第4話 家族
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『ひっ、う、うわ!!』
牙をむいて飛びかかってくる魔物に怯み、ひとりの騎士が声を上げて目を閉じた。
リュネールはその騎士の前に飛び出し、剣をひと振りしてその魔物をなぎ倒す。
『前を見なさい!魔物にやられたくないのなら怯む前に武器を構える!』
リュネールの怒声が響く。
彼女は救援に向かった先で大勢の魔物たちと戦っていた。
彼女の後ろには車輪が壊れて動かない荷馬車があった。
その中には怯え震えている二人の商人が乗っている。
リュネールをはじめ、騎士たちはその荷馬車を囲むように陣取り、襲ってくる魔物たちと戦い続けていた。
『(この人数でこれだけの魔物の数を相手できるのも時間の問題だ。応援が来るまでなんとか持ちこたえないと)』
リュネールが駆けつけたものの騎士団側は未だ厳しい状況化にあった。
魔物の数に対して数人の騎士だけでは、この現状を打破することが出来なかったのだ。
『こ、こんな大勢の魔物を相手にするなんてやっぱり無理だ!』
『っ!? 待ちなさい!』
この状況に耐えられなくなった一人の若い騎士がその場から逃げようとした。
リュネールが制止の声を上げるが、その言葉に耳も傾けずに駆け出す。
しかし、魔物たちはそれを許さなかった。
逃げ出す騎士に狙いを定め、数体の魔物がその騎士を追いかけた。
『く、来るな!』
必死に叫びながら逃げるが、あっという間に魔物に囲まれてしまった。
騎士は武器を構えたが恐怖で手も足も振るえており、明らかにその魔物を対処できるようなものではなかった。
魔物たちは容赦なく、一斉に騎士へ向かって飛び掛った。
『ウィンドカッター!!』
何処からか声が聞こえたかと思うと、騎士の前に緑輝く風が現われ、飛び掛ってきた魔物たちを襲った。
『こ、この声・・・まさか!?』
リュネールはその声に驚きを隠せなかった。
風の魔術にやられた魔物たちは悲鳴のような雄叫びをあげその場に倒れた。
襲われかけた騎士は地面に腰をついて、目の前に倒れた魔物を驚愕して見詰めていた。
『お母さん!』
『リリーティア、どうして!』
見ると、愛用の武器《レウィスアルマ》を手にして、こちらの方へ駆け出してくるリリーティアの姿があった。
まさか娘が追いかけてくるなど思ってもいなかったリュネールは大きく目を見開いて愕然とした。
その時、数体の魔物が低い唸り声をあげて、じっとリリーティアを睨み出した。
『!!リリーティア逃げなさい!早く!』
リリーティアははっとしてその足を止めたが、すでにその魔物たちは彼女に向かって駆け出していた。
その数は、3体。
どう見ても7歳という幼い子どもが相手できる数ではないと思われた。
いや、剣術を心得ている者でさえも下手をすれば命を落とすこだってありえる。
魔物と戦うことはそれだけ危険なことであった。
『リリーティア!!』
助けに行こうと一歩踏み出すリュネール。
しかし、他の魔物たちが彼女の前に立ちはだかり、これ以上前に進めなかった。
魔物たちは容赦なくリュネールに襲いかかる。
『(これじゃあ、あの子の元へいけない・・・!)』
次々と襲ってくる魔物たちをなぎ倒すが、止まない攻撃にリュネールはリリーティアの元へ行くことは愚か魔術を使う隙もなかった。
ただただ苛立ちと焦りが募っていく。
額には嫌な汗が滲んだ。
『お願い、リリーティアを助けて!!』
その声はリリーティアに助けられて、未だ地面にへたりこんでいる騎士に向かって叫んだ言葉だった。
『っ、ぁ・・・・・・ひぃ!』
しかし、その騎士は恐怖に狼狽えた声をあげると、あろうことかその場から逃げ出した。
『そんな待って!!リリーティアを!!』
嘆きにも似たその言葉。
それは、騎士としての命令ではない。
母として娘を助けて欲しいという、リュネールの心からの哀願だった。
しかし、無情にもその願いは聞き取られず、その上魔物たちは逃げる騎士には目もくれずリリーティアへとまっしぐらに向かっていた。
『(わ、私、だって-----)』
------------戦える!!
