第16話 日常
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「・・・・・・・・・」
騎士団本部の廊下。
ダミュロンは歩いていた足を止め、天井を見上げる。
「ダミュロン?」
急に立ち止まった彼に、キャナリたちは不思議に思いながら振り向いた。
「悪りぃ、ちょっと先に行っててくれ」
そう言うと、ダミュロンは踵を返し、もと来た方へ駆け出していってしまった。
キャナリたちは不可解な彼の行動に首を傾げると、訝しげにお互いの顔を見合わせた。
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キャナリの執務室の前でじっと立ち尽くしていたリリーティアは、落胆した気持ちを抱えながら、その場を立ち去ろうと歩き出した。
「もう少しだったのにな」
「!」
その声に彼女ははっとして振り返る。
「ダ、ダミュロンさん・・・!」
そこには困ったような笑みを浮かべるダミュロンがいた。
気にかけてわざわざ戻ってきてくれたらしい。
返す言葉が見つからず、リリーティアはただ彼と同じような笑みを向けることしか出来なかった。
「絶対喜んでくれるって」
「・・・・・・」
ダミュロンは彼女に歩み寄ってそう言葉をかけるも、彼女は目を伏せて何も言わず黙っている。
彼女のその表情は昨日と同じに不安げであった。
二人の間に静寂した時が流れる。
彼は音もなく息を吐き苦笑を浮かべると、そっとリリーティアの頭に手を置き、彼女と同じ目線に顔を合わせた。
「俺が保証する!」
静寂を破り、にっと歯を見せて彼は笑う。
リリーティアは何度も目を瞬かせ、すぐ目の前にある彼の顔をじっと見る。
頭に乗せられた彼の手のぬくもりはどこか安心できて、彼の笑顔に不思議と勇気が湧いてくるような気がした。
そのぬくもり、その笑顔、そして、その言葉に、彼女の心の奥底に渦巻いている不安は徐々に消えていった。
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「どこ行ってたの?」
「ん?ちょっとね」
ダミュロンは何食わぬ顔でキャナリたちに合流した。
そして、騎士団本部を出て、出入り口門を潜ろうとした時だ。
「あの!!」
振り向くと本部の扉前にリリーティアが立っていた。
ここまで必死で走ってきたのか、肩を大きく上下させながら息をしている。
「リリーティア?」
キャナリは首を傾げて彼女を見る。
彼女は顔を伏せると、胸元を抑えて大きく深呼吸した。
そして、意を決したように顔を上げる。
「絶対に無事に帰ってきてね、キャナリお姉ちゃん!!」
必要以上に大きな声でそう言うと、リリーティアは口をぐっと噤んでキャナリを見据えた。
彼女の頬はこれまでにないほどに真っ赤に染まっている。
緊張のせいか、目まで潤んでいるようだ。
「いってらっしゃい!!」
言ったかみたか踵を返して駆け出し、すぐにその姿は騎士団本部の中へと消えていった。
あまりの恥ずかさに居た堪れなくなって、逃げた。
「「「「・・・・・・・・・」」」」
キャナリたちはまるで時が止まったかのように立ち尽くし、ただ呆然として彼女が走り去っていった方を見詰め続けている。
ただそんな中、ひとりダミュロンだけは口元に笑みを湛えていた。
余程、あれを言うのに勇気がいったのだろう。
彼女はそれだけ不安だったのだ。
「(よく頑張ったな)」
叫んでいた彼女のあの必死な表情を思い出しながら、彼は胸の内で呟いた。
「ねえ、今・・・」
「ん?」
ダミュロンはちらっと横目でキャナリを見る。
彼女は未だに呆気にとられている様子で、リリーティアが走り去っていった方をじっと見ている。
「”お姉ちゃん”って言ってくれた?」
「ああ、はっきり言ってたね」
ダミュロンは口元を押さえ、笑みを抑えながら答えた。
「・・・・・嬉しい」
キャナリが一言囁いた。
微かな声だったが、ダミュロンの耳にもはっきりと捉えた。
その言葉を聞いたらリリーティアは一体どんな顔をするだろうか。
彼はそんなことを考え、照れながらも嬉しげに笑う彼女の笑顔を想った。