第16話 日常
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「ラピスロス!」
リリーティアが魔術を唱える。
すると、大小様々な大きさの石が降り注ぎ、獣型の魔物を攻撃した。
魔物は地面に伏して、そこで息絶えた。
「はっ!」
リリーティアの後ろでキャナリが残り3体の魔物に弓を射る。
しかし、1体には命中したが、あとの2体は少し掠っただけで、矢はその先の木に刺さった。
「早いわね」
キャナリがぼやく。
相手をしている魔物は動きが素早く、その俊敏さで弓の攻撃からもほとんど軽々と避けていた。
「宵闇を纏いし王鳥 紅き瞳に捕らえし者を決して逃さん」
リリーティアの足元に紫色の術式が浮かぶ。
ここは帝都から少し離れた場所に位置する森の中。
彼女は今、キャナリと共に魔物の狩りを行っている最中だった。
「行け、ウンブラオルニット!」
彼女の前に術式が浮かび上がると、そこから影のような漆黒の大鳥が現われる。
その大鳥は喊声(かんせい)をあげると、赤い瞳がぎらりと光り輝いた。
瞬間、時間が止まったかのようにすべての魔物たちの動きが完全に止まった。
漆黒の大鳥は一瞬の速さでその敵に向かって突撃し、魔物たちはその攻撃に大きく怯む。
キャナリはその機会を見逃すことなく、弓で魔物の急所を捉えた。
魔物たちは甲高い啼き声をあげると、力なくその場に倒れ、それ以上起き上がることはなかった。
「これで最後かしら」
そう言いながら、キャナリは周りの気配を探る。
彼女と背中合わせにいるリリーティアも、《レウィスアルマ》を手に構えたまま視線だけを動かしていた。
「この一帯にはもう魔物はいないようね」
「はい、そのようです」
リリーティアはふっと息を吐くと、《レウィスアルマ》を鞘におさめて周りを見渡した。
辺りには魔物の屍体が転々と転がっている。
その中で、その魔物たちをキャナリ小隊の隊員たちが、用意していた荷車に次々と積み上げていくのが見える。
この森の中には二人だけでなく、キャナリ小隊の隊員全員がいて大掛かりに魔物を狩っていたのだ。
空が茜色に染まる頃、リリーティアをはじめキャナリ小隊たちはその森を抜けて、その先に見える帝都ザーフィアスを目指した。
「下町のみなさん、喜んでくれるといいですね」
リリーティアは空を見上げ、下町の人たちの顔を思い浮かべた。
「こんだけあれば喜んでくれるっしょ」
「ええ、そうね」
頭の後ろで手を組みながらダミュロンがそういうと、リリーティアと並んで歩いているキャナリもそれに頷いた。
「それよりリリーティア、最近はどう?少しは落ち着いてきたのかしら?」
「あの時と比べると、この帝都周辺の状況はだいぶよくなってきたからでしょうか。ここ最近、評議会からは何も言ってきません。・・・・・・寧ろ、もう全て終わったかのような様子で」
リリーティアは顔を曇らせ、帝都のほうをじっと見詰めた。
ペルレストが壊滅したという事態から早二ヶ月。
この事態で混乱の中にあった<帝国>だが、キャナリ小隊たちによる帝都ザーフィアスを中心とするマイオキア地方の安全確保の徹底、
そして、今回のような”狩り”を何度となく重ねてきた成果が実り、マイオキア地方の状況は急速に改善されていった。
だからなのか、評議会はこの事態に関しての話題は一切触れてこなくなった。
それまでは会議があるたびに、なかなかよくならない状況に何かと騎士団に対して圧力をかけてきていた。
それは、街が滅びた原因を究明しているリリーティアに対しても同じ態度で、いつまで経っても究明に至らないことに彼らは彼女にも威圧的であった。
しかし、ここ最近になって、評議会はそのことについて問い詰めてこなくなったのである。
「それはそれで、また困ったものですな」
ヒスームは評議会の様子を耳にして呆れ果てている。
彼だけではなく、傍で聞いていたキャナリもダミュロンも同じ様子であった。
