第17話 灯陽
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「(これからは ”お姉ちゃん”って呼べるのかなぁ)」
そう思うと、自然に口元にも笑みが浮かんだ。
本人を目の前にしたら、また言えなくなってしまうのかもしれないけれど。
あれからリリーティアは、キャナリ小隊の皆のことを思いながら毎日を過ごしていた。
彼女は誰よりも楽しみにしていた。
キャナリ小隊の皆と一緒に過ごす日々を。
そして、キャナリ小隊長のことを”お姉ちゃん”と呼べる日を。
しかし、そうして楽しみに待つことも、予期せぬ事態によって打ち崩されることになった。
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キャナリ小隊を含む遠征隊が帝都を出発して一週間ほど経った頃だ。
「(なにか騒がしいような・・・)」
騎士団本部の廊下を歩いていると、何やら騒々しい音に気づいた。
その音の方へ向かう途中、慌ただしく駆ける騎士に何度がすれ違った。
どこか只ならぬ雰囲気を感じたリリーティアは歩く足を速めた。
本部玄関前の大きく開けた広間に行くと、そこには多くの人に溢れかえっていた。
よく見ると、それは<帝国>騎士団の隊員たちばかりで、中には傷を追った者や顔を真っ青にして震えている者もいる。
その数は二百人、いや、それ以上だろうか。
外も騒がしいことから、それ以上の人数であるのは確かだ。
リリーティアは近くにいた騎士団長の補佐官、クオマレに声をかけた。
「クオマレさん、これは何があったのですか?」
「リリーティア殿。実は<砦>へ遠征に向かっていた騎士団が引き返してきたようで・・・」
クオマレ自身もまだ詳しいことを把握できていないが彼の知るところによると、<砦>へ遠征に向かった騎士団のその一部数が帝都へ引き返して来たのだという。
その中には怪我人もいて、多くの負傷者がいるということだった。
リリーティアは話を聞いてすぐにその人だかりの中へと走り、辺りをきょろきょろと忙しなく見回していった。
彼女はキャナリ小隊の姿を探していたのだ。
騎士たちの多くは疲労困ぱいといった様子で床に座り込んでいる。
引き返してきた騎士たちのその様子に不安を感じながらも、必死になって探してみたが、キャナリ小隊の誰一人としてここにはいなかった。
そんな時、アレクセイが何やら騎士たちと話をしているのを見つけた。
「今集められる最大限の戦力を持って、先に向かっている遠征隊を追いかける!早急にだ!」
「はっ!」
険しい顔つきで周りの騎士たちに指示を出していくアレクセイの元へ彼女は駆け寄った。
「アレクセイ閣下!お取り込み中申し訳ありません。一体これはどういう状況ですか?遠征隊の身に一体何が・・・」
リリーティアの問いにアレクセイの表情は一層険しくなり、帝都へ戻ってきた騎士たちの方を見詰めた。
「・・・・・・<帝国>全土を襲っている脅威は、私が思っていた以上のものだったかもしれん」
「・・・・・・・・・」
アレクセイの悟ったかような言葉にリリーティアは何も返せなかった。
ただ、彼が言った言葉に何かとんでもない事態が今まさに起きているのだということは理解した。
「今集められる戦力を伴って、私も共に先に向かった遠征隊を追う。しばらくは-----」
「私も同行させてください!」
「!?」
アレクセイの言葉が言い終わらないうちに彼女は声を上げた。
その言葉に彼は僅かに目を見開くと、すぐにその眉間に深いしわを浮かべた。
「何を言っている。危険を承知で言っておるのか?」
「分かっています。承知の上で、私も一緒に連れて行って欲しいのです」
アレクセイのその物言いは幾分か厳しいものだった。
それでもリリーティアは彼の目をじっと見据え、一歩も引かない態度を見せる。
「分かっておらん。私たちが向かおうとしている先には、何が待っているのか分からんのだ。そんな危険なところへ-----」
「覚悟は出来ています」
「そもそも君は<帝国>の魔導研究-----」
「仲間の危険に研究員も騎士もありません!そこには私の大切な仲間がいます!守りたい人たちがいるんです!」
リリーティアは真剣だった。
その脅威が実際どれほどのものなのかは分からない。
それはきっと計り知れないものなのだろう。
ただそれよりも、彼女はキャナリ小隊たちのことが心配だった。
「もしも、騎士団の足を引っ張っているようであれば、見捨てて頂いて構いません」
「リリーティア・・・・・・」
実際に彼女はそれぐらいの覚悟をしていた。
自分の命の危険よりも仲間たちのことで頭が一杯だった。
仲間たちの身が危険だという恐怖が遥かに大きかった。
そして、彼女は困惑しているアレクセイに向かって深く頭を下げた。
「お願いしますっ!みんなが心配なんです・・・!みんなの、・・・顔が見たい」
最後は消え入りそうなほど、か細い声で言葉を紡いだ。
それは、心に溢れる感情が口から零れ出たような、ほとんど意識せずに出た言葉であった。
何より切実な想いが込められた言葉だ。
みんなを守りたい。
みんなと話したい。
みんなの笑顔が見たい。
そんな想いが、最後の一言に込められている。
アレクセイの返事はなかなか返ってこなかった。
それでもリリーティアはぎゅっと目を閉じ、深く頭を下げ続けて彼の返事を待った。
「・・・分かった」
「!!」
望んでいた言葉が耳に届き、勢いよく頭を上げてアレクセイを見上げた。
最初から同行を認めてくれるまで引き下がるつもりはなかったが、思っていたよりも難なく認めてくれたことに少し驚いた。
戸惑いを見せる彼女にアレクセイは何も言わず、ただ真剣な面持ちで頷いてみせた。
それは、「頼りにしている」という彼からの信頼の意味が込められている。
それに応えるように、彼女も真剣な瞳で彼に頷き返したのだった。
同日、リリーティアを含めた救援部隊は帝都を出発した。