第14話 想い
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「この度の事態に私も戸惑いを隠せません。私のほうでも一刻も早く対応を見極め、<帝国>のため、市民のために最善を尽くしたいと思っております」
「それで、君自身はこの事態をどう考えておるのかね?」
カクターフは口元で手を組み、鋭い眼でリリーティアを見下ろす。
彼女はその鋭い眼から視線を逸らすことなく、毅然として見上げた。
「閣下がおっしゃっていたように、私のほうもこの事態について詳細な把握が出来ておりませんので、なんとも言えないのですが・・・」
リリーティアはそこで一度言葉を切ると、目を閉じる。
脳裏に浮かぶのはキャナリやダミュロン、ヒスーム、ソムラス、ゲアモン、小隊の仲間たちの顔。
昨日、自分を優しく微笑んでくれたみんなの顔が思い浮かんだ。
彼女は音もなく深く息を吐くと、議員たちを見上げた
「この事態の責任については、私がすべてを負います」
「「「!?」」」
彼女の発言に議員室内はどよめいた。
アレクセイや彼の補佐官らは、あまりの驚きに大きく目を見開いて彼女を見ている。
「ほう。・・・すべてを君が、かね?」
「リリーティア!!お待ちいただきたい!それにつきましては-----」
アレクセイは慌てて立ち上がると、体を乗り出して叫んだ。
彼女の発言を撤回させるために。
「騎士団長、今は彼女に聞いておるのだ。進言は認められぬ」
「っ・・・!」
カクターフの隣に座っている議員の言葉にアレクセイはぐっと言葉を飲み込んだ。
今はリリーティアが発言台の上、評議会議員を除き、それ以外の何者も進言は許されない。
「原因を究明し、その結果次第で・・・ということになりますが」
「君も街が滅んだ理由は魔物の凶暴化にあるというのかね?」
「今はなにも」
「だが、魔物の被害が深刻化してからこの約半年間、何もなかったというのに。それがどうだ。君が施したあれの後になって今回のような事態が起きたのだぞ」
「だからと言って、まだそれが原因だとは限りません。もし、それが事実であったならば、どんな処罰でも受けましょう。ただし・・・」
リリーティアは一呼吸区切り、カクターフをじっと見据え上げた。
「その際、騎士団長閣下に対しての責任の追及は無きよう、お願い申し上げます」
「!?」
「なんだと」
アレクセイはさらに驚きの表情を浮かべると、険しい顔つきになる。
今この時、発言ができないことが何より歯痒かった。
カクターフはというと、眉間にしわを寄せてかどだった表情でリリーティアを見ている。
「あの計画のすべてにおいては、この私が責任者なのです。ならば、私だけが責任を負うべきでしょう。そもそも、閣下を糾弾するのは間違いです」
「何を言うか、部下の責任は上司がとるべきなのは当然のことであろう」
カクターフはうすら笑いを浮かべる。
その笑いは、アレクセイが責任の負うことは無論だという意味を含んでいた。
「私は<帝国>に従事しておりますが、騎士団には属しておりません。そもそも、私は皇帝陛下
「なっ、我々は反対だったのだ!!だというのにこの男!!い、いや・・・、団長は我々の意見もろくに聞かずに」
カクターフは叫んだ。
それに続いて、数人の議員たちも抗議する。
今まで興味もなしに話を聞いていた議員までもが、この時ばかり反論の声を上げた。
「最終的な判断は議員の皆さまによるもので、協約上も評議会が推薦したということになっております。それでしたら騎士団長閣下は責任に問われ、皇帝陛下の補佐を担うあなた方だけが責任に問われないということは、あまりにおかしいことではないでしょうか」
周りからひっきりなしに飛び交う抗議の声。
それでもリリーティアは臆することも、怯むこともなく、毅然とした態度でそこにいた。
「評議会と騎士団長閣下は私を信頼し推薦して下さいました。あの事態を招いたのが事実、私の失態とならば、それは騎士団長閣下や評議会義委員の皆さまを含め、皇帝陛下の信頼を裏切ったということです。<帝国>の信頼を裏切ったとして、私への責任を問い、処罰を下すということでよろしいのではないでしょうか」
議員の皆が押し黙り、互いに他の議員たちの顔を窺い見ている。
「それに、皆様がかねてから仰っていますように、<帝国>の威信を保ちたいのでしたら、・・・そのほうが、
最後の言葉はわざと語気を強めて言った。
私自身の責任とし、<帝国>の信頼を裏切ったとして処する。
そうなれば、私はきっとここにはいられない。
評議会も清々するだろう。
皇帝陛下直々の信頼があるからと、国から全面的に援助されている私のことが気に食わない彼ら。
また、彼らから見れば疑事な政策を行っているアレクセイ閣下と何かと深く関わっている私を煩わしく思っている。
だから、評議会議員の彼らにとって好都合だろう。
私がここからいなくなるということは、煩わしいものが一つ減るということになるのだから。
「ならば事実、君の責任となった場合。いいか、今の地位をはく奪することになるが?」
「相応の処罰です。心して受け入れます」
カクターフの言葉に、リリーティアは目を閉じて頭を下げた。
評議会がアレクセイ閣下に責任を負わせたいというのならば、私が何が何でもそれを阻止する。
処罰を受けて今の地位を失ったとしても、それは構わない。
「ですが、これだけは言っておきます。<帝国>のため、市民のために私はここにいるのです。そのためにあの計画は私の力のすべてを出しきって考えたもの。必ず、間違いはなかったと証明してみせます」
リリーティアには頭から離れない言葉があった。
『余計なことを施すからそうなるのだよ』
それは、カクターフの言葉だ。
みんなのいつも通りの日々を守りたい。
みんなの笑顔を守りたい。
その想いから考え出したあの計画を『余計なこと』として終わらせるわけにはいかない。
彼女の意志は強かった。
「皇帝陛下の信頼、そして、騎士団長閣下の信頼を裏切るわけにはいきません。もちろん、評議会議員の皆さまの信頼を裏切ることも致しません。
ですが、皆様の
「なっ・・・!!」
期待の皮肉な言い様にカクターフや他も議員たちは狼狽していた。
そのあとすぐにカクターフは射抜くような鋭い目でリリーティアを睨み見たが、彼女は表情一つ変えず真っ直ぐな瞳でただ前を見据えていた。
彼女が向けるその瞳に、カクターフは忌々しげな表情を浮かべた。
さっきまでの余裕な笑みは今は何処にもない。
成り行きを見守ることしか出来ないアレクセイやその補佐官たちは、ただ茫然として彼女の後ろ姿を見詰めていた。
そうして、結局この会議で話をつけたことは、本題であったはずの非常事態に対する”今後の対策”ではなく、”当事者の責任追及”のみで終わった。
最後に評議会は「今後の対策は<帝国>騎士団にすべてを任せる」と表明し、会議を閉会した。