第7話 願い
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その夜。
リュネールの亡骸が帝都に搬送された。
リリーティアはただじっと、リュネールの棺が運ばれるのを見詰めていた。
一切、表情を変えずに。
騎士団本部にある小さな中庭。
芝生には小さな白い花があちらこちらで咲き誇り、吹き抜けになっている天井からは月の光が差し込んでいた。
その光は白い百合の花に包まれた棺を優しく照らす。
この小さな一角には多くの人たちが並び立ち、リュネールの死を弔でいた。
大勢の人たちに見守られながら、リリーティアは棺の前まで静かに歩み寄った。
その中では、穏やかな表情で眠る母の姿があった。
汚れは拭き取られ、傷も最小限に治癒したのだろう。
その綺麗な身なりに、今にも目を覚まして、この事実が嘘になってくれるのではないかとさえ思った。
けれど、母の死は変えられようのない事実でしかなかった。
リリーティアはしばらく黙ったまま、穏やかに眠る母の顔を見詰めていた。
虫の音だけが、小さな中庭に響く。
しばらくして、彼女はゆっくりと右腕を上げ、握り締めた拳をそっと自分の左胸にあてた。
それは騎士の敬礼だった。
「おかえりなさい、リュネール隊長。騎士のお務め、お疲れ様でした」
静かな声。
それでも、この小さな中庭ではその声はよく響いた。
「私は、誰よりもあなた尊敬し、そして、いつまでもあなたの心を忘れません。ここに今、誓います」
その言葉は、ひとりの人間として、リュネールへ敬意を表した言葉だった。
騎士は常に市民の為にあるもの、それが騎士の誇り。
それは、いつもリュネールが言っていた言葉。
騎士としてのその心を忘れないと、彼女は誓ったのだ。
そして、彼女は敬礼を解いた。
胸の上で組んでいるリュネールの青白い手を両手で強く握り締めた。
「お母さん・・・。私は、お母さんの娘で、本当に、本当によかった。・・・ありがとう。・・・・・・生んでくれて、ありがとう・・・お母さん」
その言葉は、娘としての心からの感謝を表した言葉だった。
愛していると最期に言ってくれた母への想いを胸に、娘からの心からの想いを伝えた。
誰よりも騎士としての彼女、母としての彼女を尊敬し、目標にしてきたリリーティア。
娘から母への最期の言葉は、そこで見守っている皆の心にも響いた。
彼女が紡いだ別れの言葉は、優しくも強く、また儚くも揺るぎない、深い想いだった。
母の死を前に、しっかりとした出で立ち。
そこには、13歳の子どもだということを忘れさせられるほどに、大人びた立ち振る舞いだった。
けれど、その凛とした彼女の姿は、見守る者たちにとっては、それがまた深い悲しみを誘った。
いくら毅然とした振る舞いをしているとしても、母親を亡くしたという現実は誰が思っても辛い現実だということは解る。
皆が彼女の心の内に抱える痛みを思った。
そんなリリーティアの様子を、キャナリたちには少し離れた場所から見ていることしか出来なかった。
どんな言葉をかけていいのか分からない。
それは、リュネールの親友であるアレクセイや、彼女の亡骸を帝都まで運んだリュネール隊の隊員たち、ここにいるすべての者たちがそうであった。
リュネール隊の人々は意気消沈としてその場に泣き崩れる者が大半だった。
それだけ、リュネールは部下に信頼され、また多くの騎士が尊敬していたのだ。
そして、それは彼女の慕っていた市民たちも同じだった。
だからこそ、彼女の死は多くの市民が嘆き、悲しんでいた。
今宵、帝都は深い深い悲しみに包まれた。