Put on a happy face
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目が覚めて、木目の天井が目に入った。
あぁそうだ。もう目は治ったんだ…。
昨日の事が一気に思い起こされる。
…昨晩のシュウの顔、良かったな…。
思い出していたら"ぅえへへ…"なんて変態みたいな気持ちの悪い笑い方をしそうになった。
まずいまずい。
初めての時は後ろからだったから、シュウが達した時の顔は見えなかった。
それもあって今回はちゃんと見たかった。
"だから"というか、"執念"というか。
見たい気持ちが溢れすぎて、目まで治るなんて凄まじい熱量だなと我ながら驚く。
欠伸をして起き上がろうとすると、股関節と太ももにピキッと痛みが走った。
傷の痛みじゃない。
骨にダイレクトに響くような独特な痛み。
多分筋肉痛。普段鍛えているはずなんだけどなぁ。
やっぱりこういう時にしか使ってない筋肉というか、部位ってあるような気がするな。
それと同時に股に違和感。初めての時と似ている。
ヒリヒリするようだけど、不思議と痛くはない。
…そういえばいつの間に寝たんだろう。
額を手で覆ってボーッとしていると、タバコの香りが部屋に漂っている事に気付いた。
「わっ、びっくりした!」
右を見ると、シュウがベッドの傍に持ってきた椅子に座っていた。背もたれを前にして。
「煙草!布団の近くでは危ないでしょう!」
びっくりした反動でつい小言を言ってしまった。
「あぁ、すまない。
…裸体の恋人を見ながらの一服は…なかなか…。」
「ヒョォォォ」
「…一体何処からその声は出ているんだ?
さっきから百面相をしていたり奇声を発したり、忙しい奴だな。」
ニヤける彼とは正反対に私はゾンビみたいな顔をして慌てて出ていた上半身を布団で隠した。
いたたまれない気持ちになって、布団にくるまったままもにょもにょと動く。
あぁ、どうしよう。今更シュウの顔を見るのが恥ずかしい。
正直30女が性行為1つで動揺するなんて、って思うかもしれない。けどセカンドバージンを捧げるというのは結構自分の中では重いものだった。
それをシュウに捧げられるのは勿論嬉しい事だ。
バージンだけでなくセカンドまでも。
布団から目だけを出してシュウを盗み見ると、いつもよりほんの少し気だるげに見えた。
それでも煙草の火を消しながら余裕そうにこちらを見ていた。
これはやっぱり経験の差と体力の差なんだろうか。
いったいどれだけの人達と…なんて野暮な事を考えてしまう。私達はアラサーだぞ、今更そんな子供っぽい事を……。
それでも、少し、悔しい…。
布団から出ようとすると、サッと冷たい風が吹いた。
私が注意した為か、シュウはカーテンの揺れる窓際へ寄って取り出した煙草に火をつけた。
煙草の煙は風に揺られて外へと流れていった。
煙草を吸う手を見ていると、昨晩触られた箇所が熱くなる気さえした。そして唇の感触も、舐められた時の舌の感覚…。
「嬉しかった。」
彼の一言が部屋に響き、回想から意識を戻した。
「ずっと望んでいた事が叶って、こんなに幸せな事はない。FBIに入局して以来、こんなに生きていて良かったと思った事はない。
…改めてボウヤに感謝したよ。」
「あはは…ホントだよ。
…シュウの遺体だと思って、楠田の遺体に手を合わせた私の気持ちを返して?」
「ホォー?わざわざ俺だと思って手を合わせてくれたのか。すまないな。次は頼んだ。」
「もぅ!…次は最低でも50〜60年後にしてよね。」
「あぁ。勿論、努力する。」
軽口をこうやって言い合えている事自体が幸せだなぁと思った。
下着だけを身につけて彼の所に寄ろうとしたが、視界に入ってしまったゴミ箱を見て青ざめた。
使用済みと思われるゴムやティッシュ等がこれでもかと山盛りになっていた。
1番上にはゴムの空箱が投げ込まれている。
いったい何回分…?
「すまない。今まで堪えていたものが、一気に…。
我ながらティーンみたいに盛ってしまったと反省している。」
そう言ってバツが悪そうに苦笑いを浮かべていた。
その笑みは再会してから一番気を許した笑みだった。
その中に少しだけ昔の面影を感じる。
なんだかそれが悲しくも嬉しくて、シュウにぎゅっと抱きついた。
タバコの香りがより強くなって、鼻がツンとする。
それに気付いたのかタバコを遠ざけながら反対の手で抱きしめ返してくれた。
「…おなかすいた。」
「そうだな。何か食おう。それと、早く服を着てくれないか?俺の食欲が性欲に変わる前に。」
朝食を終えて、気になっていた事を尋ねた。
「あ、そういえば私、後半記憶ないんだけど…?
