第2話 絆
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「迎撃用意、前方2段!」
魔物との距離はもう目と鼻の先。
キャナリ小隊は突撃してくる魔物たちを迎え撃つために攻撃の態勢に入っていた。
小隊長の号令のもと隊員達は2列になって弓を構え、弓を構える隊員のその間と間に前衛隊が突撃の構えを取っている。
リリーティアはすぐにも始まるであろう戦闘の為に羽織っていた魔導服(ローブ)を急いで脱いで荷馬車の中に放り投げた。
そして、腰に携えていた愛用の武器を手に取る。
彼女のその手には短く細い棒のようなものが両手に一つずつあった。
白を基調に美しく装飾が施されていて、それはどこか気品さがあり、太陽に照らされ美しく輝く。
その武器も世界中に出回っているものではなく、珍しい類の武器であった。
それが、リリーティアの愛用の武器------------《レウィスアルマ》。
「構え!」
キャナリの合図に弓隊は一斉に弓を引き絞る。
リリーティアは体制を組む彼らから、少し離れた後ろの位置に立った。
「(信じると言ってくれたキャナリ小隊長のためにも)」
彼女は武器を握る手に力を込めた。
「(火と風が弱点の魔物が多い・・・・・・それなら)」
そして、武器を構えると、目を閉じ意識を集中させた。
すると、彼女の足下が青く光り出した。
青く光るそれが魔導器(ブラスティア)に様々な効果を生み出すために必要な術式と言われるものである。
丸い円の中に幾重にも絡み合った模様。
そこには複雑な文字も描かれており、その術式の持つ効果を示している。
文字式であるそれも魔術の理論を知らぬ者から見れば、その円の中に描かれた模様の一部ようにしか見えないだろう。
「神々(こうごう)たる雷神よ、恐れを知らぬ愚者に殃禍(おうか)なる断罪を」
静かな声。
それでいて凛とした声がリリーティアの口から零れる。
「射て!」
キャナリの号令に弓隊は一斉に矢を放った。
雨のように降り注ぐ矢が魔物たちを襲い、魔物たちの動きが僅かに衰えていく。
魔術の詠唱を終えると、リリーティアはふたつの《レウィスアルマ》を巧みに回転させ始めた。
《レウィスアルマ》から描かれていく術式。
それは、彼女の周りを包み込むようにして幾重にも絡み合っていく。
術式を描いていくその様はまるで舞でも舞っているかのようにも見え、彼女の動きには優美さがあった。
「セレスタインマレウス!!」
《レウィスアルマ》を高らかに掲げて術の名を叫ぶと、リリーティアの目の前に丸い円の術式が浮かんだ。
瞬間、魔物の頭上に黒雲が現れる。
雲間から轟く音が聞こえたかと思うと、体に響くような重々しい爆音と共に巨大な雷が幾度もその魔物たちを襲った。
「今よ、前衛隊!」
魔物の勢いはそこでほとんど止まり、その隙をついて前衛隊が魔物に飛びかかった。
瞬く間に、辺り一帯には魔物の咆哮と人と叫号が入り交じる。
「アーラウェンティ!スキンティッラ!」
リリーティアは周りの状況に合わせながら魔術を繰り出してキャナリ小隊たちを援護していった。
魔術発動の素早さ、正確さ。
優れた魔術の使い手だということがよく分かるほど、彼女の援護には的確さがあった。
そうして、魔物との戦闘が続いて、しばらく経った頃。
魔物も数も大幅に減り、リリーティアたちの形勢が有利になってきた。
「そろそろ片付きそうだな」
だいぶ余裕が出てきたダミュロンがひとり呟いた。
彼の言うとおり、この戦闘に片がつくのはもう時間の問題だろう。
彼だけではなく、誰もがそう思っていた。
そんな時だ。
「うわっ!」
「なっ、しまった!」
魔物であるウルフが一体、小隊たちの頭上を飛び越えていったのである。
小隊の陣の中へと入り込み、ウルフは何かをその目に捕らえると、その牙が鋭く光った。
「リリーティア!」
「くそっ!」
キャナリとダミュロンがほぼ同時に叫ぶ。
魔物は、陣の中心でいくつもの魔術を放っていたリリーティアを狙っていたのだ。
キャナリはすかさず弓に矢を番え、ダミュロンは弓を剣に変えて彼女の元へと向かって駆ける。
そうして焦る二人たったが、リリーティアはというと一も二もなくそのウルフに向かって、だっと走り出したのである。
その動きに一切の迷いはない。
見ると、彼女の手にある武器《レウィスアルマ》が光り輝いていた。
その武器の片先から黄緑色の術式が現れ、瞬く間にそれは羽の模様にも似た、剣の刃のような形に描かれていく。
それはまさにエアルで構築された刃であった。
「はぁ!」
そして、剣のように《レウィスアルマ》を振り上げ、ウルフに攻撃を仕掛ける。
ウルフはその攻撃に地面に倒れるも、すぐに跳ね起き、一層その牙をむき出しにしてリリーティアに襲い掛かった。
彼女は身を翻して難なくその攻撃を避けると、体を前に突き出して足を踏み込んだ。
「風よ!ウィリデスウォロ!」
下から上へと斬り上げられ、ウルフは上空へと飛んだ。
息つく間もなく、リリーティアはふたつの《レウィスアルマ》を交互に二度なぎ払うと、そこから三日月形の黄緑色の衝撃波を放つ。
それは、上空に舞うウルフを襲い、悲痛に叫び啼いた。
そのまま力なく地面へと落下するウルフを見下ろしながら、彼女はふっとひとつ息を吐いた。
彼女の前に倒れたウルフは二度と立ち上がることはなかった。
キャナリとダミュロンは彼女のその一連の動きを、ただ唖然として見詰めていたのだった。