第9話 月
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澄み渡る青い空には白い雲が浮かび、深き青い海には一隻の船が浮かんでいる。
リリーティアたちは港の町であるノールという港から船に乗り、マイオキア大陸の西に浮かぶ大きな島、ラウライス島に向かっていた。
ノール港からペルレストの街があるラウライス島までは一日半ほどかかる。
帝都から直通でペルレストに向かう行程であれば、その一日半もあれば十分到着する距離なのだが、
今回の任務はアスピオの魔道士と技師たちが同行するために、一行は帝都からアスピオを経由しハルルの街で一泊。
そして、ハルルの街からノール港へ向かい、そこから船でラウライス島へ向かうという行程をとっていた。
昼過ぎにノール港を出航し、ペルレストにつくのは明日の夕方頃の予定だ。
穏やかな気候のもと、ゆったりとした時間が流れる。
だとしても、いつ海の中に潜む魔物が襲ってくるかわからない。
交代に数人ずつで見張りを行いながらの航海としたが、一度も魔物に襲われることなく船の旅は順調に進んだ。
翌日、西の空が茜色に染まる頃、目的地の街があるラウライス島が見えた。
予定通り、一行はペルレストに到着し、エルカバルゼ同様にペルレストの人たちから歓迎された。
結界魔導器(シルトブラスティア)の結界力強化、可能範囲拡大の実施は明日にも執り行い、今夜はそのための準備に追われる。
街の空き家で、リリーティアの指導のもとにアスピオの魔道士、技師たちに明日の詳しい手順を説明していくことになり、
キャナリをはじめ、副官のダミュロンと各班長であるヒスーム、ゲアモン、ソムラスもその話に参加した。
部屋にひとつだけある机の上には、たくさんの紙束の資料、数冊の分厚い本が乱雑に置かれ、
机の周りには四人のアスピオ魔道士、技師が座り、その向かい側にリリーティアが座る。
その彼女の後ろの壁際にキャナリたちが立っていた。
「それではまず、大まかに今回の作業手順を説明していきます」
資料のひとつを手に取り、ページをめくるリリーティア。
彼女はペルレストの結界魔導器(シルトブラスティア)の強化、結界可能範囲の拡大について説明を行っていった。
説明を聞いている間も、アスピオの魔道士や技師たちは、その施策に対して非難に近い質問を彼女に繰り返したが、
それでも彼女は嫌な顔一つせず、丁寧に一つ一つ答えていく。
それがまた相手にとっては不服であった。
「エルカパルゼの時といい、どうしてああなのかね」
「なんだか見てられないわ」
ダミュロンとキャナリが周りに聞こえないように囁くように話す
リリーティアに対する魔道士、技師らの態度は酷く、何を言うにも棘があるものだった。
それを傍から見ていたキャナリたちは、何度として間に入ろうと思ったかしれない。
そうして一通り説明を終えた後は、実際にペルレストの結界魔導器(ブラスティア)の操作盤を弄りながら教えていった。
リリーティアのその目は自信に溢れており、エルカバルゼと時と違って、そこには焦りも、自分を追い詰める様子もなかった。
彼女が冷静な心持ちでいられるのは、重大な責任を負うその背中を支えてくれる人たちがいるからだ。
そう、キャナリ小隊たちがいることで、彼女の心の中には確かな自信と深い安心があった。
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「力場の状況はどうですか?」
「安定している、何も問題は無い」
「分かりました。結界力の強化完了、第二段階に移行します」
翌日。
海に浮かぶ街に緊張感に張り詰めた声が響いていた。
それはリリーティアとアスピオの魔道士、技師たちの声だ。
皆が額に汗をかき、結界魔導器(シルトブラスティア)の操作盤を操作している。
その目は必死そのものだったが、リリーティアは魔道士、技師たちより幾分か落ち着いていた。
今まさに重大な任務を遂行中だった。
街の人たちは少し離れた所でその様子を期待と不安の目で見詰めている。
キャナリ小隊たちはというと街の各入り口を包囲し、異常事態を想定して待機していた。
「術式展開します」
結界魔導器(シルトブラスティア)の操作盤の上に、白く輝く術式がいくつも浮かんだ。
リリーティアと魔導士たちの足元にも同じように術式が輝く。
「エアルの流れを感じて下さい。・・・その調子です」
そう言うと、新たにもう一つの術式が現われた。
さっきよりも倍以上ある大きい術式だ。
「範囲値上昇。結界力値は安定している」
一人の魔道士が現状を報告した。
「わかりました。・・・術式発動!」
頭上にいくつか浮かぶ術式が白く輝きを放つと、それらすべてが一つに重なった。
その白い輪は遥か上空に上昇。
そして、もともとあった三つの大きな輪に、それよりも少し小ぶりな輪が一つ加わった。
途端、元々あった三つの輪が大きく広がっていく。
それは結界の範囲が大きくなっていくことを現していた。
街の入口までだった結界の境界が、目の前に広がる森の中までその境界が広がっていく。
そうして、元の時よりも倍ほどの大きさになった三つの輪と、一番上にはリリーティアたちが組み込んだ輪が浮かび、
結界の輪が三つから四つへ、そして、結界の境界が以前よりも格段に広がったのであった。
「可能範囲値の拡大確認、・・・安定」
「結界値異常なし。すべての値クリアだ」
魔道士と技師の言葉を聞き、リリーティアは安堵の表情を見せた。
「全過程完了。・・・・・・無事に成功です、お疲れ様でした」
リリーティアは額の汗を拭いながら、魔道士、技師たちに頭を下げた。
魔道士、技師たちも同じようにその額には汗がにじみ出ていて、
失敗が絶対に許されないだけに、緊張の糸が張り詰めすぎていたのだろう。
その緊張の糸がやっと解け、魔導士、技師たちはその場で座り込み、大きく息を吐いた。
彼女は近くに待機していたキャナリ小隊の隊員に無事に終わったことを告げると、待機している他の仲間たちにその伝達をお願いした。
瞬く間に、ペルレストの街の人たちは喜びに沸いた。
そして、この街にも英雄が生まれた。