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どうやら私は頭の使いすぎて疲れていたようだった。あの燃えるような朝日を眺めていたら、気づいた頃には寝てしまっていた。後部座席に身を横たえていたらしく、目覚めたときには彼らの姿はなかった。後部座席は勿論のこと、運転席にも助手席にも2人の姿はない。1度は安心したものの、車窓から辺りを見渡してもこの場所がどこかわからず、ただただ不安になってしまった。
…もしかして、置いていかれた?
嫌なことを無意識に考えてしまう。いなくなった父親、仕事に行ってしまう母親、1人きりの授業参観、周りの環境とは違う私…それまでなんとも思っていなかった出来事が、突然惨めな思い出として蘇ってきた。
不安とは恐ろしいものだ、人の記憶を勝手に捏造してしまう。先程とは違い、全く知らない人達に囲まれていないこの状況は一番安心するはずだった。しかしなぜか1人であるという事実は私の身を固くした。
車のドアを押してみると、重たい扉がゆっくりと開いた。どうやら鍵は開いているらしい。目的地に着いたのだろうか、と予想したが、彼らがここにいないので答え合わせは出来なかった。
(今なら、逃げられるかな)
開きっぱなしのドアを押さえて地面に足をつける。勿論周りに誰もいないか確認して。体をずるり、外に出すと、昨日自分がいた場所とは全く違う雰囲気の場所にいると気づいた。
色褪せた灰色のレンガで作られた3階建てのアッパルタメント。植物の蔦が張り巡らされていて、人がいる雰囲気ではなさそうだ。建物が面した通りにも人の姿はなく、まるで廃墟に飛ばされたかのような気持ちになった。周りを見ると、この建物に似た家が乱立していて、同じコンセプトを持った1つの街になっていることも分かる。悪く言えば古いといった印象を受けるが、趣があってどちらかと言えば私は好きだ。小人が出てきたり、魔法の国に誘われたり。日本にもこんな街が出てくる映画がたくさんあったことを思い出した。…その映画のように、胸踊る展開ではないのだけれど。強いて言うならば、全ての窓はカーテンで閉ざされていて、中に誰がいるか分からないことだけが気がかりだった。
どうやらさっきいた場所は車庫らしく、車庫の上に家が作られているという構造だったようだ。ということは、メローネさんたちは上の階に何か取りにいっているか、もしくは仲間がいて何か話し合っているのかもしれない。
これ以上知らない人が来ても自分の身が危うくなるだけだ。できるだけ遠くにこっそり逃げてしまおう。意を決して建物が面した通りへ走りだそうとしたが、頭上にばさりと何かが被さってきて視界が真っ黒になる。なんとなく捲らなくても誰が来たかなんて分かるものだ。このぴりっとした雰囲気を持っているのは間違いなくギアッチョさんの方だろう。
「逃げようったってそう簡単にはいかねェぞ…こっちか気ィ遣ってやってんのに恩を仇で返そうっつーのかよ…」
ギアッチョさんはまた苛立ったように私を睨みつけた。意外なことに組まれた腕にはしなやかな筋肉がついていて、体が思わず萎縮した。殴られたならタダじゃあ済まないだろう。駄目だ、逃げられる気がしない。
そもそも彼は信じられないことに魔法が使えるようだった。それに私は足を怪我しているし、見つかるのも時間の問題だっただろう。恐怖はもはやない。これは諦めの情だ。
頭上に乗っているものを見てみると、真っ黒いパーカーのようだった。彼のものかは分からないが、私よりもだいぶ大きいことから男性用だということだけは分かった。
別に寒くもないし必要ないんだけど…返そうとすると、ギアッチョさんはパーカーを私に着せようとした。話を聞く気はないんだ…
「いいか、俺が良いと言うまで絶対にフードから顔を出すなよ。深く被ってなるべく顔は隠せ。俺もなんとかしようとはするがどうなるか分かんねェからよォ」
また命令…。イタリアの人はみんなそうなんだろうか。女性には優しいなんて言われている訳だし、他にもそういった謳い文句があってもおかしくない。
…次は何が起こるんだろう。言うことを聞かないと怒られそうだしここは大人しく聞き入れておこう。大きなパーカーを着てフードを目深く被ると、ギアッチョさんは何の前触れもなく私を横抱きにした。
「、お、重いですから大丈夫です…!」
「あ?んなの気にしてる場合じゃねェんだよ、ぜってェ顔出すなよ」
あ、重いことは否定しないのか…失礼な人だ。イタリア人にも女性に優しくない人はいるんだな、なんて。失礼なのは私も同じかあ。
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