第4話 家族
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「はは。隊長、ほんと嬉しそうですね」
「昨日はずっと心配してたからね」
リュネールの笑っている横顔を見ながら、リュネール隊の隊員たちが話した。
彼らは目を細め、嬉しげに二人の親子の後ろ姿を見詰めている。
「あの、やっぱりとても心配してたのですか?」
ソムラスの問いに、三人の隊員は苦笑を浮かべ深く頷いた。
「昨日なんて落ち着かない様子で、何度もこの街の各入り口を歩き回ってたんだ」
「わたしたちの前では平静を装っているようだったけど、それでも明らかに心配していることがよく分かった」
「あの方は誰よりも人を想う方だから、娘さんのことも含めて君たちのこともとても心配していたよ」
リュネール隊の隊員たちは口々に昨日のリュネールの様子について話す。
キャナリ小隊たちはぽかんと呆気にとられて、その話を聞いていた。
それほどまでに彼女が自分たちを心配していてくれたことに驚きを隠せなかったのだ。
「それに、一番甘えたがってたのはうちの隊長のほうだからね」
「ははは、そうそう。娘さんよりも隊長のほうがあれだよな」
「おい、そんなこと言ってると----------」
「あ、そうだった!ちょっと、そこの余計なことを話した人たち!」
少し離れたところで、リュネールは自分の部下たちの方へと振り向いた。
「え?お、おれたちのことですか?」
リュネール隊の隊員の一人が苦い表情を浮かべて、リュネールへ恐る恐る振り向いた。
他の二人も振り向いて、リュネールを見る。
隊長である彼女のその表情は満面の笑みだった。
「・・・嫌な予感がする」
もう一人の隊員が頬を引きつらせて呟いた。
その笑顔の裏には何か隠れている。
隊長のことをよく知る彼らは、その笑みは笑みではないことすぐに見抜いた。
「そうそう。キャナリ小隊のみんなが運んで来てくれた支援物資だけど、三人でよろしくお願いね」
「ええっっ!?」
「ぼ、僕たちだけでですか?!」
その笑顔とは裏腹に言っていることは無茶な頼みだった。
荷馬車に乗っている荷物は三人ですべてを運び出すのは明らかに大変な量であった。
「ふふ、頼りにしてるもの。期待溢れる未来の担い手諸君。キャナリ小隊のみんなは私と一緒についてきて」
「ちょ、ちょっと待って下さいよ!それはあんまりじゃないですかぁ!」
抗議の声をあげる部下に目もくれず、リュネールはそそくさとリリーティアの手を引っ張り歩いていった。
「た、隊長~!!」
リュネールの部下の悲痛な声が街に響き渡る。
その声にも彼女は背を向けたままで、ただ手を振るだけだった。
「最悪~」
「鬼だ・・・」
「そんなこと言ってると、次は減給になるかもよ」
悲痛な叫び声を上げた隊員ががっくりと肩を落とし頭を垂れる。
もうひとりは、頭を抱えてひどく落ちこんでいた。
ただ、もう一人だけはひどく落ち着いていて、何故か人事のように苦笑を浮かべ、二人の仲間を見ている。
その男はこの三人のなかでは最年長らしく、三つあるリュネール小隊の中の第一小隊長を勤めているらしい。
「だ、大丈夫ですか?」
愕然と落ち込んでいる二人の様子に、あまりに気の毒に思ったのか、キャナリが戸惑いながらも声をかける。
「ああ、大丈夫、大丈夫。気にしないで。君たちは隊長についていっていいよ」
そうは言われても、どうも気が進まなかった。
「こんなにたくさんの荷物を三人で運ぶのは、とても骨が折れるのではないですか?」
「あの荷物の量なら、本当に骨が折れかねませんな」
ソムラスが心配して言った後に、ヒスームが続けた。
「大丈夫。ま、しばらくしたら、わたしたちの仲間が応援に来てくれるから」
何故か当前のようにそう話す第一小隊長の男。
キャナリ小隊たちは不思議に思いながら互いの顔を見合わせた。
「隊長も本気で言ったんじゃないからね。さっきも言ったでしょ、誰よりも人を想う方だって。それはわたしたちに対しても同じことなんだよ」
そう言うと、第一小隊長の男は口元に手を当てて、少し前屈みになる。
「でも、本気で怒らせたら、わたしたちにも容赦ないけどね」
男は声を潜めてそう言うと、秘密だと言うように人差し指をたてた。
そして、キャナリ小隊たちの背を押して、先へ行くよう促した。
キャナリ小隊たちは未だ戸惑いの表情を浮かべながらも、リュネールたちが向かった後をついて行った。
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リリーティアはリュネールと手を繋いだまま、宿に向かってハルルの街を歩いた。
そのすぐ後ろをダミュロンたちがぞろぞろとついて歩く。
「リュネール隊長」
その途中、緑の隊服を着た若者が近づいてきた。
リュネールの部下のようだ。
「無事に娘さんたち、ここへ到着したのですね」
「ええ」
その若い隊員はリリーティアへと笑いかけた。
「こんにちは、リリーティアさん」
「ぁ・・・は、はい。お疲れ様です」
挨拶をしてくれるとは思ってもいなかったリリーティアは、返事をするのに反応が少し遅れてしまった。
「みなさんもここまでご苦労様です」
「はい。お疲れ様です」
キャナリは騎士の敬礼をして応えた。
「今、南方面の入り口にキャナリ小隊の皆さんが運んでくれた支援物資が届いてるの。さっきまで私と一緒にいた三人には運ぶようには言ったんだけど」
「分かりました。すぐ応援に向かいます」
「ありがとう。休憩のところ悪いのだけれど、よろしくお願いね」
その隊員はリュネールに敬礼をすると、駆け出していった。
リュネールはしばらくその隊員の後姿を見届けた後、リリーティアに微笑んで再び歩き出した。
「こういうことだったのか」
その様子を見ていたダミュロンが納得したようにひとり呟いた。
この時、あのリュネール隊の第一小隊長が言った言葉を理解したのだ。
『わたしたちの仲間が応援に来てくれるから』
それは、自分たちの隊長のことをよく知った上での言葉だった。
今思えば、その言葉の中には隊長に対する信頼と尊敬の想いが込められているようにも感じられた。
隊長と部下たちのそんなやり取りを見ただけで、リュネール隊はこれまでの<帝国>騎士団とは違うことがよく分かった。
それはまさに、” 騎士団の在るべき姿 ”。
彼には、そう見えた。