もしかして、私って疲れて寝ちゃってた…?ごめんね。少しは体力あると思ってたんだけど…。」
「いや。寝た、というか…。少々トんでたな。」
「え?」
「あーとか、うーとか、きもちいいしか言わなくなった。意識が混濁しているようだったな。
流石にやめないとマズイな、と思ったんだが…。
すまない、我慢出来なかった。」
よく分からない状況になってそのまま意識を失ったって事?え?怖。
「…毎回こうだったら嫌だよ?」
「本当に悪かった。もうこんな無茶はさせない。
…多分。」
「多分?」
「…誓うよ、ゴム一箱使い切るまでヤるなんて事はもうしない。今回は多めに見てくれ。
17年間、君を考えて慰めていたのに、本物をみたら…な。」
しどろもどろなシュウが可愛く思えて許すことにした。
後片付けを終え、報告兼ねて風見に連絡を取った。
「もしもし?風見さん?」
「電話出来ているという事は耳は治ったようだな。
良かった。目は?」
「目も耳もおかげさまで治りましたよ。後は足だけですが、大して痛みはありませんしこれならすぐにでも治ると思います!」
「良かったな。今は工藤邸か?」
「そうです。」
「…療養中悪いんだが、来て欲しい所がある。
来れるか?もちろん無理にとはー」
「勿論です!これから向かいます。」
「住所を伝える。入口で待っている。急がなくて良い。」
「はい。」
シュウに出てくる事を伝えると送ってくれる事になった。
支度をして玄関で靴を履いているとマフラーを手渡された。ボルドーと鉛白色の横ストライプ。
上質な物だとすぐに分かるくらい、生地が滑らかで柔らかだった。
「これを巻いていくと良い。室内でも外すなよ。」
「えっ、これシュウの?借りて良いの?」
「あぁ。」
「でも、室内は流石に暑いと思うんだけど…。」
「いいから、巻いていろ!」
語気が強い。何故かは分からないけど、そこまで言うのなら。首に巻いてみると薄いのにびっくりするくらい温かくて、まるでシュウに包まれてるみたいだと思った。ほんのり煙草の匂いもするし。
ーーー
車で送ってもらい、着いた先は米花総合病院。
車を止めた駐車場からでも入口に立っている風見さんをすぐに認識出来た。
病院だというのに、かっちりと着込んだスーツに上質なコートはなんだか場にそぐわない気がした。
医師か、病院に営業に来たサラリーマンのようにも見えた。
「風見さん。お待たせしました。」
「すまなかった。怪我人なのに…。もう大丈夫なのか?」
「大丈夫ですよ。…それで?」
「病院の会議室を借りて説明する。」
風見さんの言葉に、ピリつくような圧を感じた。
あの日、昴が初めに単身で建物に乗り込んだらしい。
その数分後に風見達が乗り込んだのだが、最奥の部屋で年配の男が頭を撃ち抜かれて死んでいたらしい。
死亡推定時刻としては恐らくだが、風見達が乗り込んだ位の時間だという。
男の身元を調べた所、米花水産会社の役員だった。
"米花水産"というのはかなりの大手だ。
もしかして、水産物の輸出と称して人身売買していたのか?
「建物内には他には部下と見られる男が10名ほどいた。全員確保した。
それと…。」
「何ですか?」
「他に男が一人、捕らえられていた。手錠に目隠しをされていて、ろくに食ってなかったのか少し衰弱していた。
それで今、この米花中央病院に入院している。」
男性の人身売買に手を出そうとしていたのだろうか。
「なるほど…。
で、私にその人に会って話を聞いて欲しいという事ですか?」
「それもある。それと、これは降谷さんからの情報と、推測だ。覚悟して聞いて欲しい。」
ーーー
部屋は個室だった。公安の仲間が部屋の外で監視していた。
お疲れ様です、と軽く挨拶をしてドアをノックすると部屋の中から声が聞こえた。
この声は公安の新人君かな。
「失礼します。」
中に入るとベッドには線の細い、見かけは30代後半と思しき男が座っていた。
どれくらい捕まっていたのか分からないが、明らかにげっそりしていた。
「初めまして。警察の者ですが、少しお話を…、」
男がこっちを向き、目が会った瞬間に思い出した。
「あれ…?未良(みら)さん、ですよね?
