第7話 願い
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程なくして、ハルルの街からいち早く戻ったリュネール隊の者から、リュネールの死因についての詳しいことを聞いた。
リュネールが亡くなったのは今朝のことだった。
リリーティアたちがハルルを経った翌日の朝。
リュネールはいつもと変わらず、ハルル周辺の安全確保に取り組んでいた。
そんな時、『子どもたちが街の外へ出て行った』という報告がリュネール隊に届いた。
リュネール隊の姿を見ていて騎士に憧れた幼い少年少女が『魔物を倒すぞ!』と意気込んで街の外に出たということだった。
しかも、そこらへんに落ちているような木の棒だけしかその手に持たずに。
街の外は魔物が潜む危険な場所。
ただでさえ今は魔物が凶暴化し、その出没も増加傾向という厳重な警戒態勢が敷かれている状況化の中にある。
まして、武醒魔導器(ボーディブラスティア)も無く、幼い子どもたちだけで魔物と遣り合うなど、自殺行為といってもいい。
実践訓練を受けている騎士団でさえも、凶暴化した魔物たちとの戦闘は苦戦を強いられることが多いのだ。
リュネールは早急に隊を率いて、その子どもたちの捜索にあたった。
ようやくその子どもたちを見つけた時には、魔物に囲まれ襲われそうになっている所だった。
そうして、リュネール隊はなんとか子どもたちを助け出した。
しかし、安心したのもつかの間のことだった。
その帰りに魔物の大群に襲われてしまったのである。
その数はあの時リリーティアたちが相手をした以上の魔物の数であった
子どもたちを守りながら、なんとかして魔物の群れを突破しようと戦い続けたリュネール隊。
そんな時に一人の子どもが勇んで魔物に飛びかろうとした。
当然太刀打ちできるはずもなく、魔物たちに襲われそうになったその子をリュネールは身を呈して庇ったのだ。
その時、彼女は命に関わるほどの深い傷を負ってしまったのである。
しかし、そんな致命傷を負ったのにもかかわらず、リュネールはしっかりと地に足を着き、魔物たちと戦い続けたのだという。
けれども、なかなか減らない魔物の数にリュネールはひとつの決断を下した。
隊を二つに分けることにしたのだ。
戦力は落ちるが、それは子どもの命を必ず守るのためにとった判断だった。
リュネールのことを話す部下は一度、そこで口を噤んだ。
険しい表情を浮かべると、音も無く息を吐く。
そして、彼は姿勢を正すと、騎士の敬礼をしてその時の様子を改めて話し始めた。
隊を分けて、子どもたちを先に行かせたあと、
魔物たちを食い止めるために残った隊を率いるリュネールは、赤く染まった手で愛用の剣を握り直し、顔の前で構えた。
そして、こう叫んだという。
「<帝国>騎士団隊長、リュネール・アイレンス。我が誇りを以って、お前たちを-------倒す!」
静かで凛とした声。
だが、不思議とその声は、魔物の咆哮が響く中でもはっきりと聞こえた。
鋭い目つきで魔物に突進していくリュネール。
その瞳の中には、彼女の想い、信念、今まで抱えてきたもの《すべて》が宿っているようだった。
隊長の凛然たる態度に周りの部下たちは、これまでにない畏れと深い誇りを感じたという。
そして、最期の時を覚悟する隊長の姿をあの時見たと。
リュネール隊は無事にすべての魔物を討伐した。
あれだけいた魔物の数を不利な状況の中で全てを討伐することが出来のは奇跡にも近いものだった。
だが、それ以上の奇跡は起きなかった。
ハルルの街に到着した途端、リュネールはその地に力なく倒れたのだった。
夕陽に包まれたハルルの街の中で、部下たちに見守れながら、
彼女は薄れゆく意識の中で最期にこう告げたという。
「騎士は常に、市民の為に在る・・・もの。・・・それが、騎士の誇り。・・・みんな、今まで、私に付いてきてくれて・・・・・・ありがとう」
----------騎士としての誇りと部下たちへの想い。
「でも・・・私の、理想は消えない。・・・だって、・・・・・・あなたの、心の中に・・・あるのだから・・・。アレクセイ、私は、・・・信じてる・・・」
----------共に肩を並べて歩み続けた親友への想い。
「あの子との約束・・・・・・、守れなかった、ことが・・・悔しい・・・けれど・・・・・・」
---------- 唯一の後悔。
「かけがえのない・・・・・・、私の・・・大切な、娘と、夫に・・・・・・、
誰、よりも、・・・いつま・・・でも、・・・あい・・・し、て・・・いる・・・と・・・つた、え・・・-------」
そして、最後まで言えなかった----------家族を想う母としての深い愛。
本来ならば話すことも到底不可能なはずの傷を負っているのにも拘わらず、彼女は最期の最後に力を振り絞って、すべての愛する者たちのために言葉を遺したのだ。
騎士としての誇り 部下への感謝、親友への信頼、母としての愛情、彼女の中に在るすべての想いを告げ、<帝国>騎士団の騎士の鑑と謳われたリュネール・アイレンスは静かに息を引き取った。
ハルルの街を照らす夕陽はその日は一段と赤に輝いていた。
真っ赤に染まったリュネールの隊服はその夕陽によって、より一層鮮やかな赤に映えていた。
隊長について話す部下はひどく憔悴した顔をしていて、その目は僅かに赤く充血していた。
彼もまたリュネールの死を深く悼んでいることがよく分かった。
最期について伝えてくれた母の部下である彼に、リリーティアは労わりと感謝の意を込めて、深く、深く頭を下げた。
彼女は涙を見せることもなく、取り乱すこともなく、じっと母の最期を聞いていた。
母の死を聞かされても、毅然としている隊長の娘を前にして、部下である彼はただただ頭を下げることしかできなかった。