第3話 太陽

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次の日、リリーティアたちはエルカバルゼを発った。

出発前には多くの街の人たちが見送りに出て、惜しみなく食料やら旅に必要不可欠な道具とたくさんのものを持たせてくれた。

一行は素直にそれを受け取って、エルカバルゼを後にし、ひとまずデイドン砦へと向かう。

そこにリュネール隊に送る支援物資があるため、一路デイドン砦に向かい、支援物資を受け取った後、ハルルの街へと向かう段取りとなっているのだ。

その任務と同時に、リリーティアに与えられた任務はハルルの結界魔導器(シルトブラスティア)の点検で、

それは、つい最近になってハルルの樹が満開の時期を迎えたのだが、念のため異常がないか魔物凶暴化に備えてのことだった。





ハルルの街の結界魔導器(シルトブラスティア)は、ハルルの樹という大樹そのものが結界の役割を担っているという特殊なものであった。

結界魔導器(シルトブラスティア)であるハルルの樹は、桃色の花を咲かせるとても美しい大樹なのだが、

毎年、満開の季節が近づくと一時的に結界の力が弱くなる。

そこを魔物に襲われて街に被害が及ぶこともあり、その為、その時期が近づくと<帝国>騎士団が派遣され、ハルルの街を守っているのだ。

その警護を任されている騎士団が、リリーティアの母が率いるリュネール隊で、

今回に限ったことではなく、毎年、ハルルの街の護衛はリュネール隊が行っていて、ハルルの街の人たちはいつも彼女たちを待ちわびたように快く歓迎している。

満開の時期を迎えると結界力は本来の力を取り戻し、騎士団の護衛もそこで任が解かれるのだが、

今回の魔物の凶暴化、出没増加に伴い、今も尚、ハルルの街やその付近の警護にあたっていた。

そうして長期化に亘っての警護となった為に、例年の量では足りなくなった物資を、今回キャナリ小隊が追加の支援物資を運ぶようになったということだ。





一行はデイドン砦に到着すると軽く休憩を取り、支援物資が積まれた荷馬車を受け取って、ハルルの街へと出発した。

平原の草は爽やかな風に揺られ、太陽は優しく草原の大地を照らしている。

気持ちのいい穏やかな気候の中、順調にハルルまでの路を進んだ。

しかし、砦を出発してからしばらく経った頃、ある異変に気づいた者がいた。





「なあ、なんか遠くから音・・・しないか?」





そう言ったのはダミュロンだった。





「遠くから?」




彼の隣を歩いていたソムラスは首を傾げながら辺りを見渡した。

ソムラスだけでなく、リリーティアをはじめダミュロン以外の全員が、彼の言う音には気付いていなかった。

周りに注視しながら耳を澄ませてみても、支援物資を積んでいる荷車を引く音や騎士団の甲冑の音が騒がしく聞こえるだけで、彼の言う音が何なのかわからない。





「全員止まって」





キャナリは一旦行軍を止め、皆がその音を捉えようと耳を澄ました。

風に揺られ草木の掠れる音が微かに響く。





「っ! ・・・音、しますね」

「だろ?いったい何なんだ」





リリーティアもようやくその音を耳に捉えた。

低く唸るような音が断続的に遠くから鳴り響いていたのである。

しかし、その音の正体がなんなのかは予想がつかなかった。

ただ、長閑な平原の情景には似つかわないような音であるのは確かだった。





「・・・・・・少しずつ大きくなってくぞ」

「まさか・・・!?」





ゲアモンがそういうと、ヒスームが何か思い当たったのか声を上げた。

その直後、音だけでなく地面が少しずつ揺れ始めた。





「地震か!?」

「おい!ちょっと待て、あれは何だ!?」





隊の誰かが叫んだ。

視線を向けると、広大な地平線から黒い塊のようなものがこちらに向かってくるのが見えた。





「あれは魔物の群れだ!」





目を凝らしてよく見るとそれは魔物の大群であった。

一体一体が集まって大きな黒い塊に見えていたのだ。





「おいおい!あれはあん時とは比べもんになんねえだろ!」





一昨日にて、デイドン砦にたどり着く前になって魔物が襲ってきた時のことを言っているのだろう。

ダミュロンはその魔物の多さに驚愕し、思わず声を上げていた。

正確な数が把握できないほど、魔物の個体数があまりに多すぎるのだ。





「ていうか、あのどでかい魔物はなんなんだよ?!」





ゲアモンが叫ぶ。

その魔物の群れに中に、一体だけやけに図体の大きい魔物がいた。

遠くから見てもその大きさは明らかに巨体だった。

周りの魔物でさえ大の大人よりも大きい体躯であるにも関わらず、それと比べてもその巨体な魔物はそれよりも何倍もある大きさである。





「あれは・・・!?」





リリーティアは大きく目を見開いて驚いた。

魔物たちの姿は猪のそれに似ていて、その群れの中にいる巨体な魔物も猪に似た姿であった。

その魔物がその群れの親玉なのだろう。

魔物の大群の先頭を走っており、先導して引き連れているように見えた。





