第5話 信念
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「特に問題は無し・・・と」
大きく立派な幹に優しく触れながら、ハルルの樹を見上げる。
リリーティアはハルルの樹の根元にのぼっていた。
あれからしばらく、母とキャナリ小隊たちと時間を過ごした後、街を巡回するためにリュネールは任務に戻った。
キャナリは個人的な希望でリュネールと共に街の巡回を手伝いについて行き、ダミュロンたちはそれぞれに自由な時間を過ごしている。
リリーティアはというと、ここにこうして自分の任務でもある、ハルルの結界魔導器(シルトブラスティア)の様子を見にきていたのであった。
「(今日は何もしていないのに、何だか疲れたなぁ・・・)」
リリーティアは小さくため息をついた。
母が自分の過去を面白おかしく話すものだから、それを必死で止めたり、恥かしさで一杯になったりと、彼女だけは精神的にどっと疲れたようだ。
でも、久しぶりに母と過ごしたあの時間は、何より楽しいひと時だったのも確かだった。
リリーティアはあの時楽しそうに話す母の顔を思い浮かべ、ふっと笑みをこぼした。
「おまえさんの家族はほんと楽しい人たちだな」
「!」
その声にはっとして見ると、頭の後ろに手を組みながら、こちらを見上げているダミュロンがいた。
「よっ、お勤めご苦労さん」
「ダミュロンさん」
右手をあげて、にっと笑うダミュロン。
「リュネール隊長の話、すげぇ楽しかったわ」
「す、すみません。ろくでもない話ばかり・・・」
「んなことなかったって。ほんと楽しかったからな」
「そ、そうですか・・・?」
ダミュロンはその言葉通り楽しげに笑っていた。
彼らが楽しんでいたのはいいが、リリーティアとしては自分の恥ずかしい話ばかりだったから複雑な笑みを浮かべた。
「ああ。例えば、おまえさんが騎士団長をすげぇ困らせた話とかな」
「っ!」
ダミュロンは顎に手をあてて片目を閉じると、意地悪げに笑った。
「まさか、あの騎士団長さんを-----」
「ま、待ってください!」
ダミュロンが言わんとすることに、これ以上にないほど慌てふためくリリーティア。
「わざわざ言わな、って、あ、・・・わっ!」
慌てた彼女はハルルの幹の上という不安定な足場にいたために、勢いよくバランスを崩してその足を滑らせた。
「リリーティア!」
がくんと体が落ちたと思った瞬間、ダミュロンの言葉が耳に届いた。
彼の声を耳にしながら、リリーティアはとっさに目を瞑った。
落ちている感覚と共に、来るであろう衝撃に身を固くする。
「・・・・・・?」
だが、落ちた感覚はあったのに、来るべき衝撃がまったくこなかった。
それよりもむしろ何かやわらかいものに包まれた気がして、リリーティアは不思議に思いながらゆっくりとその目を開けた。
「!?」
目を開けた瞬間、彼女はなぜ来るべき衝撃が来なかったその理由を知った。
「ダ、ダミュロンさん!!」
ダミュロンが地面に仰向けになって、リリーティアの体を受止めていたのだ。
彼女は慌てて体を起こし、彼の体から飛び退いた。
「ご、ごめんなさい、大丈夫ですか!け、怪我は・・・?!」
「平気、平気。これぐらいどーってことないって」
ダミュロンは上体を起こすと、笑って答えた。
見た様子では確かに大丈夫のようであったが、リリーティアは心配げに彼の容態を何度も窺い見る。
「ほ、本当ですか?どこか痛む所などは・・・」
「はは、大丈夫だって」
そう言いながら、彼は軽快にその場に立ち上がった。
それでも、彼女は未だに不安な面持ちで、ダミュロンを見上げている。
「これでも騎士の端くれよ。鍛えてっからだいじょーぶってもんだ」
そんな彼女にダミュロンは腰に手を当てて、大げさにも胸を張って見せた。
その様子に少しは安心できたのか、彼女はほっと息を吐くと小さく笑ったのだった。