第6話 約束
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ハルルの街はいつも通りの朝を迎えようとしていた。
空の彼方は白く輝き、もう間もなくして太陽がハルルの街を明るく照らすだろう。
「リリーティア、どんな感じ?」
「うん、昨日と同じでどこにも異常はないみたい。あともう少しで終わるから」
ハルルの樹にリュネールとリリーティアの声が響いている。
リリーティアは再度ハルルの樹の幹にのぼり、結界魔導器(シルトブラスティア)の点検を行っていて、リュネールが樹の根元でその様子を見守っていたのだ。
「おはようございます、リュネール隊長」
「あら、おはよう、キャナリちゃん、ダミュロン君」
二人の元に、キャナリとダミュロンもその様子を見に来たようだ。
「終わったよ、・・・っと」
点検を終えたリリーティアはハルルの樹から軽快に飛び降りると、リュネールの前に着地する。
「今の出力なら、どれだけ魔物の数が押し押せてきても十分に街を守ってくれるよ」
「それなら街の人たちも安心ね」
リュネールはハルルの樹を見上げて、微笑んだ。
「キャナリ小隊長、ダミュロンさん、おはようございます」
「おはよーさん」
「おはよう、リリーティア。朝早くからご苦労さま」
すると、地平線から太陽が顔を出した。
雲一つ無い空から、燦々と太陽の光がハルルの樹を包み込んでいく。
「わあ・・・!」
リリーティアがハルルの樹を見上げて感嘆の声をもらした。
彼女の声にダミュロンとキャナリも見ると、目を見開いて声を漏らした。
「こりゃあ、また・・・」
「きれい・・・」
月光に照らされ仄かに輝いていた夜の時とは違って、朝日に照らされたハルルの樹は力強く輝いていた。
まるで黄金の衣をまとっているかのように美しく、鮮やかな煌きを放っていた。
リリーティアたちはその美しさに一瞬にして目を奪われた。
「いつ見てもこの美しさには感動するのよ」
リュネールは目を細めてハルルの樹を見詰める。
彼女もこれまで何度もその光景は目にしてきたが、それでもこの美しさを前に飽くことはけして無い。
そうして、しばらく彼女たちは目の前の光景に魅了され、静かにハルルの樹を眺めていた。
「大変です!リュネール隊長!」
しかし、そんな穏やかな朝を迎えたはずのハルルは、一変してその声に覆された。
リュネール隊の騎士が慌てて駆け寄ってきたのだ。
見るとそれは、昨日、ハルルの街の入口で話をした第一小隊の小隊長である男だった。
「どうしたの?」
その様子からただ事ではないことを察し、リュネールは真剣な眼差しで部下を見た。
すでにそこには騎士としての彼女の顔があった。
「魔物の群れです!この街の周りを巡回中、南方面にて魔物の群れに遭遇。現在、第2小隊がその魔物と交戦中です」
「「「!!」」」
その報告に反応を示すキャナリとダミュロン、そして、リリーティア。
ただリュネールだけは表情一つ変えることはなく頷いた。
「魔物の数は?」
「およそ50。ですが、それもはっきりとしたものではありません。それ以上の可能性もあります」
「リュネール隊長、私たち小隊も至急応援に向かいます!」
現状を聞いたかみたか、キャナリはすぐさま一歩前に踏み出てリュネールに進言した。
リュネールは一瞬も迷う素振りもみせず頷いた。
「第三小隊はこの街の各入り口に待機、街の守備にあたりなさい。第一小隊はキャナリ小隊と共に救援に向かう」
「はっ!」
第一小隊長の男は敬礼すると、もと来た道を颯爽と駆け出していく。
リリーティアは険しい面持ちで駆けていくその騎士の背を見詰めていた。
「リリーティア」
「はい」
リュネールの毅然とした声に、彼女ははっとして姿勢を正した。
「あなたも私たちと共に仲間の救援をお願い」
真剣な眼差しを向けるリュネール。
娘が初めて魔物と戦ったあの日。
危険の中に飛び込んだ娘を前にして、母であるリュネールは大きな恐怖に襲われた。
あんな思いはもう二度としたくない。
その気持ちは今も変わることなく彼女の心にあった。
けれど、今ではその気持ち以上に、娘の実力、技量を心から信頼していた。
その恐怖を打ち消してくれるほどの実力を、娘であるリリーティアは持っているのだと。
だから、リュネールには迷いも不安も恐怖さえもなかった。
むしろ、心強さを感じていた。
娘がいれば、どんな状況に陥っても必ず切り抜けられると。
母である彼女は、今では娘の力を誰よりも頼りにしていた。
「はい!リュネール隊長!」
母の思いに応えるように、リリーティアは凛とした表情で力強く頷いた。
そこには昨夜とは違って、母と娘としての彼女たちではなく、
<帝国>騎士団の隊長と皇帝直属の魔道士としての二人の姿があった。