Put on a happy face
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うとうとしていると誰かの声が聞こえた。
シュウが戻ってきたのかな…?
寝ぼけ眼で顔を上げると目の前にいたのはシュウじゃなかった。
「あら、こんな所で寝てるなんてアナタ、そんなに暇なの?今他の人は死にものぐるいで仕事してるわよ?
いいご身分だこと!」酷く嫌味ったらしい言い方だ。
「お久しぶりです…、先輩。」
目の前にいたのは同じ公安職員の女性。
年代は50代だと思う。
見た目はどこにでもいそうな、ふくよかな年配女性だ。その良くも悪くも特徴の無い風貌を活かして普段はスーパーや会社等へ潜入捜査をしているとか。
母から直接話を聞いた事はないが、この人は私の母の教育係的存在だったらしい。
これは推測だけれども、母は公安に入る前から相当優秀だった。この人に教わる事は大して無かったと思う。そのせいで母に嫉妬し妬んでいるのだろうと思う。
公安に入った頃から、私が娘だと知ると当たりが尋常ではない程キツくなった。
いつも何かしら突っかかってはグチグチと小言を言ってくる。
まぁ潜入メインな人なので、警視庁内で会う頻度は元々低かった。
私も潜入続きでしばらく会ってなかったのにな。
………はっ!まさか!
人手不足だからこの人も毎日登庁する…ってこと!?
これから毎日顔を合わせるって事ー!!??
いやだー!!ほんとーにいやだー!!
「ちょっとアンタ!!話聞いてんの!!」
どうやらぼーっとしている間何やら言っていたらしい。ごめん、全然聞いてなかった。
でもどうせ私の悪口でしょ?
説教や陰口が趣味だもんね?
母には勝てなかったけど、私には勝てるんじゃないかと思ってあーだこーだ言うんでしょ?
だが一応は先輩、警視庁といえど一般企業と同じで年功序列はある。
だから適当にあしらうしかない。
「すみません、眠くて…。ここ何日もろくに寝てないんです。」
「みーんなそうよ!!アンタだけじゃないわ。
あーぁ。降谷君も可哀想ねぇ。こんなだらしない子が部下なんて。私だったら即クビにしてるわよ。
いい?あんたみたいな才能なしがこうして未だに公安に居られるのも、あたしが昔色々教えたお陰なんだからね!感謝しなさいよ!」
いやいや、ろくに教わったことねーわ。
このオバサン……いや、この先輩は降谷さんが大好きで酷く贔屓している。
贔屓といっても降谷さんに会う度にベタベタして、褒めまくっているだけど。
「そういえば、だいぶ前から噂になってるけど………アンタ、降谷君と恋人なの?
もしかして、降谷さんと寝たの?
来音さんの所の娘だもんね?
あの女の娘ならやりかねないわー。
上にいくためならなんでもする女だったからね、アンタの母親。
アンタも、ちょーーっと見た目が良いからっていい気にならないことね?」
私の事はいいが母の事を侮辱されるのは許せない!
母は"身体"を使って情報を得るなんて事は絶対になかった。
身を売って情報を得る位なら死ぬといつも言っていた。
何も知らない癖に!!
あぁ、腹が立つ!!!クソマウントババア!!
「で、どうなの?降谷君との関係は?付き合ってるの?なんとか言いなさいよ!!」
黙り込む私に痺れを切らせたのか声を荒げる。
うるさい。耳元で怒鳴らないでほしい。
私はゆっくりと立ち上がって言った。
「私が誰と付き合おうが関係ないでしょう?」
すると彼女は顔を真っ赤にして怒り出した。
「な、生意気なこと言ってんじゃないわよ!!!!」
今度はビンタですか。
パァンッ!という音が部屋に響き渡る。
うわ〜。
これ絶対赤くなってるヤツじゃん。
ヒリヒリする頬を抑えながら、冷静さを保ったまま淡々と答える。
「暴力を振るわないでください。
上に訴えますよ。
……それとも、警察を辞めたいんですか? それはそれでこちらとしては有難いですけど。」
意地悪そうに言うと彼女の顔色がみるみると青ざめていく。
まぁ、辞める気はないよね。
公安ってステータスがアンタの唯一の取り柄だもんね?
色々言い返したいが、面倒臭いことになるからここで我慢!
「ふんっ!そんな脅し効かないんだから!!
