜が明ける前にここを発ちます」
そのあと、リリーティアはルブランと明日の任務について話し合っていた。
その任務とは----------反<帝国>勢力の調査、その過激派の身柄拘束。
<帝国>の政策に反発心を持った者の集まりで、帝都の各地で爆発物を用いて<帝国>政府を威嚇している過激派集団だ。
その過激派集団のテロ活動は、時として関係のない一般市民をも巻き込み、多くの人が犠牲になっている。
寧ろ、被害にあっているのは<帝国>の人間よりも一般市民の方が遙かに多い。
実際、過激派の中には、<帝国>へ対する抗議活動というのは建前で、日頃の鬱憤を晴らすためにただテロ活動を行っている集団もいるのだ。
最近、もっぱら彼らの活動が頻繁になってきており、<帝国>としても早く鎮圧を図りたいため、帝都中を捜索し当事者らの拘束に力を注いできたが、それでも活動が収まる兆しはない。
それよりも多くの犠牲の原因となっている爆発物の出処を抑えられれば、テロという危険な活動は幾分か収まるのだろうが、
どこからその爆発物を入手しているのか、はっきりとした出処が掴めないでいた。
もちろん捕らえた者たちを聴取をしてきたが、ある集団から入手したと話すものの、結局最後には出処が掴めなかった。
これまで何度か調査を重ねたが、爆発物の入手経路は途中で霧がかかったかのように、経路先が分からなくなってしまうのだ。
巧みに欺かれたその流通経路に、騎士団は半ばお手上げ状態なのが現状だった。
「今回で見込みがつけられればいいのですが」
「そうですね。ルブラン小隊長や、シュヴァーン隊の皆さんがいつも頑張って下さっているというのに」
そして、この過激派集団に関する任務は主にシュヴァーン隊が請け負っている。
もともと、この問題はあまり深刻視されていなかった。
なぜなら、当初の反<帝国>勢力の活動は、<帝国>に対する理不尽な政策について市民たちの前で講じていたに過ぎず、
時にその集まりの中で暴動が起きることがあり、その度に騎士団が止めに入ることがあっても、今のように活動に参加してない無関係な人までも巻き込むような、しかも爆発物を使用してまで危険なことをする集団ではなかったのだ。
その当時は、ただ彼らの暴動を抑えることが主な仕事だったこの問題。
それはつまり、大した手柄にもならない面倒な仕事であったということであり、そういった面倒なことは、平民出身の集まりである騎士団にやらせればいいとでもいうように、シュヴァーン隊へと任されたのが本当のところであった。
現にこれでだけでなく、他にいうと、何かの理由、例えば違法な物品を没収した場合はシュヴァーン隊でその没収品を管理し、
また、平民の中でも貧しい暮らしを余儀なくされている下町の住民たちの税金徴収の仕事もシュヴァーン隊がすべて請け負っている。
その幾つかの常務の中で、最も大変なのは下町の税金徴収の仕事である。
一日一日の暮らしを終えるのに精一杯な下町の人たちにとって、さらに税金を支払わなければならないというのは、命を削るようなものといっても過言ではない。
下町の税金の徴収率は毎回悪く、滞納になっている軒は数え切れないほどある。
貧しいといえど法により見逃すことはできないため、下町の人たちには無理をしてでも払ってもらうしかないのだ。
そのため、シュヴァーン隊が強制的に税金の取り立てを行う度に下町の人たちとひと悶着があったり、時に下町の子どもたちが取り立てを阻止しようと罠を仕掛けることもあるようで、その罠にかかって隊員たちが怪我を負ったという報告もしばしばであった。
このように、下町の税金徴収は毎回うまくいかずに問題が起きているので、貴族出身の騎士たちは面倒この上ない仕事だと思っており、
また、徴収率が悪いのを理由に、能もない騎士団だと馬鹿にした態度を露にしている貴族出身の騎士たちの姿を何度も見てきた。
面白いものを見るかのように、シュヴァーン隊の請け負う任務を嘲笑している貴族出身の騎士たち。
結局のところは、能力も何も平民出身者というだけで、彼らの態度は変わることはないのだろう。
「いや、ですが・・・、これまでに何度か捕り逃してしまったこともあり、我々の尽力が足りず-------」
「いえ、よくやってくれています」
ルブランの言葉を遮って、リリーティアはきっぱりと言った。
実際にルブランたちはこの問題に真剣に取り組んでくれている。
