第16話 日常
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「ずっと呼びたかったらしい」
「え?」
遠征隊 千人 という大勢の騎士団員が帝都を出発してほどなく、ダミュロンがぽつりと声を零した。
隣にいたキャナリは、何のことを言っているのか分からず首を傾げる。
「”お姉ちゃん”ってさ」
その言葉に、彼が不意に話し始めた内容を理解した。
同時にキャナリは驚いて、僅かに目を見開く。
「それ、本当?」
「ああ」
ダミュロンは目を閉じて頷くと空を仰いだ。
空に浮かぶ雲はなく、済んだ蒼い空が一面に広がっている。
遠征に向かう自分たちに祝福でもしてくれているのか、
これから船に乗って任務地に向かう自分たちにとって今日は恵まれた日和であった。
「でも、まあ、恥ずかしかったのもあるんだろうけど、一番は向こうが嫌がるんじゃないかって不安だったらしい」
「そんな、だって妹みたいに思ってるって言ったのに」
「そうなんだけどねぇ。だからこそ、余計に怖かったんだろうな。・・・もしものことを思うとさ」
キャナリは彼の話を聞いた後、何やら考える様子でしばらく黙り込んだ。
「・・・・・・決めた」
「決めたって、何を?」
空から視線を下ろし、ダミュロンはきょとんとしてキャナリを見る。
「帝都に帰ったら、あの子を思いっきり抱きしめてあげるのよ」
キャナリは声を弾ませて続けた。
「会ったらすぐに、言葉よりも先にね」
そうすればきっと彼女は驚いて慌てふためくだろうと、キャナリは想像しているのだろう。
その顔には、嬉しげでありながらも悪戯な笑みが浮かんでいた。
「はははは。そりゃいいわ」
ダミュロンは声高らかに笑った。
その笑い声に周りにいた他の仲間たちも話の輪に入ってくると、皆が笑って、全員が同じように顔を赤くさせて慌てふためくリリーティア姿を想像した。
そして、喜んでいる姿を。
皆が皆、その時が来る日を待ちわびた。
誰もが思っていた。
いや、思っていたといよりも、それは当たり前のことでそもそも考える必要もなかった。
日常《いつも》のように任務を遂行して、日常《いつも》のように終わらせて、そしてまた、日常《いつも》のように新たな任務へ。
それは、これまで何度も繰り返してきた日常《いつも》。
それが彼らにとっての日常《いつも》の姿。
だからこそ、疑うこともしなかった。
今回の任務も日常《いつも》のように終わらせて、日常《いつも》のように帰ってくるのだと。
いずれは帝都へ帰る日が来て、またリリーティアと共に過ごす日常《いつも》の日々が訪れるのだと。
その当たり前の日常《いつも》が、当たり前でなくなる日がくるなど、誰もが予想していなかった。
それは、帝都で待つ彼女も。
刻一刻と、日常《いつも》の終わりが近づいていた。
第16話 日常 -終-