リリーティア、あの魔物のこと知ってるのか?!」

「(そんな、どうして〈平原の主〉が・・・!)」





リリーティアはダミュロンのその声に気づかなかった。

ただ愕然と青ざめた表情で、巨体な魔物をじっと見詰めていた。

彼女はあの巨体な魔物、〈平原の主〉のことを知っていた。

知っているからこそ、彼女は〈平原の主〉が群れを連れて、今ここに現れたことが信じられなかった。





「(おかしい、まだあれが来る時期ではないはずなのに!)」





なぜなら、〈平原の主〉が群れを連れてくるその時期ではなかったからだ。

あの〈平原の主〉と呼ばれる魔物は毎回現れる時期が決まっている。

だというのに、今こうしてその時期とはまったく関係のない時に現れたのだ。

よりにもよって、リリーティアたちがいるこの時に。





「全員後退!!デイドン砦まで何としても逃げ切るわ!荷馬車の荷は全てここに捨てて!急いでっ!!」





キャナリは叫んだ。

あの数の魔物と巨体な魔物を前に、戦うのは危険だと即座に判断したのである。

まだ遠く離れていないデイドン砦まで、確実に逃げ切るために荷馬車の荷物も捨てさせた。





リリーティア、早く馬車に乗って」

「え?」





それは馬の負担を軽くし、リリーティアを少しでも早く魔物の脅威から避難させるためだった。

だが、キャナリの言葉にリリーティアは戸惑った。





「早く!」

「は、はい!」





キャナリの気迫に押され、急いで荷馬車に乗り込んだ。

そして、一行はもと来た道に向かって駆け出した。

荷馬車を先頭にその後ろをキャナリやダミュロンたちが走る。

魔物たちは疲れというものを知らないのか、勢いは衰えることなく牙を突き出してこちらに向かってきている。

どんどんリリーティアたちとの距離を詰めていった。





「あと少しよ、頑張って!」





キャナリがを皆を励ますように言った。

デイドン砦では警鐘の音が鳴り響いており、魔物が来たことを知らせていた。





「くそ、間に合ってくれよ!」





ダミュロンの言葉は、後ろから迫ってきている魔物の咆哮と地響きにかき消された。

もう、そこまで魔物は迫ってきているのだ。

追いつかれるのが先か、逃げ切れるのが先か。

リリーティアは激しく揺れる馬車の中から魔物の大群が目の前に迫って来るのを見ていた。





「(だめだ!これじゃ間に合わない!)」





魔物と自分たち、そして、砦までの距離を見計らっても、すでにデイドン砦まで逃げ切るのは不可能だというのが分かった。

リリーティアはこの状況をどう切り抜けるか、考えを巡らせ続けた。

けれど、なかなかいい案が思い浮かばない。





「・・・・・・ここで食い止めるしかないわね」

「そうするしかないな」





そんな中、キャナリとダミュロンは切羽詰まった表情を浮かべながら互いに頷き合っていた。

そして、走りながら声を張り上げてキャナリは言った。





「全隊、ここで魔物を食い止める!荷馬車だけはそのまま砦に向かって!」

「りょ、了解!」





荷車の馬を引いている隊員が戸惑いながらも返事を返すと、馬の手綱を弾かせた。

彼女の言葉に一番驚いていたのはリリーティアだ。





「キャナリ小隊長!」





リリーティアは荷馬車から体を乗り出して叫んだ。

その表情は不安に溢れている。





リリーティア、大丈夫よ!あなたは私たちが必ず守るから!」

「っ!?」





キャナリは笑顔を向けて言った。

瞬間、リリーティアは言葉を失った。

その笑顔は彼女の優しさであり、強さであり、彼女の覚悟だと悟ったからだ。



不安な面持ちで叫ぶリリーティアを心配させまいとした、彼女の優しさ。

必ず守り抜くという、彼女の意志の強さ。

どんな結末がこの身に起ころうともそれを受け止める、彼女の覚悟。



彼女の向けた笑顔からは、そんな様々な想いが、意志が、見えた。





リリーティアは最悪な結末を想像していた。

何度もその結末を振り払おうとしても、容赦なくその予想は頭の中に巡り続ける。

それを想像をする自分に苛立ちと、何も出来ない自分に悔しさがこみ上げた。





「止まれ!全隊構え!」





キャナリの声にキャナリ隊の全員がその足を止め、後ろに振り向いた。





「はは、こりゃあ圧巻だわ」





そう乾いた笑いと共に、ダミュロンの額には一滴の汗が流れる。

キャナリ小隊の皆がどこか覚悟を決めたような力強い眼差しを魔物の群れに向けていた。

いや、彼らはすでに覚悟を決めている。

リリーティアが想像したような最悪の結末を頭の隅で思い浮かべながらも、それでも尚、その瞳には強い意志がこもっていた。





彼らはの心の内には '' 諦め '' という言葉などなかった。


生に対しても。

守るべきものに対しても。


だから彼らはその脅威を目の前にしても、毅然としてそこに立っていたのだった。




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