まっ、どーーーせアンタが降谷君の恋人になった所で?すぐに飽きられて捨てられるのは目に見えてるけどね!」
「ホォー?彼女は降谷君の恋人だったのか?
それは知らなかったな。」
先輩は突然現れた男に酷く驚いていた。
「すまない、驚かせてしまったようだな?
俺は全く気配を消していなかったんだが…。」
すまないと言いつつ、全く詫びる気持ちはなさそう。むしろ背中からどす黒いオーラが漂っている。
「だ、誰?もしかして新しい公安の職員かしら?
何処の課から異動してきたの?
よかったら私が手取り足取り教えてあげてもよろしてよ?」
先輩が虚勢を張って言うとシュウはフッと笑った。
そのまま何も言わず見下ろす赤井秀一。
男のオーラに圧倒されて固まっている先輩。
私から見たらめちゃくちゃシュール。
とりあえず、先輩にはさっさと部屋を出てってもらいたい。
「私と降谷さんは付き合ってません。」
「嘘おっしゃい!好きなアイスの話とか、その日の夕食の相談とかしてたらしいじゃない!
実は一緒に住んでるんでしょう!!」
それくらい誰にでもあるだろ。
小学生かよ。いや、私の知ってる小学1年生ですら、そんな低レベルな事言わないぞ?
それに将来はアンタよりきっと優秀な人材だぞ?
「彼女は降谷君の恋人ではない。
俺の恋人だからな。」
「フン。今度は貴方が騙されている番?降谷君から新しい人に乗り換えたの?
ほぉーんっと、手が早いわねぇ〜。
あなたも可哀想。こんな女やめておいた方が良いわよぉー?あなたの為を思って言ってるの。」
ババアは酷く媚びを売るような目でシュウを見つめた。おっと、口が悪くなった。
先輩は新しく玩具を見つけたような、嬉しそうな顔をした。…気持ち悪い。
「俺のため?そう言う人に限って自分が言いたいことを言っているだけだ。善意なんかじゃない。」
「この女と母親がどんな奴かあなたに教え」
「黙れ。」
私と先輩の間にシュウが入って私を隠すようにしてくれた。
圧倒的に背の高いシュウは私をすっぽりと覆い隠す。
その時初めてシュウと目が合った。
私の頬の赤みに気づいたんだろう。
「…俺の恋人を傷つけたのは、おまえか?」
私にもビリビリと伝わる殺気。
皮膚がピリピリと痛みそうな感覚。
組織にいた頃を思い出すな…。
「ヒッ…!だったらなんなの!」
それでもなおニヤついて歯向かう先輩。
ある意味強者。
そう思っていたらシュウが目を見開いて凄い早さで先輩を壁際に押し付けた。
「な!なによ!私に暴力振ったら二度と昇進はないわよ!公安でいられなくなるわよ!」
「別に構わんさ?俺はFBIだからな。」
そう言ってシュウは右腕を振り上げた。
「シュウ!だめ!!!」
轟音と共に先輩の真横の壁が丸く凹む。
パラパラと壁の破片が床に落ちた。
「…次は当てるぞ?いいか?二度と、
"俺の"恋人に手を出すなよ?
