第5話 信念
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「しかし、本当に樹が結界なんてな。その大きさもデカいと来たもんだ」
「ハルルの樹は3つの植物が重なり合って出来ていますから」
「3つの植物?」
リリーティアとダミュロンはハルルの樹から少し離れたところで腰掛けていた。
夜もだいぶ深まった頃だったが、ハルルの樹の周りにはまだ数人の住民たちがいて、その人たちはハルルの花を眺めて静かにこの夜を過ごしているようだ。
「ハルモネア、ルルリエ、ルーネンス、その3つの植物が重なり、これほど大きな樹に育ったそうです。だから、その3つの植物の頭文字をとってハルルと名付けられました」
「ああ、なるほど。それでハルルの樹か。でも、樹が結界ってのはどういうことなんだ?」
「魔導器(ブラスティア)の中には稀に植物と融合するものがあるんですよ」
リリーティアはハルルの樹を見上げる。
月明りに照らされるハルルの樹は仄かに輝きを放ち、ハルルの街全体を幻想的に彩っていた。
そして、ハルルの花びらが風に舞うことでハルルの夜街をより一層美しく飾っている。
「長い年月をかけてお互いが密接に交わり、統一してひとつとなるんです。そして、何時しか生活機能や生活力を備えた特有の性質を持つようになり、自ら進化していくんです」
「その進化の結果がこの樹の結界ってわけか」
「はい」
ダミュロンは感慨深い面持ちでハルルの樹を見上げた。
「ほんとおまえさんは色んなこと知ってんだな。魔物のことも詳しいし」
「いえ、ほとんどが父と母から教えてもらったものですから」
そう言ってリリーティアは苦笑した。
一瞬、彼女のその目からはどことなく悲しげな色が見えた気がした。
気のせいだったのろうかと、ダミュロンは訝しく思いながらも話を続けた。
「それでもそれをちゃんと覚えてるんだろ?俺だったらすぐに忘れちまうな」
「そうなんですか?」
「そうそう」
ダミュロンは何度も頷いた。
その動きは少々大げさのようにも見えた。
「魔術の理論なんてものは特にそうだろ?それを3歳の頃から使えてたってほんとすごいよな」
「その頃のことはまったくといって覚えてないですけど」
リリーティアは困ったような笑みを浮かべた。
「でも、・・・その時の父の笑顔だけは、とてもよく覚えているんです」
「親父さん、すごい喜んでたって言ってたな」
「はい。本当に自分のことのように喜んで笑っていました。あの時の父の笑顔・・・、それだけは何故か不思議と今でもはっきりと頭に浮かぶんです」
リリーティアはそっと目を閉じ、その時の父の笑顔を思い浮かべた。
「父のあの笑顔に私はもっと喜んでほしい思いました。もっともっと笑って欲しいと」
閉じた目をゆっくりと開くと、ハルルの樹を遠くに見詰めた。
「気付けばそれは、たくさんの人たちが笑顔であってほしいと、そう思うようになっていったんです」
そう話す彼女の瞳は強く輝いているように見え、その表情もどこか凛々しいものだった。
「そして、初めて魔物と戦ったあの日から、私はもっと役に立ちたいと思いました。一人でも多くの人の力になれたらと。何度もありがとうと言って私を褒めてくれた、あの時の母の優しい微笑みは今でも忘れられません」
ハルルの樹を見上げ、幼い頃から変わることない自分の心の中にある強い想いを静かに語る。
ダミュロンはただ黙ってリリーティアの言葉に耳を傾けていた。
『もっと喜んで欲しい、もっと役に立ちたい』
その簡単な言葉の中には、彼女の揺るぎない信念があった。
それはけして揺るぐことはない深い想い。
その信念だけは曲げないという、彼女の強い意志があった。
ダミュロンはそんな彼女のゆるぎない想いが、己の心の奥に響くのを静かに感じていた。