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そう思っていた時だった。突然車がけたたましい音を立てて道の外れで止まったのだ。私の体もブレーキに合わせて前方へ吹き飛びそうになった。メローネさんに抱えられていなければ、間違いなく助手席のシートに体を叩きつけられていただろう。彼も少し驚いたような表情をしていたし、このブレーキは計画的なものではないはずだ。したくはないが、こればかりはメローネさんに感謝してしまった。
「あの、何かあったんですか…?」
ギアッチョさんは先程から何かをぶつぶつと呟いていたし、私を追いかけてきていたときも正直怖かったから話しかけたくはない。でもなにか理由があるはずだし、聞かないといけない雰囲気がどこかにある。ギアッチョさんのシート越しの背中は震えていて、なぜだか泣いている子供のように見えてしまった。
「…かよ」
「え?」
声が小さすぎて拾うことが出来なかった。ぶっきらぼうな返事を返してしまった、怒られるかな。そう思い思わず身構えると、私が想像していた内容とは程遠い怒りを彼は覚えていたらしかった。
「お前さっきから聞いてりゃァ俺らのことを知らねえだ?随分と舐めたマネしてくれるじゃあねえか…そもそも俺らが知ってんのによォ、お前が知らねえなんておかしいよなあ?おかしくねえか?それにいつもならそんなセクハラよォ、メローネのド頭叩いてでも止めてただろうになんでそれをしねェ。カマトトぶってるつもりか?俺らをからかってんのか?」
コツコツと音がする。ギアッチョさんがハンドルを指で鳴らす音だ。一般的に怒っているときにやる動作だ。
怖い、と思ってしまった。自分が何も知らないことも、こんな目に遭っているという事実も、目の前にいる彼も。何もかもが恐ろしくて仕方がない。
ギアッチョさんの口が止まることはない。次々に私への不満が溢れ出て、その不満は私の胸を刺していく。勿論彼のことなど知らなかった。それでも、彼の悲痛な叫びは私の心を締め付けるのに十分だった。
「クソッ!クソがッ!じゃあなんで俺らはこんなに必死になってまでお前のことを探したんだ!?約束だって覚えてねェようだし、また会いてェと思ってたのは俺たちだけだったってことかよ?!どこまでも舐め腐りやがって!!誰がいけねェんだよ!!誰を殺せばお前は戻ってくンだよ!!なんで俺たちばかりこんな…ッ!」
ギアッチョさんがハンドルを何度もこぶしで殴りながら叫び散らす。その音は私の脳内にしつこく響き渡って仕方がなかった。この人たちは私のことをなんで知っているのか、なんで私を探していたのか、どうして、なんで。色々な疑問が湧き上がってきたものの、解決するはずもなく、ただただ彼らのうねるような感情に呑まれることしか出来なかった。
彼がハンドルをもう一度握ったのは、山の向こうでちらちらと炎のように燃え盛る朝日が見えた時間帯だった。静かにどこかへ向かう車の中で、震える拳を握りしめながら、私は自分の運命を呪った。
涙なんて出なかった。ただただ何も知らない自分が憎くて、母親にさえ迷惑をかけている事実が情けなくて、こんな状況が馬鹿みたいだと思えて、あの炎が私を飲み込んで連れ去ってくれればいいのにと願うばかりだった。
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