第2話 絆
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魔物の襲来を受けたが、一行は予定通りデイドン砦に到着した。
北マイオキに位置するこの砦は魔物の進入を阻むための防衛拠点で、旅人たちが行き交う交易地でもある。
この砦には結界魔導器(シルトブラスティア)はないが、造りは頑丈で、そう簡単に魔物は進入出来ない構造となっている。
その上、最近の魔物の凶暴化や一度に現れるその数の増加に伴って、砦壁を本来よりもさらに補強を行ったばかりだった。
まだその時の名残なのか、あちらこちらに木材や工具が無造作に置かれているのが目に付いた。
一行はひとまず、この砦で休憩を取ることにし、デイドン砦の一角にある天幕の下でキャナリやダミュロン、ヒスーム、ソムラス、ゲアモンのメンバーでエルカバルゼの道筋を確認し合った。
「しかし、リリーティアのあれには驚いた」
話にひと段落ついて他愛ない話を始めた頃、ダミュロンが言った。
「魔物に突っ込んでいった時はどうなるのかと思ったね」
「ええ、確かにあれには本当に吃驚したわ」
先の戦いで、リリーティアがウルフを倒した時のことを言っているようだ。
ダミュロンもキャナリも彼女の行動には驚きを隠せなかったらしい。
二人だけでなく、それを目の当たりにした者たち全員が彼女の行動には驚いていたという。
「・・・す、すみません。心配をおかけしてしまって」
リリーティアは目を伏せ、心底申し訳なさそう笑って肩を竦めた。
そんな彼女にキャナリは謝る必要はないと笑い返した。
「リリーティアさんって魔術だけではなくて武術も心得ているんですね」
「誰かに教わったのですかな?」
ソムラスに続き、ヒスームが聞いた。
「はい。母に教わりました」
「そういえば、あなたの動きってどこかリュネール隊長に似てたように思ったのだけれど・・・」
キャナリが思い出すように言うと、それを聞いたリリーティアは何故か困ったような笑みを浮かべた。
「リュネール隊長は、私の母ですから」
瞬間、キャナリたちの目が大きく見開いた。
「そ、そうだったのね」
「はい。母には、幼い頃からみっちりしごかれました」
未だ驚きを隠せないキャナリに、リリーティアは苦笑を浮かべて頷いた。
その時、彼女はふと当時のことを思い出した。
母に戦い方を教わっていた、幼い頃のことを。
リリーティアは幼い頃から、隙を見せない手足の運び方、敵の動きを読み取ることなど、様々な観点から見た戦い方を母であるリュネールから教えられていた。
中には、実際に戦闘で必要な事柄なのかと思えることまでも教え込まされ、リュネールの指南は容赦がなかったことをリリーティアは今でもはっきりと覚えている。
と言っても、それはどんな危険な状況でも切り抜けられるよう、その術(すべ)を身につけさせるためであり、言わばそれは娘を想う母の愛情の表れであった。
それをよく分かっていた彼女であるから、母の厳しい指南も嫌と思うことは一度もなかったのである。
またリュネールが扱っている剣術の手ほどきも受けており、剣の扱いにもそれなりに慣れていた。
そのため、特殊な武器《レウィスアルマ》を用いて戦っているといえど、彼女のその動きは戦闘術を指南したリュネールの動きとも似ているのであった。
「ああ、それであの動きね。なんか納得だわ」
驚きを隠せなかったダミュロンも納得した様子だった。
「それでは、リリーティア殿は天才魔導師ヘリオース氏の娘でもあるんですな」
「ヘリオース?誰なんだ?」
ヒスームの問いにゲアモンは首を傾げながら言った。
ゲアモンだけでなく、ダミュロンとソムラスも同じ反応を見せる。
「彼は天才的な魔導科学研究者でアスピオの魔導士ならその名を知らぬ者はいないっていう話よ。
今は親友でもある騎士団長に力を貸して、<帝国>のためにいろいろと研究をしているそうなの」
「へぇ、騎士団長の親友ね。それだけで、なんかすごい人っぽいわ」
リリーティアの父ヘリオースの事をまったく知らないダミュロンだったが、”騎士団長の親友”というだけですごい人物なのだということは感じたようだ。
実際、彼女の父は魔術に関して知識と才能を兼ね備える卓越した能力を持った人物であった。
また魔術だけでなく武術としての腕も優れており、リリーティアは父から魔術の知識だけでなくリュネール同様に彼なりの武術も教えられた。
だから彼女の動きはヘリオースのものとリュネールのもの、二人の動きを合わせられた術技となり、他の人たちと比べてさらに独特なものになっているのである。
「そう言えば、騎士団長もあなたのことをこう言ってたわね。『魔術にも長けて、武術もなかなかのものだ。あてにするといい』って」
「騎士団長公認の強さってわけだ」
「い、いえ・・・あれは閣下が大げさに言っただけで・・・」
キャナリとダミュロンの言葉に、リリーティアは少し慌てて首を振った。
そうしてしばらくの間、一行は他愛ない話を交わしながら、デイドン砦で一時の休息を過ごしたのであった。