Put on a happy face
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ナマエを病院へ送ってから、丸2日。
未だに何も連絡はない。
いつも彼女に持たせていた、GPS付きの指輪は枕元に置いたまま。
何処に居るのか全く分からない。
昨日マンションを訪ねたが留守だった。
帰ってきた形跡はなかった。
真っ暗な部屋に差し込む月明かりは、テーブルの上のフルーツサンドを照らす。
これは夕方、隣によく遊びに来る子供達と作った物だ。
甘い物が好きな彼女なら喜ぶだろうと思って一つ取っておいたが、このままだと用無しになってしまいそうだ。
窓から神々しく輝く満月を見上げる。
「なぁ、彼女の居場所を教えてくれないか?」
グラスに入れたバーボンを月に掲げた。
我ながら笑ってしまう。月に教えを乞うなど。
その時、タイミング良くインターホンが鳴った。
やっと戻ってきたかと胸を撫で下ろす。
どうやら月に尋ねた効果はあったようだ。
「……」
ドアを開けておかえり、と声をかけようとしたが、彼女の状態を見て声が出なかった。
顔から服上下共に血に塗れていた。
「ただいま。いやぁ、連絡出来なくてごめんね。
あ、これ返り血だから!大丈夫、怪我はしてないよ!」
とりあえず素早く家に入れて施錠した。
「…何があった?」
「……。」
彼女は悲しそうな、困ったような顔をしていた。
「言え。」彼女の腕をぐっと掴んで睨む。
「…とりあえず…言える事だけ、言う。
あの時昴が私を助けるために入った施設、中には犯人以外に男が捕らえられていた。
一昨日、その男に会うために病院へ行った。
名前は未良勝太。
その男が組織の主な司令塔だったみたい。
そいつはある人物に勧められて、とある目的の為に武器や薬を売り始めた。水産会社で働いていたから、魚と称して様々な国に違法な物を貿易してたみたい。
結果、かなり大きな犯罪組織になった。」
「…目的は?」
「あの男の1番の目的は、人生で一番気に入った女と心中する事だった。
だから、金がたんまり集まった後は金を使って店をいくつか経営してたみたい。
キャバクラや風俗、レンタル彼女。様々な女を雇った。その中で気に入った女を探すために。
ある程度働かせてから好みの女を見つけては連れ去り、気に入らなければ各国に売った。
捜査されにくくする為、身内がいない孤独な女を狙ってた。居なくなっても捜索願いを出されにくいようにね。
バレそうな場合は、この間みたいに遺体を持ってきて女達は死んだ事にして、客も全員殺してきたらしい。」
「あの時の遺体は、やはりそういう事だったのか。」
「私と同じドレス着てたし、まるで誰かさんの遺体すり替えトリックみたいね。」
彼女が冗談めいて俺を見上げた。
「それで、何故血まみれなんだ。」
彼女は暫く黙っていたが、少ししてようやく重い口を開いた。
「…必要があって、未良を含め数名殺した。
意地でも私を殺そうとしてきたから、やむなく。」
こんなに冷徹なナマエの目は初めてだった。
それと同時にあぁ、彼女は公安だったなと冷静に思った。
「…そうか。よく、生きて帰ってこれた。
シャワー浴びて着替えてこい。
フルーツサンド、食うか?
