第18話 罪
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「リリーティア、大丈夫かね?」
騎士団本部内の廊下。
アレクセイの気遣う言葉にリリーティアは大丈夫だと返事を返したが、その言葉とは裏腹に彼女はあまりに疲れ切った様子であった。
痩せこけた頬に生気が感じられない彼女の顔。
その顔には暗い翳が刻まれているかようであった。
「わたしが様子を見てくる、君はしばらく部屋で休みなさい。あれからほとんど寝ていないであろう?」
そういうアレクセイも深く憔悴した顔だった
いつどんな時であろうと、有り余る生気を発散させているような彼も、今やその見る影もなく、目は落ち窪み頬はこけ、肌には生気がないように見えた。
テムザでのあの惨事から三週間。
あの日から二人はほとんど休んでいなかった。
遠征隊、<砦>の守備隊、すべてが全滅という残酷な事実に悲しみに浸ることもせず、
二人はただひたすらに、自分たちがやれること、やらなければいけないことを精一杯にやっていた。
リリーティアはヘルメスが残した冊子を元に、心臓魔導器(ガディスブラスティア)を用いて命を落とした騎士たちの蘇生を試みた。
やはり魔導器(ブラスティア)の力を借りても、人の命を蘇らせることはそう簡単に出来ることではなかった。
たとへ一度命を吹き返しても、しばらくすると心臓魔導器(ガディスブラスティア)の状態が原因不明の異常を起こし、結局命を救えないこともあった。
実質、移植処置の成功者は六人。
しかし、その中で心臓魔導器(ガディスブラスティア)の状態異常を起こし、最善の手を施してもそのまま2度目の命を失う者が続出した。
彼女はそんな予測不能に異常を起こす心臓魔導器(ガディスブラスティア)から、一瞬も気を休めることは出来なかった。
命を救えなかった悲しみに何度となく耐えながら、彼女は最後の最後まで諦めることをしなかった。
結果、現在の移植処置の成功者は二人。
その二人も移植後の経過は良くなく、テムザでの救助作業を終え帝都に戻ってくる間も彼女は二人の患者の傍を片時も離れなかった。
ただただ生きてほしいと強く想い続け、奇跡が起きることを願い続けた。
そして、奇跡は起きた。
闇の中に再び灯陽《ひかり》が灯ったのだ。
つい先刻、その内の一人が目を覚ましたのである。
リリーティアは心から喜んだ。
あまりにも嬉しくて、嬉しくて、心が震えた。
あの事態が起きてから常に張り詰めた表情であったアレクセイも、その時は安堵した柔らかな表情を浮かべた。
しかし、どうしたことか、今の二人にはその喜びの顔も、安堵した顔もなかった。
中でも、リリーティアに至っては寧ろ絶望的なものに近い表情が浮かんでいるように見える。
今、二人はある部屋へと向かっていた。
もうひとつの奇跡を願って。
その奇跡が事実になるよう、
そうして、もうひとつの灯陽《ひかり》がある部屋の前に辿り着いた。
アレクセイがその扉を開く。
リリーティアはその後ろで彼が部屋の中に入っていくのを不安げな面持ちで見詰めていた。