「はい、そうなんです。まだまだ多くの人たちが不安の中にいるというのに・・・・・・」
評議会からの圧力が収まったことに、リリーティアも少しはほっとしたが、反面、強い憤りを覚えた。
まるで遠い過去のように忘れ去っているような、そんな評議会議員たちの態度にはやるせなさが込み上げる。
改善されつつあるのは事実だが、それはあくまで帝都ザーフィアスを中心とするマイオキア地方の話。
マイオキア地方はイリキア大陸の南半分でしかなく、北を占めるペイオキア地方、その他の大陸の情勢に関しては、
定期的に騎士団を派遣しているが、依然厳しいままだというのが現状だった。
魔物の出没増加とその凶暴化、そして、都市の壊滅という事態にまだまだ多くの市民が不安に陥り、魔物による被害も各地で起きている。
だというのに、評議会は自分たちが住む地域周辺が安全になってきたと知った途端にあの変わりよう。
”己が良ければ他はどうでもいい” という評議会の振る舞い。
そんな彼らのあからさまな態度に、アレクセイは強い怒りを通り越してほとほと呆れ果てているほどだった。
「リリーティアは?」
「?」
「ちゃんと休んでる?」
「あ、はい。まだあの事態の究明には至っていませんが、以前より少しは余裕が出来てきましたので、休める時間もちゃんと取れています」
都市壊滅の原因を調査しながら、騎士団たちと市民の安全確保の活動を行い、忙しなくしていたリリーティアも、以前と比べると少しは落ち着いていた。
「本当に?」
リリーティアの無理をする性格をよく知っているからか、
彼女から「休めている」という言葉を聞いても、ただやせ我慢してるのではないかとキャナリは何かと心配した。
「はい。本当ですよ」
けれど、実際にきちんと休む時間が取れているのは本当のことだった。
リリーティアはそれを分かってもらうために満面の笑みを浮かべて頷いた。
その笑顔に無理をしているのではないと分かったキャナリは、安心したようにほっとした笑みをみせた。
「そーいやぁ、リリーティアが他の街を回っている間、ほんと心配してたもんなあ?」
「そうそう。無理をしてないか、危険な目に遭っていないか。それに、ちゃんと寝ているのかって、ずっと心配してましたよ」
ダミュロンが悪戯っぽい笑みを浮かべてキャナリを横目で見ると、そんな彼の後ろからひょっこりと顔を出して、にこにこしながらソムラスも話の輪に入ってきた。
「毎日のように口癖のように言ってたよな~?」
ゲアモンがそう言うと周りの仲間たちも揃って頷いている。
そこまで心配してくれていたとは露とも知らなかったリリーティアは、何度も目を瞬かせてキャナリを見た。
見ると、彼女のその顔は少し照れている。
「し、心配するのは当然でしょう。それに、みんなも人のこと言えないわ。貴方たちだって気にしていたじゃない。それとも何?あれは心配していたフリをしていたってことかしら」
リリーティアの視線から逃げるように、キャナリは茶化す彼らを睨み見る。
「そんな睨まなくたって・・・なぁ?」
「本当のこと言っただけなんだけどねぇ」
「お前たちが冗談めかして言うからだろう」
「ぼ、僕はそんなつもりで言ったんじゃないのに・・・・・・」
彼女の容赦ない鋭い視線に、ゲアモンとダミュロンは不服そうな顔を互いに浮かべた。
ヒスームはひとり呆れているが、ソムラス自身は茶化すつもりなどなく、単に小隊長の様子を話しただけのことらしい。
つまりはとばっちりを受けてしまったのだが、彼が一番彼女の恨めしい視線に怯んでいる。
そんな彼らのやりとりがおかしくて、リリーティアは声を上げて笑った。
みんなと一緒にいる時が何よりも楽しい。
この時、リリーティアは心からそう思った。
実は彼女、数週間前からつい先日まで、都市壊滅の原因究明のためにしばらく帝都を離れていたのである。
そうして今日になって、久しぶりに彼らと任務を共にできたのだが、彼女は改めて、彼らと過ごす幸せを深く感じたのだった。