第3話 太陽
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「みんな、絶対にここで食い止めるのよ!!」
「了解!!」
キャナリたちは魔物が迫るギリギリまで矢を放ち、魔物の勢いを削がそうとしていた。
それでも魔物の勢いは衰えることはなかった。
「サジッタグローリア!!」
「!?」
突然、後方から声がしたかと思うと魔物の群れに無数の光が降り注いだ。
眩しい光の攻撃でほんの少し魔物の勢いが衰えたが、それも微々たるものでしかなかった。
何が起きたのか理解できないキャナリたちの傍を何かが横切った。
「な、おいっ!?」
「リリーティア!?」
それはリリーティアだった。
彼らが彼女だと気付いた時には、魔物たちとキャナリ小隊たちの間に立ち、すでに魔術の詠唱を始めていた。
「白き衣を纏(まと)いし季に 銀(しろがね)輝く氷柱(ひょうちゅう) 隕星の如く降り注げ」
魔術が得意とするリリーティアは、いつもなら平然と唱えている魔術の詠唱。
それが今の彼女を見ると何故かその余裕はなく、眉間には深いしわが浮かんでいた。
しかも、《レウィスアルマ》を握りしめている手は小刻みに震えている。
それは、あまりにも力強く武器を握り締めているからだった。
「フィンブルヴェド!!」
これ以上にない声で術名を叫び、魔術を発動させた。
すると辺り一帯に白く霧のようなものが現れ、刺すような冷気に包まれたかと思うと、上空から隕石のように巨大な氷柱が降り注いだ。
氷柱が落ちた地面には術式が花開くように浮かび上がり、そこから氷の柱が隆起した。
見ただけでも、その魔術は他にない凄まじい威力だということが見て取れた。
魔物の大半がその威力にやられ、身動きを取るのがやっとの状況のようだったが、親玉である《平原の主》だけはすぐにその場に立ち上がった。
「(あれが今の私が扱える最大威力の魔術だったのに・・・・・・)」
今のリリーティアにとって、今の魔術が最大の威力を誇る魔術だった。
威力もかなり高く、その辺の魔物ならば一瞬にして絶命していただろう。
しかし、今回の相手はただの魔物ではないのだ。
「(このまま諦めるわけにはいかない!)」
リリーティアはキャナリ小隊たちとのこれまでの事を思い返していた。
「信じる」と言ってくれたキャナリの言葉。
「一人で背負(しょ)い込むな」と言ってくれたダミュロンの言葉。
容赦のない言動から守ってくれた皆の言葉。
魔物との戦いの度に、治癒の魔術で怪我を治す度に、心からの言葉をかけてくれた小隊たちの言葉。
「(今までみんなが私を守ってくれたんだ!)」
この短い時間の中で彼らはたくさんの言葉を、優しさを、温もりを、リリーティアに与えてくれていた。
だから、ここで屈するわけにはいかないのだ。
「(今度は私が・・・!私が必ず・・・!)」
その時、<平原の主>が足の蹄で何度も地面を蹴っていた。
<平原の主>は鼻を鳴らすと、リリーティアに向かって勢いよく走り出す。
先に放った攻撃が余程気に障ったのか、雄叫びを上げて怒り奮闘で猛進してきていた。
「守ってみせるんだっ!!」
リリーティアは《レウィスアルマ》を振り上げて叫ぶと、先程とは比べものにならないほどの大きな術式が彼女の足下に現れた。
それは緑色に輝きを放つ。
「動乱誘う水風(すいふう)!」
青色の術式が現れ、青い風が刃のように舞い、《平原の主》へと切り刻むように攻撃した。
《平原の主》は唸り声を上げたが、猛進の足は止めなかった。
「暗澹(あんたん)漂う闇風(あんぷう)!」
紫色の術式が現れ、黒紫の風が刃のように舞い、再び《平原の主》を攻撃した。
それでも、<平原の主>は止まらない。
「恩情溢れる光風(こうふう)!」
白色の術式が現れ、白い風が刃のように舞い、《平原の主》を攻撃する。
それでも、<平原の主>は止まらない。
けれど突進してくるその勢いは徐々に衰えていく。
「粗暴(そぼう)震(ふる)う炎風(えんぷう)!」
赤色の術式が現れ、赤い風が刃のように舞い、《平原の主》を攻撃した。
とうとう<平原の主>の足が止まり、よろめいた。
リリーティアは両の手に持つ《レウィスアルマ》を巧みに回し始める。
彼女の前には、青色、紫色、白色、赤色の術式が四方に浮かびあがっていた。
