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名前変換
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この音は私の鼓動の音なのだろうか、それとも私を抱きとめる彼の胸から流れ出ているものなのだろうか。どちらかはわからなかったが、覆いかぶさるようにして私を抱きとめるリゾットさんの体はなんだか熱くて、変に意識してしまった。最初の印象が嘘のように、この人は随分と私に甘いように感じた。
「…もう離したくはないんだ」
そう甘く、苦しげに言うリーダーさんに、どう反応していいかなんてわからなかった。恋愛に関しては初心者マークがまだ取れていないのだ。どう反応することが正解なのか、考えても頭がこんがらがるだけだった。ただただ首筋にあたる生暖かい息を感じて、ぼんやり立ち尽くすことしか未熟な私には出来ない。
「リーダーさん、」
と抵抗する素振りを見せても、更に腕の力を強めて、
「名前で呼んでくれないか…なんて、言ったところでわからないな」
とだけしか返ってこない。そもそも離す気は更々ないようだ。どうしたものか。
この人たちに囚われてからというものの、恐怖に対しての耐性がついてきたように感じる。触れられてもあまり恐ろしいとは感じなくなってきた。なぜなら彼らの目には殺意が宿っていないように見えたからだ(イルーゾォさんという方はその場にいなかったのでわからないが)。
「……もう、帰らないと」
何故だかはわからない。ぽろりと口からこぼれ落ちた。夕焼け小焼けが流れる訳もなく、そもそも窓にはカーテンが引かれているから時間の感覚はあまりない。ギアッチョさんたちに連れてこられてからしばらく経っているはずなので、おそらく昼間か夕方かのどちらかだろう。自分の中の子供な部分がそう告げたのだ。早く帰らないと心配するから、と友人の輪から外れようとする感覚に近かった。
母が心配している、お腹が空いている、なんだか寂しい。色んな理由はあった。何かが私を急き立てるかのような動きを見せたのだ。つまりは衝動だった。
ふと顔を上げる。リーダーさんの胸元に埋めた顔を逸らすようにして彼の顔を覗き込もうとした。
それが間違いだった。
「…!」
覗き込まなければよかった、と瞬時に判断した。少し遅かったようだ。
明らかに目には光が宿っていない。プロシュートさんは私に怒りや冷たさを持って近づいてきていたが、彼からはそれらの感情が全く感じられなかった。人間じゃあないみたいだ。
本当に怖いのはこの人だったのか。失念していた。全身にしびれのようなものが走って、腕からは鳥肌がのぞいている。何が起こるのか分からないことがとにかく恐ろしかった。誰だ、恐怖に耐性ができたなんて言ったのは。先程私を急かしていた我儘な子供の部分も引っ込んでしまい、ただただ怯え、震えることしか出来なかった。
リーダーさんは強引に私をベッドサイドに引き倒すと、感情のない目で見下ろしてきた。他の男の人と接したときも思ってはいたけど、この人はより思った、勝てる訳がないと。
逃げられない。きっと2メートルはあるであろう大きな背も、筋肉で膨れ上がった体つきも、全てが全て私の逃走意欲を削いでいった。
ああ、殴られるかもしれない。強く目をつぶって、なるべく痛くならないような体制を取った。
ガチャリ、何かを取るような音がする。取られたものであろうそれは躊躇うことなく私の頬に押し付けられた。
……電話だ。私の頰に押し付けたのは電話の子機だった。サイドテーブルの上に置かれた親機にもう片方の手をかけたまま、リーダーさんはこう告げた。
「残念だが、ここから出すことはもうないだろう。最期に連絡を取りたいやつがいるなら取ればいい、俺は鬼じゃあないからな」
……その言葉はまるで死刑宣告のようで、私を悲しみの深淵へと叩き落とすのにはちょうどいいように思えたのだ。
メラリ、メラリ、彼の目の奥で何かが悲しげに、はたまた怒りを込めて燃えている。その目にはどうも楯突く気が起こらず、ただただ震えながら思考を止めることしか出来なかった。