第2話 絆
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「大丈夫でしょうか?」
「きっと大丈夫よ」
ソムラスの心配する言葉にキャナリが答える。
今まさに、結界魔導器(シルトブラスティア)の強化を行っている最中であった。
街の中央広場にある結界魔導器(シルトブラスティア)。
その結界魔導器(シルトブラスティア)を囲むように、リリーティアをはじめとしたアスピオの魔導師や技師たちがいる。
計画実行の邪魔にならないよう、また、何が起きるか分からないといった安全の配慮として、
街の人たちが広場の中央に近寄らないように、その中央付近にはキャナリ小隊たちが立ち並んでいた。
「力場安定・・・・・・術式構築・・・・・・エアル流動異常なし」
誰もが固唾を呑んで見守っている中、まるで呪文のように進行状況を声に出しながら、結界魔導器(シルトブラスティア)の操作盤を操作するリリーティア。
近くで見ている魔道士や技師たちは、彼女のその素早い操作に魅了されたかのように目を瞠っていた。
そうして、計画も順調に進み、操作も終盤にさしかかった頃。
「!!」
リリーティアの操作盤を打つ手が突如として止まった。
手を止めた彼女を不思議に思い、一人の技師が恐る恐る声をかけた。
「ど、どうしたのですか?」
「何かあったのかよ」
先刻、彼女に対して突っかかっていたあの魔導士も訝しげに彼女を見る。
その声が聞こえているのかいないのか、彼女はずっとその手を止めたままで、操作盤を凝視していた。
明らかに様子がおかしかった。
「ん?どうしたんだ?」
「何かあったのかしら」
少し離れて見ていたダミュロンたちにも、リリーティアの様子がおかしいことに気づいた。
一体何が起きたというか。
「(どういうこと、・・・エアルの流れが急に変わった。
・・・待って、このままじゃ・・・・・・結界魔導器(シルトブラスティア)の力を制御出来ない・・・!)」
何が起きたのか分からず、周りが少しざわつき始める中、
この時、リリーティアの考えでは至らないはずのことが起きていたのだ。
何よりも危惧していた最悪の事態が、今まさに起きてしまったのである。
「(落ち着いて、落ち着くんだ。・・・・・・何か原因があるはず。それさえ分かればいいことなんだから)」
リリーティアは再び操作盤を操作し始めた。
原因を突き止めるようと必死で考えを巡らせる。
そして、彼女はあるひとつの考えが頭に浮かんだ。
しかし、それはあまりに危険な行為だと言えた。
「(それでも・・・・・・)」
リリーティアは意を決した。
一度目を閉じると、大きく息を吸う。
「当初の進行内容を変更します!!」
突然、宣言するかのようなリリーティアの大きな声が広場に響く。
広場にいたすべての人たちが驚いて彼女を見た。
「異常事態発生のため、一時的に結界を停止させます!」
「結界を停止させる!? そんなことすればこの街が魔物に・・・!」
リリーティアの言葉に動揺を隠せない魔導士や技師たち。
結界を停止させるということは、魔物たちがこの街に侵入することが出来るということだ。
それはあまりも危険な行いであった。
それでも、一度結界の術式を解除することで、事態を改善させることが出来るかもしれなかったのだ。
まだそれは単なる仮説に過ぎなかったが、今はその方法を取ることしか、この異常を正常に戻せる手立ては考えられなかった。
「キャナリ小隊のみなさん!!」
操作盤を打つ手を止めずに、キャナリ小隊たちに背を向けたまま彼女は叫んだ。
「結界が機能するまで魔物からこの街を守ってください!
それから、この街の方たちに結界が消えても慌てないよう伝えてください!」
リリーティアの指示にキャナリたちはお互いに顔を見合わせると、頷き合った。
「リリーティア、任せといて!」
キャナリの力強い言葉を耳にした途端、この危機的な状況の中にいても、リリーティアはほっと安堵する感覚があった。
ひとりじゃない。
そう思えた。
「ダミュロン、ヒスーム、ソムラス、それぞれ二面ある入り口を重点に隊を配備。
ゲアモンたちは防壁の高台から魔物の進入の監視を。いい、くれぐれも空からの敵には注意して」
「「「了解!」」」
キャナリの指示を聞くやいなやダミュロンたちその場を駆け出す。
しばらく、小隊たちは結界を停止させるための手筈を取るために、忙しなく街中を走り回った。
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「小隊、配置完了しました。結界を止めてもかまいません」
「分かりました。結界魔導器(シルトブラスティア)の結界を停止します!」
隊の一人からの報告を聞き、リリーティアは結界魔導器(シルトブラスティア)の機能を停止させた。
すると、街を覆うように上空に浮かんでいた白い輪が音を立ててすっと消えた。
ここから、彼女の頭脳戦とキャナリ小隊たちの持久戦が始まったのである。
街の人たちは一時的とはいえ、結界がなくなることについてはさすがに動揺の色を見せたが、
騎士団たちが守ってくれるということに安心したのも確かで、それほど混乱せずに今のところは落ち着いていた。
結界が停止している間、街の人たちは祈るようにして結界力の強化の成功を待ち続けた。
「(この術式を再構築させて、この術式に結合・・・・・・ううん、それじゃ駄目だ)」
リリーティアは試行錯誤を重ねた。
その間も彼女の中には、ずっとある言葉があった。
--------- 一人じゃない。
--------- みんながいてくれている。
--------- 信じてくれている。
--------- 自分を信じろ。
それが、彼女の中に響く言葉。
その言葉が彼女の背中を押し、どんな状況になっても冷静に考えを巡らせることができていた。
昨夜、ダミュロンが話してくれた言葉が、彼女の心を強くしていたのである。
原因を究明しようと、必死な彼女の額には薄く汗がにじんでいた。
一方、小隊たちも街へ侵入しようとする魔物たちと幾度か戦闘となっており、リリーティアが頑張ってくれているという想いを胸に精一杯やれることをやっていた。
お互いを信じ、想う。
お互いにそれに答えるために精一杯やる。
それが<帝国>騎士団 キャナリ小隊 の姿。
そして、今では、リリーティアの姿もその中にあった。