第10話 永遠
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「これは是非とも、リリーティアには教官として講義をしてもらうべきだな」
その声に皆がはっとして見ると、そこにはアレクセイがいた。
突然の来訪者に一同が驚いた。
「閣下、いつからいらしたのですか?」
「君が最後の弓を射っていたあたりからだな」
「え・・・!そ、そんな前からですか。それでしたら早く声をかけて下されば良かったのですが」
「いや、水をさすのも悪いと思えてな」
リリーティアは首を傾げると、アレクセイは少し困ったように笑った。
「せっかくのところを悪いが、補佐官らとの会議の時間なんだが」
「!!」
リリーティアは彼の言葉にはっとすると、いつも服の内に仕舞ってある銀色の懐中時計を取り出した。
懐中時計は太陽の光を反射させて、白く光輝く。
反射した光に一瞬目を細めて時間を確認すると、途端に彼女の表情は青ざめていった。
「す・・・す、すみません!い、今すぐに向かいます!本当にすみませんっ!!」
これ以上なく慌てふためき、リリーティアは何度も頭を下げて謝った。
彼女は定刻にアレクセイと彼の補佐官らとの会議の予定が入っていたのである。
会議の時間になっても現われない彼女をアレクセイは捜していたらしい。
「いや、構わんよ。それよりも、何かあったのだろうかと補佐官らが心配していたぞ」
いつも早くに会議室に来ては資料などを確認し会議の準備をするリリーティア。
そんな彼女が遅れるなんてことは、彼女が会議に参加するようになってから初めてのことであった。
最初は何か離れられない用事があって遅くなっているのだろうとしばらく待っていたのだが、
いよいよ現われない彼女に何かあったのだろうかとアレクセイも補佐官らも心配していたのである。
そうして探しに出たところ、この訓練所でキャナリ小隊といる彼女を見つけたというわけだった。
「心配をおかけして申し訳ございません!資料を持って今すぐ参りますので!それでは失礼します!みなさん、訓練のほう頑張ってください!」
息する間もなく一気にそう言うと、リリーティアはアレクセイに一礼してキャナリたちにも一言告げると、全力でその場を走り去っていった。
彼女のその慌てぶりに、そこにいる皆が声を上げて笑った。
「申し訳ありません。私たちが彼女にお願いして、一緒に訓練をしていたんです。いろいろと魔術についても教えて貰って」
「謝らなくていい。寧ろ、君たちには感謝している」
そう話すアレクセイはとても穏やかな表情をしていた。
彼らは何を感謝されたのか分からず、互いに顔を見合わせた。
「リリーティアは・・・、あの子は子どもだというだけで周りから非難されることが多い。まったく理不尽なことだ、誰よりも人一倍努力をしているというのに。中でも国政を担う評議会はどうもあの子の存在が気に障るようでな。 <帝国>の威信に関わるなどと言っては、国が援助してまで彼女に頼る必要があるのかと、あれこれ不満を言ってくるのだ」
彼は険しい表情を浮かべながら、やり切れない思いで話を続けた。
「それがあの子の大きな負担であり、故に無理をし過ぎるのだ。それは、君たちもよく知っていると思うが」
キャナリたちはこれまでのリリーティアの姿を思い返した。
魔導師や技師たちに心無い言葉をあびせられていた姿。
周りからの酷い態度にただ黙って耐える姿。
”私”を見てほしかったからと悲しげな笑みを浮かべていた姿。
出会った日から、何度として彼女のそんな辛い姿を見てきただろうか。
「だが、ここ最近あの子はよく笑うようになった。まぁ、普段からよく笑う子だが。その笑顔にもどこか曇りかがっているような時があった。無理をして笑っている、そう思わせる笑顔が多かったのだ。それも今では、本当に心から笑っている笑顔が増えたようだ」
この時、彼の表情は穏やかなものに戻っていた。
「それも君たちのおかげだ。君たちといるあの子はとても楽しそうで、ありのままでいられている」
アレクセイはとても嬉しそうに微笑んでいた。
これほどまで嬉しげに笑っている騎士団長の姿を見たのは初めてで、キャナリたちは驚いた。
同時に、彼は誰よりもリリーティアのことを気にかけているのだと、ひしひしと感じた。
「だから・・・、どうかいつまでもリリーティアのことを支えてやってくれぬか?」
それは、上官としての命令ではなく、昔からリリーティアの身の上を案じている者の願いが込められていた。
「騎士団長、それは叶えられない願いですよ」
そう言うと、ダミュロンは仲間たちのほうを向いて、何故か悪戯っぽい笑みを浮かべた。
彼の予想外の言葉に訝しげな表情を浮かべるアレクセイ。
「その通りです。なぜなら、その願いは・・・・・」
彼に続き、キャナリが言葉を紡いで一度言葉を切ると、彼らはお互いの顔を見合わせて頷き合った。
そして、困惑しているアレクセイを見据えると、
「「「「「「「もう叶えています」」」」」」」
小隊の皆が声を揃えて言った。
アレクセイは目を瞠り、彼らを見渡した。
「彼女は私たちの大切な仲間です。何があっても、いつまでも、それは変わりません」
キャナリの真剣な瞳。
彼女だけでなく、ダミュロンも、ヒスームも、ゲアモンも、ソムラスも、小隊の皆が同じ瞳をしていた。
アレクセイはさらにその目を大きく見開くと、ふっと苦笑を浮かべた。
「君たちにはやられたな」
そして、彼はとても嬉しげに笑った。
彼らの想いは、この先もきっとリリーティアを支えてくれる。
アレクセイは彼らに心から感謝した。
そんなアレクセイの様子を見て、キャナリたちはしてやったと笑い合った。
そう、すでに決まっていることだった。
あの船の上で、いつまでも仲間だと笑い合ったあの日から。
いや、実際にはもっと前から、出会った時からそれは決まっていたことだったのかもしれない。
互いに支え、支えらえ、共に生きていく。
キャナリ小隊たちの皆が思っていた。
それは、いつまでも変わることなく、永遠に続く絆だと。
第10話 永遠 -終-