それと、今後今回のような減らず口を叩いたら…二度と口を開けなくしてやる。」
「ひいぃぃっ……!!」
怯えきった様子で先輩は走って逃げていった。
「シュウ!」
急いでシュウの手を確認した。
よかった、見る限り怪我はしていないようだ。
無理矢理手を握ったり開かせたりしたが、問題なく動かせているみたい。
「焦った、殴ったかと…。」
「フン。殴るほどの価値もない。」
「もう!次はこんな事しないで!手を怪我したらどうするの!」
冷や汗で私の背中はびちゃびちゃだ。
「……頬、赤いな。すまない、すぐにでも助けるべきだったな。少々様子を探ってたんだが…まさか引っ叩いていたとは思わなかった。
少し座って待っていろ。」
そう言うと自販機から冷たいお茶を購入して手渡された。
「とりあえず、これで冷やしておくといい。
今コンビニで氷買ってくるよ。」
「大丈夫だよ、これくらい大したことないし。」
「ダメだ。後々腫れたらどうする。」
語気の強いシュウに圧倒されて素直に冷やすことにした。
「……ありがとう。」
「行ってくる。」
「うん。ごめんね、ゴタゴタに巻き込んで。
寝る時間なくなっちゃうね…。」
「気にするな。前にも言ったかもしれないが、俺は元々ショートスリーパーだからな。大丈夫だ。
それにまだ時間はある。
俺が帰ってくるまで少しでも寝てろ。」
真っ黒な革ジャンを脱いで丸めベンチに置いた。
「少し固いかもしれないが、枕にするといい。」
「え、でも、それだとシュウが……」
春先とはいえ、外はまだ少し寒い。
「問題ない。イラついて暑いくらいさ。」
手をヒラヒラさせながら行ってしまった。
横になると思いの外ジャケットは柔らかかった。
沢山着てるから繊維が解れて革が柔らかくなってるんだろうな。
よく見るとあちこち傷だらけだ。
折れシワも凄い。
深く刻まれたシワを一つ一つなぞる。
手相のようにいくつも張り巡らされた線。
どれだけの思いをして、どれだけの努力をしてきたのだろう。
長年染み付いたタバコの匂い。
さっきまでの嫌な気持ちがほぐれていく。
心地良い。
目を閉じればあっという間に夢の中へ誘われてしまった。
「待たせたな。」
いつの間にかシュウが戻って来ていた。
「ん……。」
「そのまま寝ていて構わん。冷たいが、我慢しろ。」
覚悟していたはずなのに押し当てられたものの冷たさに皮膚が驚く。
「ヒェッ!」
一瞬飛び上がった私を見てシュウが笑った。
「可愛い声出すじゃないか。もっと聞かせてくれよ?」
「ばか!」
「フッ……。ハンカチ巻いたんだがな…。やはりタオルの方が良かったな。」
紺色のチェック柄のハンカチ。
結露で少し濡れていた。
ハンカチが顔に張り付く感覚すら、なんだか嬉しかった。熱い頬がひんやりと冷まされていく。
「何から何まで、ごめんね。」
「申し訳なさそうな顔をされるより、君の笑顔が見たい。」
「あ、ありがと…。」
恥ずかしくてはにかみながらお礼を伝えると満足そうに再度笑った。
頬は冷たいけど、握っている手は温かい。
お互い寄りかかりながら再び夢の国へと落ちた。
シュウが戻ってきたのかな…?
寝ぼけ眼で顔を上げると目の前にいたのはシュウじゃなかった。
「あら、こんな所で寝てるなんてアナタ、そんなに暇なの?今他の人は死にものぐるいで仕事してるわよ?
いいご身分だこと!」酷く嫌味ったらしい言い方だ。
「お久しぶりです…、先輩。」
目の前にいたのは同じ公安職員の女性。
年代は50代だと思う。
見た目はどこにでもいそうな、ふくよかな年配女性だ。その良くも悪くも特徴の無い風貌を活かして普段はスーパーや会社等へ潜入捜査をしているとか。
母から直接話を聞いた事はないが、この人は私の母の教育係的存在だったらしい。
これは推測だけれども、母は公安に入る前から相当優秀だった。この人に教わる事は大して無かったと思う。そのせいで母に嫉妬し妬んでいるのだろうと思う。
公安に入った頃から、私が娘だと知ると当たりが尋常ではない程キツくなった。
いつも何かしら突っかかってはグチグチと小言を言ってくる。
まぁ潜入メインな人なので、警視庁内で会う頻度は元々低かった。
私も潜入続きでしばらく会ってなかったのにな。
………はっ!まさか!
人手不足だからこの人も毎日登庁する…ってこと!?
これから毎日顔を合わせるって事ー!!??
いやだー!!ほんとーにいやだー!!
「ちょっとアンタ!!話聞いてんの!!」
どうやらぼーっとしている間何やら言っていたらしい。ごめん、全然聞いてなかった。
でもどうせ私の悪口でしょ?
説教や陰口が趣味だもんね?
母には勝てなかったけど、私には勝てるんじゃないかと思ってあーだこーだ言うんでしょ?