「その四柱なる風神を統べる王にして、絶対なる空流を降誕(こうたん)せし顕現者(けんげんしゃ)!」
舞を踊っているように優雅に動きながら詠唱すると、
黄色に輝く術式が現れ、四方に浮かぶ青、紫、白、赤の術式が光輝く線状の術式で繋がれていく。
すべてが繋がるとそこには五芒星の陣が描かれていた。
リリーティアはキッと鋭い視線を<平原の主>へと向けると、
「アルスマグナ アイオロス!!!!」
右手に持つ《レウィスアルマ》を高く掲げ術名を唱えた。
五芒星の術式から凄まじい風が巻き起こった。
それは翡翠に煌きながら渦を巻いて、全ての敵を飲む込むように攻撃していった。
今まで彼女が扱ってきた魔術よりも桁違いに威力の高い魔術。
いや、それは高いという言い方では済まされない。
敵からすれば、まさに恐怖を感じるほどの脅威的な威力であった。
リリーティアから少し距離があるところにいるにも拘わらず、キャナリたちにまで強い風が届き、その風力で立つことが出来なかった。
小隊たちは皆、地面に膝をついたり体を伏せて、凄まじい風の圧を感じながら何とか踏みこたえていた。
凄まじい風は広範囲に渡って魔物たちを襲うと、蒼い空に溶けるようにして消えていった。
気づくと、<平原の主>のその大きな体躯が地面に横たわっている。
その後ろには魔物の群れが散り散りに倒れていた。
まるでこの世の時間が止まったかのように、魔物たちは微動だにせず地面に伏している。
リリーティアはというと、右手に持った《レウィスアルマ》掲げたまま顔を伏せた状態で、彼女もその場に立ち尽くして微動だにしていない。
キャナリたちは何が起きたのか理解できず、目の前の光景をただ呆然と見詰めていた。
しばらくの間、辺りは静寂に包まれる。
「グ・・・ゥゥ、グルル・・・ル」
静けさの中に獣の呻き声が鳴り響いた。
見ると、あれだけの威力がある魔術を受けながら<平原の主>はその顔を上げた。
そして、体中がボロボロに傷ついていながらも、荒い息を吐いて、立ち上がろうとよろめく足で地面を踏みしめる。
何度か倒れ込みながらも、<平原の主>は何とかそこに立ち上がった。
----------ドサッ
「「リリーティアっ!!」」
キャナリとダミュロンが同時に叫ぶと、駆け出した。
<平原の主>が立ち上がったのと同時に、今まで微動だにせず立っていた リリーティアがその場に倒れたのだ。
二人の後に続いて、ヒスーム、ゲアモン、ソムラス、他の隊員たちも急いで彼女の元へと走る。
「リリーティア、しっかりして!リリーティア!」
キャナリは、地面に伏したリリーティアを抱き起こした。
何度も呼びかけても何の反応も示さなかったが、幸い息はしており気を失っているだけのようだった。
しかし、その呼吸は浅く、顔色は無情なほどに青白い。
いち早くリリーティアの元へ駆けたダミュロンは彼女の前に進み出ると、弓を変形させた剣を手に<平原の主>へとその刃を向けた。
少し遅れて、ヒスーム、ゲアモン、ソムラスや他の隊員たちも、ダミュロンと共に並び立つ。
弓を手にする者は矢を番えると弦(つる)を引き絞って構え、剣を手にする者は手に柄をしっかりと握り締めて足を踏みしめて構えた。
彼らの後ろで、キャナリは気を失ったリリーティアをぎゅっと腕の中へ抱き込んだ。
そして、彼女をその腕に強く抱えたままに、利き手に武器を構えて前を見据えた。
小隊たち全員がリリーティアを守るために<平原の主>の前に立ちはだかった。
彼らは一瞬もその視線を逸らすことなく、<平原の主>を射抜くように見据え続けたのであった。
その瞳の奥には強い意志が見えた。
必ず守るという、彼らの揺るぎない意志が。
立ちはだかる彼らを前に、<平原の主>はただそこに立ち尽くしたまま動かなかった。
どちらも睨み合うような状態が続き、再び沈黙の時が流れる。
どのくらい経ったのか。
静寂の中、先に動いたのは<平原の主>だった。
その大きな体を翻し始めたのである。
背を向けた<平原の主>は覇気のない雄叫びをあげると、まだ息があった他の魔物たちがゆっくりとその体を起こした。
そうして、残った魔物たちを引き連れ、<平原の主>はボロボロの体を引きずるようにその場を立ち去っていったのだった。