第9話 月
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
あれから、ぺルレストの街は一日中お祭り騒ぎである。
結界魔導器(シルトブラスティア)の結界力の強化、結界の範囲が広がったことによって、
今までよりも安全に収穫や漁獲が行えることができるのだから、街の住人たちにとってこれほど嬉しいことはなかった。
魔物の恐怖に恐れ、どこか暗かった雰囲気が島の街ならではの活気のいい街に戻った。
それは、昨日訪れたノール港のような活気に似ている。
そのノール港よりも人が多いためか、それ以上に活気に満ち溢れているようだった。
特に港付近には沢山の露店が並び、街の中でも一際賑わいを見せている。
「すごいわね、これ。リリーティア、大丈夫?」
「せっかく頂きましたけど、・・・こ、こんなに食べられません」
リリーティアたちは以前のように、結界魔導器(シルトブラスティア)に異常が起きないか、
経過状態の様子を確認するために、お祭り騒ぎであるこの街に一日滞在することになった。
その合間に、リリーティアはキャナリと共にお祭り騒ぎの街中の様子を見て回っていたのだが、
彼女が戸惑っている様子なのは、腕の中が抱えきれないほどの荷物に溢れかえっているからであった。
彼女の腕の中だけでなく、キャナリの腕にも同じようにたくさんの物に溢れている。
そのすべてが、リリーティアがペルレストの人たちから貰ったものだった。
計画を無事に成し遂げた彼女に感謝してか、住民たちは彼女を見かける度に店の売り物や様々な食べ物など、半ば強引にともいえる勢いで手渡していったのだ。
あまりの気前のいい住民たちに戸惑いを隠せない彼女であった。
今まで貰った物の半分をキャナリにも持ってもらってはいるが、それでもすごい量で、腕の中は様々な物に溢れに溢れて一杯だった。
中には説明のつかないものまである。
「ははは。またすごいことになってるな」
住民たちから貰った物に埋もれかけているリリーティアに笑いながら、ダミュロンが二人に声をかけた。
「ダミュロン、リリーティアの分、持ってあげてくれないかしら」
「あいよ。しかし、ほんとすごい量だな」
圧倒されながらダミュロンは彼女が抱えている物をすべて自分の腕の中に抱えた。
二人にすべての荷物を持ってもらうのは気が引けた彼女だったが、大丈夫だと言う二人の言葉に素直に甘えることにした。
申し訳なく思いながらも彼女は二人の間を歩きながら街の様子を見て回っていった。
はしゃぎ回る子どもたちと混ざって、大人たちも子どものように笑い声を上げて楽しげに騒いでいる。
どこを見ても皆が笑顔に溢れていた。
彼らの笑顔に、リリーティアのその口元にも笑みが浮かんだ。
「ここの住民たち気前良すぎるよな。俺にだって、そこらへん歩いているだけで店の売り物をタダでくれるんだからさ」
ダミュロンは街の人たちの思いもよらない行動を思い浮かべて苦笑した。
ペルレストの住民たちは、騎士団の人たちにも労いの言葉をかけながら店の売りものをあげたりしているようだ。
「それだけ喜んでいるんだわ」
「ふふ、そうですね。私もとても嬉しいです」
満面の笑みを浮かべたリリーティアのその足取りはとても軽やかだった。
それは無邪気そのもので、等身大の少女がそこにいた。
彼女のあどけない笑顔にダミュロンとキャナリはお互いに顔を見合わせて笑いあった。
時折見せてくれる彼女のそのあどけない姿を見ると、二人はどこか安心した。
それは、キャナリ小隊の皆がそうだった。
今まで彼女と共にして見てきたのは、そのほとんどが皇帝直属魔導博士研究員という肩書きを背負った彼女の姿だ
彼女の立ち振る舞いは、まだ年端もいかない少女だということを忘れてしまうほど、あまりにしっかりとしたものだった。
その姿を傍で見てきたキャナリたちはそのことが気がかりでならなかった。
「無理をしていないだろうか」と。
そう心配になるほど、あまりにも彼女は周りに気を遣い過ぎているように思えた。
そして、彼女に対するアスピオの魔導士、技師たちの厳しい態度に加え、ついひと月前には母親を亡くしたばかり。
未だその悲しみは完全に癒えていないだろうから、周りは余計に心配していた。
だから、ありのままに笑う彼女の姿を見ると二人はほっとするのだ。
「(もう少し甘えてくれてもいいんだけれど)」
「(もう少し甘えてくれてもいいんだけどねぇ)」
キャナリとダミュロンはお互いに同じことを思いながら、嬉しそうに歩くリリーティアを見ていた。
と、突然にも彼女の足が止まり、二人もならって歩くのを止めた。
彼女はじっとどこかを見ているようだ。
「どうしたの?」
「あ・・・いえ、何でもありません」
キャナリの問いかけにはっとすると、リリーティアは苦笑を浮かべて再び歩き出した。
彼女の素振りを不思議に思い、二人は彼女が見ていたほうへ視線を向けた。
その先にはたくさんの露店が所狭しと並んでいて、美しく彫刻された装飾品や雑貨類、中には見たこともない珍しい物まであった。
「もしかして、あそこが気になったのかね」
「そうね・・・」
すたすたと先を歩いていくリリーティアの後姿をじっと見詰め、キャナリは何やら考え込んだ。
そして、もう一度露店のほうを見ると、ダミュロンへと視線を移した。
「ということで、ダミュロン。これ、お願いするわね」
「は?・・・っと、どわぁ!?」
言われたことを理解しないうちに、ダミュロンの腕はずっしりと重みが増した。
途端、彼はバランスを崩すがなんとか荷物は落とさずに済んだ。
キャナリは自分が持っていたすべての荷物を、彼が抱えている荷物の上に積み上げたのである。
彼は何が何だが分からないといった様子で見ると、彼女は既にリリーティアの元へと駆け寄っているところだった。