第4話 家族
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それから一日、デイドン砦に滞在した一行。
翌日にはデイドン砦を発ち、任務であったリュネール隊への支援物資輸送のためハルルへ向かった。
未だデイドン砦では〈平原の主〉であるブルータルへの警戒を続けている。
しかし、あの時ブルータルはリリーティアが放った魔術で大きな傷を負っていたのは確かで、
その傷が癒えないうちは襲ってくることも無いだろうということからリリーティアの体力が大分回復してから、すぐに砦を出発することを決めたのだった。
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「これは見事な」
「すげぇな」
ヒスームとゲアモンが遠くを見上げながら驚きの声を上げた。
「まじで樹が結界なんだな」
ダミュロンも目の前に広がる光景に息を呑んでいた。
桃色に染まった花に覆われた大きな樹。
その樹の上空からは街全体を包み込むようにして白い輪が現われており、それは帝都でもよく見る、結界魔導器(シルトブラアスティア)の白い輪と同じものだった。
話には聞いていたものの、樹が結界魔導器(シルトブラアスティア)の役割を担っているという話は、
話でしか聞いていなかったダミュロンたちにはどうしても信じられないものだったのだろう。
実際に目の当たりにして、それは事実なのだと知った彼らは驚きに唖然としている。
街の名前にもなっているハルルの樹は、少し小高い丘にそびえ立っており、まるで樹がこの街を見守っているかのようだった。
「よかったわ。無事に辿りついたのね」
「!」
ハルルの樹に圧倒され、街の入り口で立ち止まっていた一行に、ふと声が聞こえた。
その声に一番反応を見せたのはリリーティアだ。
「リュネール隊長」
キャナリがその声の主の名を言った。
その声の主こそ、<帝国>騎士団の中で唯一女性の騎士隊長であり、リリーティアの母でもあるリュネールだった。
リュネール隊の象徴カラーである金色(こんじき)の外套が風に揺られてなびいている。
隊長である彼女の後ろからは、三人のリュネール隊の隊員がついて歩いていた。
「予定の日を過ぎてもこの街に到着しないから心配していたの」
「心配をおかけして申し訳ありません」
キャナリは頭を深く下げる。
それを見たリュネールは苦笑を浮かべた。
「謝らなくていいのよ。それよりも大丈夫だったの?みんな怪我はないかしら?」
穏やかに笑みを浮かべるリュネール。
彼女は任務の遅れよりも、キャナリたちの身を一番に気にかけているようだ。
「は、はい。大丈夫です。ありがとうございます」
キャナリはどこか感情が高揚しているように見え、その目にはいつもと違う輝きがある。
いつもと違う彼女の様子に、隣に立っていたダミュロンはふと気付いた。
「それなら良かった」
リュネールはほっとした笑みを浮かべると、急にはっとして、その後一瞬にして嬉しそうな表情に変わった。
「リリーティア!」
それは、荷馬車の前に立っているリリーティアの姿を見つけたからだ。
「え、えっと・・・・・」
リリーティアはというと、どこか恥ずかしげな表情を浮かべていた。
久しぶりに会った母に、なんと言おうか迷っていると、
「リリーティア!」
「わっ!」
リュネールに強く抱きしめられ、リリーティアは小さく驚きの声を上げる。
母の腕の温もりに、しばらく母と会えていなかった寂しさを改めて思った。
けれど、その温もりがまた、その寂しさを消してくれているのを感じていた。
「久しぶりよね、2ヶ月ぶりなのかしら。元気にしてた?」
体を離し、リュネールは微笑んだ。
その笑みはまさに娘に出会えたことが何よりも嬉しく、娘を想っているものであった。
「うん、大丈夫。私は変わらず元気だから」
急に抱き締められた事が恥ずかしかったのか、リリーティアは少し頬を赤らめていた。
けれど、もちろん彼女もリュネールと同じように嬉しい気持ちで一杯だった。
「リリーティアがお世話になりました。ここまで本当にありがとう」
それは、騎士隊長としてというよりも、母としての感謝の言葉だった。
リュネールはキャナリたちの方へ向き直り、深く頭を下げた。
彼女にならって、リリーティアも頭を下げる。
「俺たちがお世話をしたというよりも、お世話になったっていうような感じですけど」
「はは、それは確かにな」
リュネールの感謝の言葉にダミュロンが複雑な表情で笑う。
彼の言葉に頷いて、ゲアモンも苦笑を浮かべて頬をかいた。
「とりあえず詳しい話は、私たちが今お世話になっている宿で話しましょう」
リュネールはダミュロンたちの言葉に首を傾げるも、そう言ってリリーティアの手を取り歩き出した。
「へ・・・?あ、おか・・・!ちょ、ちょっと」
「どうしたの?」
リリーティアは、いきなり手を繋いで歩こうとするリュネールに驚き慌てた。
「え、いや・・・。手、繋いでいくの?」
「そうだけど。だって久しぶりに会えたんですもの。いいでしょ?」
「い、いや・・・で、でも、もうそんな子どもじゃないし・・・」
満面の笑みで見てくるリュネールに、リリーティアは顔を伏せて口篭った。
「いいじゃないの。会えるの楽しみにしてたっしょ?」
「そうよ、リリーティア。久しぶりに会えたんだから甘えてもいいと思うわ」
ダミュロンとキャナリは、その様子からすぐに彼女の胸の内に秘めた本心を察したようだ。
「・・・で、でも・・・今は・・・」
二人の言葉にもリリーティアは何か気にしている様子だった。
そんな娘を、リュネールはふっと目を細め、悲しげな表情で見詰める。
「いいんですよ」
「え?」
そんな時、リュネール隊の隊員たちがリリーティアに言葉をかけた。
「隊長は娘さんに会えるのを楽しみにしてたんです」
「それに、子が親に甘えるのは当然のことです。周りのことなんかどうか気にしないで下さい」
「その通りです。だから、恥ずかしがることなんでないんですよ。たまにはいいじゃないですか」
リリーティアが母と手を繋ぐことを拒んでいたのは、確かにもう子どもではないという恥ずかしさもあったが、
それよりも母の立場や自分の立場こと、また周りの人たちのこと、今ある立場と状況を考えてしまい、どうしても素直に甘えることが出来ないでいた。
リュネール隊の隊員たちも彼女の様子からそれを感じ取り、言葉をかけてくれたのだった。
彼らの優しい言葉に、リリーティアの口元には見る見るうちに笑みがこぼれた。
「はい!ありがとうございます。行こう、お母さん」
「ふふ。ええ」
リリーティアは母の手を強く握り返して笑いかけると、リュネールも微笑んで頷いた。
そして、宿に向かって二人並んで歩いていった.。
リリーティアは弾むような足取りで、本当に嬉しげに笑っている。
それは、母である彼女も同じ姿だ。
いや、寧ろそれは、リリーティアよりも喜んでいる様子に見えた。