第8話 糸
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夜も更けたというのに、ハルルの樹の下には多くの人の姿があった。
キャナリ小隊たちだ。
小隊たちはキャナリからここへ集められた理由を聞く。
「それいいじゃんか!」
話を聞いて、第一声を上げたのはゲアモンだった。
「皆でお花見とは楽しそうですな」
「絶対楽しいに決まっていますよ!もう待ち遠しいですね!」
「ソムラス、少しは落ち着けっての」
皆が楽しそうだと口々に言い合い、その声は弾んでいた。
その反応からも分かるように、花見をすることは一同で大賛成だった。
皆の楽しげなその様子に、リリーティアは胸が高鳴るのを感じた。
「みんな、これは単なる約束じゃないわ。誓約よ」
誓約。
それは ”必ず ” 守ると誓うこと。
そこには絶対に叶えるというキャナリの強い想いがあった。
「だれが破るかっての。絶対にやろうぜ」
その言葉にも力強さがあり、彼なりの想いがあった。
「私たちはこのハルルの樹の下で、リリーティアと、そしてあなたのお父様、お母様とお花見をすることを誓うわ」
キャナリがそういうと、リリーティアに向けて皆が一斉に敬礼をした。
それは”誓う”と宣言した証。
彼らの証立てる姿に、彼女は心が震えた。
「みなさん・・・」
嬉しくて嬉しくて、リリーティアは胸の前で両の手をぎゅっと握り締めた。
まだ、心の震えはおさまらない。
例えようのない感情が胸一杯に溢れに溢れ、唇が震える。
そして、彼女は大きく息を吸った。
「聞こえた!お母さんっ!」
ハルルの樹を見上げながら彼女は叫んだ。
「私と、お父さんとお母さん、そして、ここにいるみんなとお花見するよ!お母さんとの約束、絶対に叶えるから!楽しみに待ってて!」
ここで見守ってくれているであろう母に、この声が届くように声を張り上げた。
胸に溢れる名もない感情を、その言葉に、その声に乗せるように。
「(ちゃんと届いたかな・・・)」
母に届いたこと願いながら、花びらが穏やかな風に舞う様をじっと見詰めた。
瞬間、強い風が吹いた。
思わずリリーティアは目を瞑る。
----------「待ってるわね」
「ぇ・・・?」
強い風の音と共に聞こえた、声。
リリーティアは目を瞠り、花びらが上空に舞い上がるのを呆然と見詰めた。
「(今の・・・声・・・)」
けれど、周りを見ても他の者たちは何も気にした様子はなく、
聞こえたと思った声は彼らには一切聞こえていないようだった。
「(でも・・・、あの温もりは、やっぱり・・・)」
リリーティアは知っている。
風に聞こえたその声も。
風に感じだその温もりも。
「(・・・・・・お母さん)」
あの声は自分の気のせいだったのだろうか。
リリーティアは唖然としてハルルの樹を見上げた。
母に会いたいが故に聞こえた幻聴だったのだろうか。
けれど、心の何処かで、あれは母の声だと思っているのも確かだった。
「リリーティア」
キャナリの声にはっとして振り向くと、
「お花見、楽しみね」
彼女が優しげに微笑でいた。
その周りでは、ダミュロンたちが和気あいあいと花見のことで話しに花を咲かせていて、時々ふざけ合っているのが見える。
そんな彼らの楽しげな姿にリリーティアは胸が踊った。
「はい!」
キャナリに向けて、リリーティアは満面の笑みを浮かべた。
母を失った悲しみはけして消えることはないけれど、彼らとの約束が彼女の心を優しく包み込んだ。
月の光が降り注ぎ、ハルルの花びらが風と共に踊る夜の下。
母との願いを叶えるために交わされた新たな約束。
絶対に守ると誓った言葉。
その誓約はリリーティアの心を支え、リュネールの死を乗り越える力になっていく。
そして、それはまた、彼女とキャナリ小隊たちの絆を紡ぐ、強い糸となるのだった。
第8話 糸 -終-