第3話 太陽
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木目調の天井。
橙色の光がその天井を仄かに彩っている。
今は夕刻の時間帯だろうか。
「・・・・・・ここ」
その声はリリーティアだった。
けれど、それはひどく掠れていて声になっていなかった。
「リリーティア!・・・よかった、気がついたのね」
その声のする方を向こうとするが、体はおろか頭さえもうまく動かすことが出来なかった。
何とか視線だけをそちらの方へと向ける。
「キャ・・ナリ、しょう・・・隊、長?」
そこにはとても不安な表情を浮かべているキャナリがいた。
「大丈夫か?」
「・・・ダ・・ミュロ・・・ン、さん」
ダミュロンは微かに笑みを浮かべていたが、その笑みはどこか悲しげにも見える。
いつものおどけたような笑顔はそこになかった。
「水を持ってきてくれる?」
「分かりました」
キャナリの言葉に返事を返したのはソムラスの声だった。
リリーティアはもう一度天井を見ながら、その声を遠くに聞いていた。
彼女は、未だ何が起きたのか理解できていなかった。
ここは何処なのか。
自分はどうして横になっているのか。
どうしてそんなに憂い帯びた顔で自分を見ているのか。
この状況を理解しようと思ったが、うまく頭が回らなかった。
ただひとつ分かっていることは、自分は今、寝台の上で寝ているということだけだった。
「あの、ここは・・・?それに、私・・・・・・いったい・・・」
「ここはデイドン砦にある詰め所よ。ひとまずこの水を飲んで」
静かで穏やかな声音でキャナリは言った。
ダミュロンがリリーティアの体を支え起こすと、キャナリは水が入ったコップを彼女の口元に近づけた。
「大丈夫、ゆっくりね」
リリーティアは少しずつ口に含みながら、水を飲んだ。
一口ずつ水を飲んでいくにつれ、徐々に朦朧としていた意識がはっきりとしてきた。
その時だ。
彼女は水を飲むのを止め、慌てて上体を前に起こした。
「!? そ、そうだっ!あの魔物はっ!ブルータルは-----うっ!・・・っ・・・」
リリーティアは呻き声を上げて、頭を抑えた。
突然、頭痛に襲われ激しい目眩に襲われたのだ。
「リリーティア!」
キャナリが悲痛な声と共に、頭を抑えたまま倒れそうになるリリーティアをダミュロンが慌ててその体を支えた。
「・・・大丈夫だ、あの魔物ならおまえさんのおかけで逃げてったよ」
ダミュロンはほっと息を吐くと、穏やかな口調で言った。
彼らは砦に引き返した後、砦に駐在する騎士たちからあの巨体な魔物について話を聞いていた。
あの巨体な魔物はブルータルという名の魔物であること。
そして、<平原の主>とも呼ばれ、一定の時期になると群れを連れてやってくるのだということを聞いた。
「それじゃあ・・・・・・、みんな無事、なんですか?」
「ええ、みんな怪我もなく無事よ」
その言葉にリリーティアは目を伏せて深く息を吐くと、消え入りそうな声で「良かった」と呟いた。
呟く彼女にキャナリは笑みを浮かべる。
「だからもう心配しなくていいのよ。さあ、横になって」
リリーティアは体を支えてもらいながら、ゆっくりと上体を倒していく。
その時、部屋の窓が視界に入った。
窓の外は闇に染まっている。
そして、寝台の上に横たわると、視界の隅に照明用のランプが天井に揺れているのが見えた。
その光が天井を仄かに彩っている。
天井が橙色の光に照らされていたのは、外から射す夕日のせいではなくこの照明だったようだ。
つまり今は夕刻なのではなく、すでに夜だった。
少なくともリリーティアは半日以上は気を失っていたらしい。
「どこか他に痛むところはある?」
「・・・・・・大丈夫です、痛みもありません」
未だその声は力ないものだったが、顔色はだいぶよくなっていた。
キャナリはリリーティアの額にそっと手を当てて、優しい笑みを浮かべた。
「そう。でも、無理は禁物よ。今はゆっくり休んでちょうだい」
「はい。ありがとうございます」
リリーティアは力無く微笑んだ。
キャナリの手の温もりは不思議と心地よく、そっと静かに瞳を閉じた。
体中が彼女の優しさに包まれているような気がして、その心地よさの中、リリーティアは再び深い眠りについた。
闇に散りばめられた星々。
星々と共に浮かぶ月。
月の光に優しく照らされたデイドン砦。
今回の騒動により砦の門は閉められたままになり、砦にいる者たちが皆、警戒しながらいつもと違って不安な夜を過ごしていた。
ただそんな中、キャナリ小隊たちはリリーティアが目覚めてくれたことに安堵し、少しばかり安心した気持ちで一夜を過ごしたのだった。