第18話 罪
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「どうするか答えは出たかね」
あれから数日。
再び二人はダミュロンがいる部屋にいた。
アレクセイは寝台に半身を起こしている彼の傍に立っているが、リリーティアは扉の前でひとり立っていた。
「騎士団の再建は待ったなしだ。他にもなさなければならないことは山ほどある。ぜひ協力してもらいたい」
「・・・・・・なぜ俺なんです?」
ダミュロンは呟くように言った。
未だにその瞳に光は宿っていない。
数日経っても少しも変わることのない彼。
寧ろ、さらに悪い方向へと変わっていっているように見えた。
そんな彼の姿に、リリーティアは何かに耐えるように奥歯を噛み締める。
「君があの小隊の生き残りだからだ。それと私自身、君の能力のことは直接知っている。忘れたかね?」
かつてダミュロンがアレクセイと手合わせした時のことを彼女は思い出す。
そして、”理想を見に行く”と言っていたアレクセイの言葉が頭に浮かんだ。
ほんの数ヶ月前のことだが、随分昔のことのように思える。
あの時のキャナリ小隊の皆には、市民のためにという想いがあの瞳にはっきりと映っていた。
それは、目の前にいる彼の瞳の中にも確かにあったもの。
しかし、今はその影もなく、瞳には何も映してなどいない。
今の彼は、その時の彼とはまったくの別人のように見えた。
「確かに君が失ったものは大きい。だがそれでもまだできることがあるはずだ」
アレクセイは半ば訴えるように言ったが、当の本人ダミュロンは何も応えなかった。
「キャナリもそれを望んでいるのではないか、ダミュロン?」
その言葉に僅かなりに反応を示した彼。
けれど、彼のその表情にリリーティアは愕然とした。
「(そんな表情をさせたくて、私は・・・、私は・・・)」
彼女はさらに奥歯を噛み締める。
ダミュロンは、彼は、----------薄ら笑っていた。
それが、目を覚ましてから終始虚ろだった彼が見せた、最初の”笑み”だった。
それは何の感情もない笑い。
リリーティアにはどこか嘲笑っているような笑みにも見えた。
「ダミュロン・アトマイスはもう死んだんですよ、騎士団長閣下」
他人事のように、単なる事実を告げるようにダミュロンは言った。
「そんなことを言うんじゃない。現にこうして生きている」
「(・・・そう、生きている。生きているんだ)」
リリーティアはアレクセイの言葉を心の中で何度も繰り返す。
生きてほしい。
生きることを望んでほしい
その想いが彼に届くよう願いながら。
けれど、彼は未だ薄ら笑いを浮かべていた。
「まやかしですよ。この装置(からくり)のね」
「ダミュロンさんっ!!」
リリーティアは悲痛に叫びながら、ダミュロンの元へ駆け出した。
そして、彼の肩を強く掴む。
「しっかりしてください!生きているんです!あなたは生きてるんですよ!!生きてくださいっ!!どうかあの時のように-----っ!!」
----------おどけた笑顔を見せてほしい。
そう続けようとしたこの言葉は言えなかった。
喉の奥が詰まった。
『ダミュロン・アトマイスはもういない』
闇に沈んだ青淡の瞳が、そう言っていた。
変わることのない事実なのだと突きつけるように。
リリーティアは掴んでいた彼の肩から手を離し、ふらふらと後ずさる。
瞳は揺れ、手の震えは収まらず、彼ではない彼を、彼女は悲しみに歪む表情で見ていた。
「ダミュロン!!いい加減にしたまえ!!」
アレクセイが怒鳴った。
騎士であれ老獪な評議会の議員であれ、身を竦ませずにはすまさない、騎士団長アレクセイ・ディノイアの一喝。
それは自分に向けられたものではないリリーティアでも、はっと肩を大きく震わせ、驚きを隠せないほどだった。
だが、ダミュロンは壁に描かれた落書きのように微動だにしなかった。
「リリーティアがどんな想いで君を助けたと思っている!彼女の想いを踏みにじるつもりか!」
それでも、彼はアレクセイの言葉に何の反応も見せない。
リリーティアは茫然とその場に立ち尽くした。
抜け殻のようになったダミュロンに怒りを示し、厳しい言葉を放つアレクセイの言葉を彼女は遠い雨のように聞いていた。
それは、己の信念、秘めたる思い、アレクセイの放つ意思の熱が込められている言葉。
彼がこんな風に熱く語るのは、彼女も見たことがなかった。
それでも、一向にダミュロンは虚ろなままで、瞳に光は宿らない。
恐ろしいほど、虚無のままだった。
リリーティアがもたらした奇跡の灯陽《ひかり》。
その灯陽《ひかり》は、ダミュロンの瞳に宿ることはなかった。
再び、奇跡の灯陽《ひかり》は儚く消えてしまった。
--------------------それは、永遠に。