リリーティアはぐっと手に力を込めた。
彼女の足元に緑色の術式が現われる。
その小さな体は僅かに震え、強く武器を握りしめた手は汗で濡れていた。
『戦火に踊る風、此処に』
詠唱するその声は頼りないほどにか細いが、その瞳だけは力強い眼差しを放っていた。
そこには、騎士であるリュネールと同じ凛々しさがあった。
『エアスラスト!!』
術名を叫ぶと、無数の荒ぶる風が魔物たちを襲った。
だが、一体の魔物がその攻撃を逃れてしまい、怯むことなくリリーティアに向かって猛進してくる。
魔は牙を剥き出しにして、覆いかぶさるように彼女に飛びかかった。
『リリーティア!』
リュネールは襲ってくる魔物と戦いながら、娘の命の危険に心は恐怖におののいた。
『(大丈夫、お母さんのように・・・!)』
母の声を聞きながらも、リリーティアは自分の頭上にいる魔物に一瞬も目を背けず、武器を構えると片足を一歩引き、戦う体制を取った。
その目にも、動きにも、一寸たる迷いはなかった。
『っはあ!』
飛び掛ってきた魔物の攻撃を横へと避けると、武器の先端からエアルで構築した刃を出現させ、力一杯に魔物に振り斬った。
『グギャア!!』
魔物は叫びをあげ、その場に倒れ込んだ。
それと同時にリリーティアは地面に両膝をつき、手をついてその場に蹲る。
『リリーティア!-----くっ!どきなさい!』
リリーティアの名を叫びながら残りの魔物を倒すリュネール。
そして、全ての魔物を倒し終えると彼女の元へと一目散に駆け寄った。
『リリーティア!リリーティア、しっかりして!!』
リリーティアの顔を覗き込むリュネールのその顔はひどく青ざめ、いつもの凛々しい表情はどこにもなかった。
『お、おか、さん・・・だ、だいじょ・・・ぶ・・・』
リュネールの服をぎゅっと掴みリリーティアは力なく言った。
弱弱しい笑みを浮かべていたが怪我はなく、命に別状は無いことが見て取れて、リュネールは心底安堵した。
そのすぐ後、リュネール隊の騎士たちが応援に駆けつけた。
リュネール隊の隊員たちにいくつかの指示を出すと、リュネールはぐったりとする娘を背負い、帝都へと急いだのだった。
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騎士団本部にあるリュネールの居室。
『どうしてあんな無茶をしたの!待ってるように言ったでしょ!』
部屋ではリュネールの怒りの声が響き渡る。
リリーティアは小さな体をさらに縮こませ、寝台の上に座っていた。
『ご、ごめんな-----』
『謝って済む問題ではない!もしかしたら魔物に命を奪われていたかもしれないの!わかってる?!』
『・・・・・・』
リリーティアは何も言えずに、しゅんとして俯いた。
『本当に!本当に・・・・・・恐かったのよ・・・!』
リュネールの震えた声にはっとして顔を上げた。
瞬間、リリーティアは大きく目を見開く。
母は今にも泣きそうな顔だった。
リリーティアの瞳にはそれがあまりにも痛々しく映り、子どもながらにその心には深い罪悪感が襲った。
『お、お母・・・さん』
リュネールは優しくそれでいて少し強く、リリーティアを抱き締める。
何も言わずに、ただその小さな肩に顔をうずめた。
『ごめんね、一番恐かったのはあなたの方なのに・・・。ありがとう、・・・助けてくれてありがとう、リリーティア』
『っ・・・』
リリーティアはぎゅっと母の服を掴んだ。
その言葉はリリーティアの心の中を優しく包み込み、また僅かにその奥が僅かに痛む。
感謝された嬉しさと心配をかけてしまった申し訳なさの、その二つの感情が入り混じって胸が苦しかった。
『よく頑張ったわね、リリーティア。本当に、本当に・・・・・・。私がこうしてここにいられるのはあなたのおかげよ』
そう言うと、抱き締めていた腕を解いた。
リュネールは娘の頬に手を添えると、目を伏せて互いの額をそっと合わせた。
『ありがとう、助けてくれて。本当に・・・ありかどう、リリーティア』
リュネールは微笑んだ。
額から母の温もりをじんわりと感じながら、リリーティアは小さく照れた笑みを浮かべた。
そして、額を合わせたまま、二人は互いに声をたてて笑い合った。