昼間に子供達と作ったんだ。」
「嘘?シュウが、フルーツサンド?」
冷徹な目はすっかり影を潜めて彼女は笑った。
シャワーを浴びて、ニコニコと嬉しそうにフルーツサンドを頬張る彼女はいつも通りに見えた。
「そういえば、マフラー貸してくれたのってキスマーク隠すためだったのね。未良がマフラー外して首元を見た時、物凄く怒り狂ってたよ。
他に男がいるのか!って。
そのおかげで相手が冷静じゃなかったから、簡単に殺れたけど…。」
「…牽制しておいて良かったと心底思う。」
「ご馳走様でした。美味しかった。ありがとう。
それじゃあ私、そろそろ行くね。まだ事後処理が残ってるから。それとここに置いてた着替えとか、使いたいから持って帰るね。
それと、マフラー、返す。ちゃんと血は付けないようにしたから綺麗だよ。」
「それはやる。外はまだ寒いからな。」
荷物を持つ彼女の手をしっかりと握った。
「…それで、いつまで潜るつもりだ?」
「…潜る?なんの事?」
「前にも言ったはず。俺には君のポーカーフェイスは通用しない。
…潜入捜査、するんだろう。」
「……私の事、もう忘れて。」
彼女は全て諦めたような顔で俯いた。
「忘れられる訳、ないだろ。」
「シュウは、幸せになって。私の分も。」
「君がいないと、俺は一生幸せにはなれない。」
「大丈夫、だよ。ほら、お互い、17年も会わないでなんとかやってきたんだよ?」
「思い出の中に、君がいたからだ。
生きてどこかにいると思っていたからだ。
君がこれから、どういう状況に置かれるか分からないと安心出来ない。」
「きっとどこかで、私は生きてるから。
シュウもちゃんと生きて、いつか別の誰かと結婚して、家庭を作って幸せになって。」
「いやだ。」
窓を打つ水の音、時計の秒針が動く音だけが部屋に響く。
先程まで満月が綺麗に見えていたはずなのに、気づかぬうちに外は雨が降り始めていたらしい。
「…案外、子供っぽいんだね。」
彼女がボソッと可笑しそうに呟いた。
「そうだ。俺はこう見えても子供っぽい所があるんだ。諦めが悪いんでな。」
「…じゃあ、教えてあげる。
その男に、武器やら違法なモノの売買を勧めたのは…
黒の組織の、ジンだよ。」
「なんだと…!」
「組織の資金集めの一つだったのかもね。
まぁ、いくら調べても黒の組織が絡んだ証拠は何一つ残ってないでしょうけど。
黒の組織は未良が病院から上手く逃げてきて、一緒に死ぬ為に私を連れてきたと思っていたみたい。
私が公安だとは今の所バレてない。
私が未良を殺した後、後を追わせるために未良の仲間が私を意地でも殺そうとしてきた。
だから生きるために全員殺した。
それをジンがずっと別室で見ていたみたいでね。
私を気に入った、組織に入れたいと言ってくれた。
分かるでしょう?
ジンに取り入れば、情報が集まる可能性は高い。」
「あいつに、君を差し出したくない…。」
「ねぇ、分かって。私は公安のゼロ。
国の安全を守るため、組織を潰すため。
私にはすべき事がある。」
愛を知ると失うのが怖くなるとは言うが、本当にそうだ。彼女を再び自分のモノにしたと思ったのに、また失うなんて。
だが愛を知らなければ良かったなんて微塵も思わない。
「…ナマエ、愛している。またな。」
「私も愛してる。秀一。」
キスを交わすと、名残惜しそうに彼女は行ってしまった。
彼女がこの部屋にいた事を示すものは、空の皿しかなかった。
未だに何も連絡はない。
いつも彼女に持たせていた、GPS付きの指輪は枕元に置いたまま。
何処に居るのか全く分からない。
昨日マンションを訪ねたが留守だった。
帰ってきた形跡はなかった。
真っ暗な部屋に差し込む月明かりは、テーブルの上のフルーツサンドを照らす。
これは夕方、隣によく遊びに来る子供達と作った物だ。
甘い物が好きな彼女なら喜ぶだろうと思って一つ取っておいたが、このままだと用無しになってしまいそうだ。
窓から神々しく輝く満月を見上げる。
「なぁ、彼女の居場所を教えてくれないか?」
グラスに入れたバーボンを月に掲げた。
我ながら笑ってしまう。月に教えを乞うなど。
その時、タイミング良くインターホンが鳴った。
やっと戻ってきたかと胸を撫で下ろす。
どうやら月に尋ねた効果はあったようだ。
「……」
ドアを開けておかえり、と声をかけようとしたが、彼女の状態を見て声が出なかった。
顔から服上下共に血に塗れていた。
「ただいま。いやぁ、連絡出来なくてごめんね。
あ、これ返り血だから!大丈夫、怪我はしてないよ!」
とりあえず素早く家に入れて施錠した。
「…何があった?」
「……。」
彼女は悲しそうな、困ったような顔をしていた。
「言え。」彼女の腕をぐっと掴んで睨む。
「…とりあえず…言える事だけ、言う。
あの時昴が私を助けるために入った施設、中には犯人以外に男が捕らえられていた。
一昨日、その男に会うために病院へ行った。
名前は未良勝太。
その男が組織の主な司令塔だったみたい。
そいつはある人物に勧められて、とある目的の為に武器や薬を売り始めた。水産会社で働いていたから、魚と称して様々な国に違法な物を貿易してたみたい。
結果、かなり大きな犯罪組織になった。」
「…目的は?」
「あの男の1番の目的は、人生で一番気に入った女と心中する事だった。
だから、金がたんまり集まった後は金を使って店をいくつか経営してたみたい。
キャバクラや風俗、レンタル彼女。様々な女を雇った。その中で気に入った女を探すために。
ある程度働かせてから好みの女を見つけては連れ去り、気に入らなければ各国に売った。
捜査されにくくする為、身内がいない孤独な女を狙ってた。居なくなっても捜索願いを出されにくいようにね。
バレそうな場合は、この間みたいに遺体を持ってきて女達は死んだ事にして、客も全員殺してきたらしい。」
「あの時の遺体は、やはりそういう事だったのか。」
「私と同じドレス着てたし、まるで誰かさんの遺体すり替えトリックみたいね。」
彼女が冗談めいて俺を見上げた。
「それで、何故血まみれなんだ。」
彼女は暫く黙っていたが、少ししてようやく重い口を開いた。
「…必要があって、未良を含め数名殺した。
意地でも私を殺そうとしてきたから、やむなく。」
こんなに冷徹なナマエの目は初めてだった。
それと同時にあぁ、彼女は公安だったなと冷静に思った。
「…そうか。よく、生きて帰ってこれた。
シャワー浴びて着替えてこい。
フルーツサンド、食うか?