だが一応は先輩、警視庁といえど一般企業と同じで年功序列はある。
だから適当にあしらうしかない。
「すみません、眠くて…。ここ何日もろくに寝てないんです。」
「みーんなそうよ!!アンタだけじゃないわ。
あーぁ。降谷君も可哀想ねぇ。こんなだらしない子が部下なんて。私だったら即クビにしてるわよ。
いい?あんたみたいな才能なしがこうして未だに公安に居られるのも、あたしが昔色々教えたお陰なんだからね!感謝しなさいよ!」
いやいや、ろくに教わったことねーわ。
このオバサン……いや、この先輩は降谷さんが大好きで酷く贔屓している。
贔屓といっても降谷さんに会う度にベタベタして、褒めまくっているだけど。
「そういえば、だいぶ前から噂になってるけど………アンタ、降谷君と恋人なの?
もしかして、降谷さんと寝たの?
来音さんの所の娘だもんね?
あの女の娘ならやりかねないわー。
上にいくためならなんでもする女だったからね、アンタの母親。
アンタも、ちょーーっと見た目が良いからっていい気にならないことね?」
私の事はいいが母の事を侮辱されるのは許せない!
母は"身体"を使って情報を得るなんて事は絶対になかった。
身を売って情報を得る位なら死ぬといつも言っていた。
何も知らない癖に!!
あぁ、腹が立つ!!!クソマウントババア!!
「で、どうなの?降谷君との関係は?付き合ってるの?なんとか言いなさいよ!!」
黙り込む私に痺れを切らせたのか声を荒げる。
うるさい。耳元で怒鳴らないでほしい。
私はゆっくりと立ち上がって言った。
「私が誰と付き合おうが関係ないでしょう?」
すると彼女は顔を真っ赤にして怒り出した。
「な、生意気なこと言ってんじゃないわよ!!!!」
今度はビンタですか。
パァンッ!という音が部屋に響き渡る。
うわ〜。
これ絶対赤くなってるヤツじゃん。
ヒリヒリする頬を抑えながら、冷静さを保ったまま淡々と答える。
「暴力を振るわないでください。
上に訴えますよ。
……それとも、警察を辞めたいんですか? それはそれでこちらとしては有難いですけど。」
意地悪そうに言うと彼女の顔色がみるみると青ざめていく。
まぁ、辞める気はないよね。
公安ってステータスがアンタの唯一の取り柄だもんね?
色々言い返したいが、面倒臭いことになるからここで我慢!
「ふんっ!そんな脅し効かないんだから!!
まっ、どーーーせアンタが降谷君の恋人になった所で?すぐに飽きられて捨てられるのは目に見えてるけどね!」
「ホォー?彼女は降谷君の恋人だったのか?
それは知らなかったな。」
先輩は突然現れた男に酷く驚いていた。
「すまない、驚かせてしまったようだな?
俺は全く気配を消していなかったんだが…。」
すまないと言いつつ、全く詫びる気持ちはなさそう。むしろ背中からどす黒いオーラが漂っている。
「だ、誰?もしかして新しい公安の職員かしら?
何処の課から異動してきたの?
よかったら私が手取り足取り教えてあげてもよろしてよ?」
先輩が虚勢を張って言うとシュウはフッと笑った。
そのまま何も言わず見下ろす赤井秀一。
男のオーラに圧倒されて固まっている先輩。
私から見たらめちゃくちゃシュール。
とりあえず、先輩にはさっさと部屋を出てってもらいたい。
「私と降谷さんは付き合ってません。」
「嘘おっしゃい!好きなアイスの話とか、その日の夕食の相談とかしてたらしいじゃない!
実は一緒に住んでるんでしょう!!」
それくらい誰にでもあるだろ。
小学生かよ。いや、私の知ってる小学1年生ですら、そんな低レベルな事言わないぞ?
それに将来はアンタよりきっと優秀な人材だぞ?
「彼女は降谷君の恋人ではない。
俺の恋人だからな。」
「フン。今度は貴方が騙されている番?降谷君から新しい人に乗り換えたの?