寧ろ、彼らの尽力に答えられていないのは自分のほうだと、彼女は常に申し訳ない気持ちで一杯だった。
「明日の任務は私も行きます」
「・・・もう怪我はよろしいので?」
ルブランは心配した面持ちで問う。
怪我とは、以前に行ったヘルメス式魔導器(ブラスティア)の実験にて、竜使いの襲撃によって受けた傷のことである。
幸い命に別状はなかったものの、それでも医師から見て怪我の状態はそれなりに重いものだったようだ。
実際、怪我を負った後、しばらくは体中に痛みが走り歩くのもままならなかった。
半月の後、日常の生活を送る分には支障はなくなったのだが、ひと月が経った今でも医師には無理な運動は避けるようにと言われている。
リリーティアが怪我を負ったということは、シュヴァーン隊の皆にも耳に入っていることだが、実際の怪我の重さや怪我を負った理由は伏せたため詳しくは知らない。
そのため、ほとんどの者が深刻なものだとは認識していないはずなのだが、それでもルブランは何かと彼女の身を案じているようで、仕事に復帰してからも幾度がこうして聞いてくれる。
彼だけでなく、シュヴァーン隊の隊員たちは気にかけてくれているようで、これまでに何度か声をかけてくれたことがある。
その度に心配をかけている申し訳なさと、心配してくれることに嬉しくも感じ、同時に隊員たちのその優しさは”きっとルブラン小隊長を見ているからなのだろう”と彼女は思った。
「はい、もう大丈夫です。心配して下さってありがとうございます」
それでも、ルブランは心配した表情で窺い見ていたが、、彼女はそれに気づかないふりをし、再び明日の任務についての話しに戻した。
そうして、しばらく二人が明日の任務の段取りについて話している時だ。
----------ガチャ
「「?」」
突然部屋の扉が開く音に、二人は扉の方へと視線を向けた。
「シュヴァーン隊長!お勤めご苦労様であります!」
開いた扉から現れたのは、シュヴァーンだった。
ルブランはいつものように張りのある声と共に敬礼をし、尊敬の眼差しで彼を見る。
リリーティアはルブランの声に一拍遅れてはっとすると、すぐさま敬礼をして「お疲れ様です」とルブランに倣った。
二人の言葉にシュヴァーンは短く返事を返すと、彼の執務室である部屋の中に入った。
「お戻りになられていたのでありますか」
「ああ」
「もしや、また密命を?」
こうして時折姿を見せても、またすぐに次の任務に勤め出ていく自分たちの隊長であるから、
毎回の如く、ルブランはこの会話の流れをしてきたようだ。
「まあな」
「では、やはり明日の任務は同行出来ないのでありますか、・・・いやはや、残念であります」
今回もまた任務から帰ってきた隊長は、すぐに次の任務に向かうのだろうとルブランは分かってはいたが、それでも、明日の任務を尊敬する隊長と共に行うことが出来たらという淡い期待も少なからずあったのだろう。
その期待が望めないことだったと分かると、落胆した面持ちを見せた。
「(密命・・・、閣下から何の指令があったんだろう・・・?)」
リリーティアは少し不安な気持ちでルブランと話している彼を見た。
ギルド員として知り得たことを騎士団長に報告するのが、今の彼の主な仕事だ。
他には危険な秘境に赴いてアレクセイの望む貴重な情報を持ち帰ったりもしている。
その情報の中には、彼女が行っている研究の際にも役に立つものがあり、大いに助かっていた。
それでも、彼女はアレクセイが彼を呼び出すたびに不安だった。
大体はさっきも言ったように必要な情報を求めて、彼を呼び出しているようだ。
けれど、ただひとつ気がかりなことがあった。
それは、-------------- 評議会との暗闘に携わっていないかどうか。
彼がシュヴァーンとしてのしばらくは、その最前線に立っていた。
評議会の暗闘。
つまり、裏で不道理な手段を用いて、己の思惑どおりに事柄を動かすということ。
それに携わるということは、不道理な手段を執行する者になるということであり、公にできないことをその手で行うということだ。
たとえば、----------命を奪うような。
----------もう二度とあんなことに携わってほしくない。
リリーティアは、無意識に左手を握り締めていた。
----------最前線に立つのは、この私で足りている。
心の内でそう呟く言葉は誰かに向けての言葉のようであり、自分自身に言い聞かせているようでもあった。
自分ひとりでもやれるのだと。