第14話 想い
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「リリーティア!!なぜあんなことを言った!」
「っ・・・・・・も、申し訳ありません」
「謝って済む問題かっ!!」
騎士団長の執務室にアレクセイの怒鳴り声が響き渡る。
それは部屋の外、広く廊下まで聞こえていた。
リリーティアは慌てて頭を下げると、肩をすぼませアレクセイを恐々と見上げていた。
彼の補佐官である騎士たちは、内心おろおろとした気持ちでその様子を見ている。
「・・・・・・」
「そ、その、騎士団長閣下、もうそのあたりで・・・」
厳しい面持ちでじっとリリーティアを見ているアレクセイに、彼の補佐官である クオマレ が恐る恐る二人の間に割って入った。
「リリーティア殿は閣下のことを想ってこそ、ああ言ったのですし。どうか彼女の気持ちを酌んであげてください」
先ほどの会議に同席していた貴族出身の補佐官 リアゴン もアレクセイを落ち着かせようと宥(なだ)めた。
「・・・・・・はぁ」
アレクセイは大きくため息を吐くと、どさっと力なく椅子に座り込んだ。
机の上に顔を俯かせて両手で頭を抱えると、そのまま動かなかった。
窓からは夕陽が差し込み、部屋の中を茜色に染め上げている。
「閣下、勝手な発言をして本当に申し訳ありませんでした」
「・・・・・・」
リリーティアはもう一度深く頭を下げた。
けれど、アレクセイは黙ったままで少しも反応を見せない。
彼女もこれ以上どう謝るべきか分からず、黙り込んでしまった。
「まったく、君というものは」
しばらくして、アレクセイがその口を開いた。
「閣下?」
リリーティアは彼の様子を訝しげに見た。
よく見ると彼の肩が僅かに震えているのである。
「く、ふふ・・・」
「?」
気付くと周りの補佐官たちも肩を震わせている。
しかも、会議に立ち会った貴族出身の補佐官たちだけが何故か笑いを堪えているのだ。
会議の立ち入りを禁じられている平民出身の補佐官たちはリリーティアと同じ様子で、互いに顔を見合わせて首を傾げていた。
「っははははは!!」
「!?」
最初に声を上げたのはアレクセイだった。
リリーティアは大きく目を見開いて驚く。
それが引き金かのように、笑いを堪えていた補佐官たちも一斉に笑い声を上げた。
「??」
リリーティアは何度も目を瞬かせて、困惑した。
アレクセイがこんなに笑っているところを見るのは久しぶりだったから、尚更だった。
皇帝が床に伏せってからというもの、その忙しさもあってかこんなに大声をあげて笑うアレクセイを見ることは一度もなかった。
いや、それ以前に彼はもともとこんなに大声を上げて笑うことは少ない。
昔ならば親友であるヘリオースの前でそんな姿を時に見たことはあったが、リリーティアが見たそれも数えるほどでしかない。
だから、そんな彼の姿に懐かしささえ感じた
「最後のカクターフの顔、見たか?」
「ああ。もう、あの顔・・・、思い出しただけでも・・・おかしくて・・・っ」
リアゴンと同じ貴族出身で会議に出席していたシムンデルがニヤニヤしながら隣にいるリアゴンに話す。
口元を抑えて笑い声を押し殺しながら、リアゴンはなんとか話している状態だ。
「そんなに可笑しかったんだ?」
会議の内容を知らないクオマレがその二人の様子を見て興味津々に聞く。
「あの狼狽えようは相当見ものだったよ」
「うわ、それはぜひとも見たいもんだったな」
リアゴンの言葉にクオマレと同じで平民出身であるドレムは羨ましげにして彼らを見た。
毎回立ち会っている貴族の同僚の話を聞く限り、いつもは評議会のあの欲望渦巻く会議などには出られないことを残念に思ったことはない。
けれど、今回は違った。
そこまで同僚が、まして騎士団長までもがそれだけ声をあげて笑っている姿を見せられると、今回の会議の様子を見られなかったことが惜しく思えた。
「とくにリリーティア殿の最後の言葉はさすがというべきでした」
「え・・・。あ、いえ、そんなことは・・・」
シムンデルの言葉にリリーティアは戸惑い気味に首を振った。
「それにしても、よくあそこまで言ったものだ」
「す、すみません」
「いや、・・・・・・リリーティア、ありがとう」
アレクセイの口からこぼれた感謝の言葉。
それは、さっきの怒り声とは正反対で、あまりに穏やかな声音だった。
思いがけない感謝の言葉にリリーティアは驚いて見ると、彼は真剣な眼差しでこちらを見ている。
「あの場で責任を持つと言い切るのには、どれだけの強い覚悟が必要か・・・・・・。本当にすまない。私が君を推して、無理に頼んだというのにな」
「それは違います。私は市民の笑顔を守りたいという想いで自らそれを受けました。すべては私の意志です」
リリーティアは凛とした瞳で口元に笑みを浮かべた。
彼女の言葉にアレクセイは申し訳なさそうにしながら、彼もまた微笑んだ。
「必ず、証明します」
目を閉じ、握り締めた右手を胸に当てて彼女は言う。
それはアレクセイや補佐官たちに向けて言った言葉だったが、その姿は自分自身に向けて誓っているようにも見えた。
「リリーティア殿の想いは評議会などに潰せませんよ」
「評議会の期待を思いっきり裏切ってやりましょう」
シムンデルとリアゴンの言葉に、クオマレ、ドレムもリリーティアへと大きく頷いた。
補佐官の彼らもキャナリ小隊たちと同じく、彼女のことを心から信じている。
「はい!裏切ってみせます」
リリーティアは小さく笑みを浮かべて頷くと、アレクセイの方へと視線を移した。
彼は黙したまま、ただ静かに頷いて見せた。
彼女もそれに応えるように力強く頷き返した。
ペルレストの壊滅。
その事実はリリーティアの信念を大きく揺るがし、その想いをも脅かすものであった。
それでも彼女は立ち止まらない。
周りの信頼を胸に、ただひたすらに前に進む。
彼女は決意を新たに、心に刻んだ。
----------私の想いは誰にも譲れない。必ず貫いてみせよう。
第14話 想い -終-