ほぉーんっと、手が早いわねぇ〜。
あなたも可哀想。こんな女やめておいた方が良いわよぉー?あなたの為を思って言ってるの。」
ババアは酷く媚びを売るような目でシュウを見つめた。おっと、口が悪くなった。
先輩は新しく玩具を見つけたような、嬉しそうな顔をした。…気持ち悪い。
「俺のため?そう言う人に限って自分が言いたいことを言っているだけだ。善意なんかじゃない。」
「この女と母親がどんな奴かあなたに教え」
「黙れ。」
私と先輩の間にシュウが入って私を隠すようにしてくれた。
圧倒的に背の高いシュウは私をすっぽりと覆い隠す。
その時初めてシュウと目が合った。
私の頬の赤みに気づいたんだろう。
「…俺の恋人を傷つけたのは、おまえか?」
私にもビリビリと伝わる殺気。
皮膚がピリピリと痛みそうな感覚。
組織にいた頃を思い出すな…。
「ヒッ…!だったらなんなの!」
それでもなおニヤついて歯向かう先輩。
ある意味強者。
そう思っていたらシュウが目を見開いて凄い早さで先輩を壁際に押し付けた。
「な!なによ!私に暴力振ったら二度と昇進はないわよ!公安でいられなくなるわよ!」
「別に構わんさ?俺はFBIだからな。」
そう言ってシュウは右腕を振り上げた。
「シュウ!だめ!!!」
轟音と共に先輩の真横の壁が丸く凹む。
パラパラと壁の破片が床に落ちた。
「…次は当てるぞ?いいか?二度と、
"俺の"恋人に手を出すなよ?
それと、今後今回のような減らず口を叩いたら…二度と口を開けなくしてやる。」
「ひいぃぃっ……!!」
怯えきった様子で先輩は走って逃げていった。
「シュウ!」
急いでシュウの手を確認した。
よかった、見る限り怪我はしていないようだ。
無理矢理手を握ったり開かせたりしたが、問題なく動かせているみたい。
「焦った、殴ったかと…。」
「フン。殴るほどの価値もない。」
「もう!次はこんな事しないで!手を怪我したらどうするの!」
冷や汗で私の背中はびちゃびちゃだ。
「……頬、赤いな。すまない、すぐにでも助けるべきだったな。少々様子を探ってたんだが…まさか引っ叩いていたとは思わなかった。
少し座って待っていろ。」
そう言うと自販機から冷たいお茶を購入して手渡された。
「とりあえず、これで冷やしておくといい。
今コンビニで氷買ってくるよ。」
「大丈夫だよ、これくらい大したことないし。」
「ダメだ。後々腫れたらどうする。」
語気の強いシュウに圧倒されて素直に冷やすことにした。
「……ありがとう。」
「行ってくる。」
「うん。ごめんね、ゴタゴタに巻き込んで。
寝る時間なくなっちゃうね…。」
「気にするな。前にも言ったかもしれないが、俺は元々ショートスリーパーだからな。大丈夫だ。
それにまだ時間はある。
俺が帰ってくるまで少しでも寝てろ。」
真っ黒な革ジャンを脱いで丸めベンチに置いた。
「少し固いかもしれないが、枕にするといい。」
「え、でも、それだとシュウが……」
春先とはいえ、外はまだ少し寒い。
「問題ない。イラついて暑いくらいさ。」
手をヒラヒラさせながら行ってしまった。
横になると思いの外ジャケットは柔らかかった。
沢山着てるから繊維が解れて革が柔らかくなってるんだろうな。
よく見るとあちこち傷だらけだ。
折れシワも凄い。
深く刻まれたシワを一つ一つなぞる。
手相のようにいくつも張り巡らされた線。
どれだけの思いをして、どれだけの努力をしてきたのだろう。
長年染み付いたタバコの匂い。
さっきまでの嫌な気持ちがほぐれていく。
心地良い。
目を閉じればあっという間に夢の中へ誘われてしまった。
「待たせたな。」
いつの間にかシュウが戻って来ていた。
「ん……。」
「そのまま寝ていて構わん。冷たいが、我慢しろ。」
覚悟していたはずなのに押し当てられたものの冷たさに皮膚が驚く。
「ヒェッ!」
一瞬飛び上がった私を見てシュウが笑った。
「可愛い声出すじゃないか。もっと聞かせてくれよ?」
「ばか!」
「フッ……。ハンカチ巻いたんだがな…。やはりタオルの方が良かったな。」
紺色のチェック柄のハンカチ。
結露で少し濡れていた。
ハンカチが顔に張り付く感覚すら、なんだか嬉しかった。熱い頬がひんやりと冷まされていく。
「何から何まで、ごめんね。」
「申し訳なさそうな顔をされるより、君の笑顔が見たい。」
「あ、ありがと…。」
恥ずかしくてはにかみながらお礼を伝えると満足そうに再度笑った。
頬は冷たいけど、握っている手は温かい。
お互い寄りかかりながら再び夢の国へと落ちた。