昼間に子供達と作ったんだ。」
「嘘?シュウが、フルーツサンド?」
冷徹な目はすっかり影を潜めて彼女は笑った。
シャワーを浴びて、ニコニコと嬉しそうにフルーツサンドを頬張る彼女はいつも通りに見えた。
「そういえば、マフラー貸してくれたのってキスマーク隠すためだったのね。未良がマフラー外して首元を見た時、物凄く怒り狂ってたよ。
他に男がいるのか!って。
そのおかげで相手が冷静じゃなかったから、簡単に殺れたけど…。」
「…牽制しておいて良かったと心底思う。」
「ご馳走様でした。美味しかった。ありがとう。
それじゃあ私、そろそろ行くね。まだ事後処理が残ってるから。それとここに置いてた着替えとか、使いたいから持って帰るね。
それと、マフラー、返す。ちゃんと血は付けないようにしたから綺麗だよ。」
「それはやる。外はまだ寒いからな。」
荷物を持つ彼女の手をしっかりと握った。
「…それで、いつまで潜るつもりだ?」
「…潜る?なんの事?」
「前にも言ったはず。俺には君のポーカーフェイスは通用しない。
…潜入捜査、するんだろう。」
「……私の事、もう忘れて。」
彼女は全て諦めたような顔で俯いた。
「忘れられる訳、ないだろ。」
「シュウは、幸せになって。私の分も。」
「君がいないと、俺は一生幸せにはなれない。」
「大丈夫、だよ。ほら、お互い、17年も会わないでなんとかやってきたんだよ?」
「思い出の中に、君がいたからだ。
生きてどこかにいると思っていたからだ。
君がこれから、どういう状況に置かれるか分からないと安心出来ない。」
「きっとどこかで、私は生きてるから。
シュウもちゃんと生きて、いつか別の誰かと結婚して、家庭を作って幸せになって。」
「いやだ。」
窓を打つ水の音、時計の秒針が動く音だけが部屋に響く。
先程まで満月が綺麗に見えていたはずなのに、気づかぬうちに外は雨が降り始めていたらしい。
「…案外、子供っぽいんだね。」
彼女がボソッと可笑しそうに呟いた。
「そうだ。俺はこう見えても子供っぽい所があるんだ。諦めが悪いんでな。」
「…じゃあ、教えてあげる。
その男に、武器やら違法なモノの売買を勧めたのは…
黒の組織の、ジンだよ。」
「なんだと…!」
「組織の資金集めの一つだったのかもね。
まぁ、いくら調べても黒の組織が絡んだ証拠は何一つ残ってないでしょうけど。
黒の組織は未良が病院から上手く逃げてきて、一緒に死ぬ為に私を連れてきたと思っていたみたい。
私が公安だとは今の所バレてない。
私が未良を殺した後、後を追わせるために未良の仲間が私を意地でも殺そうとしてきた。
だから生きるために全員殺した。
それをジンがずっと別室で見ていたみたいでね。
私を気に入った、組織に入れたいと言ってくれた。
分かるでしょう?
ジンに取り入れば、情報が集まる可能性は高い。」
「あいつに、君を差し出したくない…。」
「ねぇ、分かって。私は公安のゼロ。
国の安全を守るため、組織を潰すため。
私にはすべき事がある。」
愛を知ると失うのが怖くなるとは言うが、本当にそうだ。彼女を再び自分のモノにしたと思ったのに、また失うなんて。
だが愛を知らなければ良かったなんて微塵も思わない。
「…ナマエ、愛している。またな。」
「私も愛してる。秀一。」
キスを交わすと、名残惜しそうに彼女は行ってしまった。
彼女がこの部屋にいた事を示すものは、空の皿しかなかった。