お店にお客で来ていた…!」
「あれ!えっ、うそ!レイちゃん!?なんでここに!?」
「えっ!やっぱり未良さんだ!!
私が店に入ってから、初めの1ヶ月位は毎日のように来てくださってましたよね…?
そういえば先月から急に来なくなったと思って気になっていたんですよ…。」
「そ、そうなんだよ…。実はさ…お酒代がかさんで、お金が足りなくて…最後の日に、無銭飲食して逃げちゃったんだ…。
だけど結局お店の人に捕まっちゃって…怖い人たちに車に押し込まれたかと思ったら監禁されて、えらい目にあったよ…。ほとんど飲まず食わずだったし…。
死ぬかと思った。まぁ元々悪いのは俺だったんだけどさぁ…酷いよね。」
未良さんの目にはうっすら涙が浮かんでいた。
「そうだったんですか…。」
「それと、よく分からない薬を打たれたせいか記憶が一部朧気で…。今も、頭に霧がかかってるみたいで頭がはっきりしないんだ。
覚えてない事も多いし。
だから、悪いんだけど何でもかんでも答えられないかもしれない。
あ、レイちゃんの事ははっきり覚えてるよ!
凄く印象が強かったし、綺麗だし、大好きだったから…。
ここにいるってことは、君、警察官、だったのか…?
あ、もしかして、潜入捜査ってやつ…?」
「未良さんが無事で良かったです。
薬ってどういうものか分かります?」
「うーん、透明な液体だったよ。注射だったんだけど、何かは分からない…。打つと、訳が分からなくなる感じ…。ぼーっとして何も考えられなかった。
まぁそのおかげで気が狂わなかったのかも。」
「最後に来店した時から考えると、1ヶ月以上監禁されてたという事ですよね。」
「多分…そうだと思う。カレンダーとか窓とかなかったから、時計だけで日にちの感覚を掴んでたせいで確証はないけど…。」
「…頭がはっきりしない割にはちゃんと話せてますね、良かった。」
「レイちゃんの為に頑張って頭を働かせてるんだよ。あはは…。」
部屋には未良さんのから笑いだけが響いた。
浮かべた笑顔は酷く引きつっていた。
今にも泣きそうな笑みだった。
「犯人の顔、わかりますか?」
「そうだなぁ。1人は随分年配だったよ。恰幅の良さそうな。
後はひょろっとした白衣着た若そうな男と、ごつい男が何人かいた…気がする。」
年配の男はきっと亡くなっていた犯人だろう。
白衣の男というのは私の怪我の応急処置をした人物かもしれない。
考え込んでいるとコンコンとノックの音が聞こえた。
どうやら看護師が来たらしい。
女性看護師がカートを押して入ってきた。
「お話ありがとうございました。我々は、ここで。」
立ち上がろうとすると未良が突然カートから注射器を掴み、新人君の首元に近付けた。
「動くなよ。
この中には毒薬が入っている。
しかも1滴でも身体に入ったらたちまち死に至る。
こいつを死なせたくなかったら着いてこい。」
急にがらりと未良の雰囲気が変わった。
顔は無表情になり、目は光を宿していないかのようだった。
後ろにいた看護師は私の腰元に銃を突きつけていた。
「この男を殺したくなければ言うことを聞け。」
未良が看護師と場所を替えた。
今度は私の首元に注射器が突きつけられた。
「一緒に来てもらおう。」
両手を挙げて、未良と共に部屋を出た。
あぁそうだ。もう目は治ったんだ…。
昨日の事が一気に思い起こされる。
…昨晩のシュウの顔、良かったな…。
思い出していたら"ぅえへへ…"なんて変態みたいな気持ちの悪い笑い方をしそうになった。
まずいまずい。
初めての時は後ろからだったから、シュウが達した時の顔は見えなかった。
それもあって今回はちゃんと見たかった。
"だから"というか、"執念"というか。
見たい気持ちが溢れすぎて、目まで治るなんて凄まじい熱量だなと我ながら驚く。
欠伸をして起き上がろうとすると、股関節と太ももにピキッと痛みが走った。
傷の痛みじゃない。
骨にダイレクトに響くような独特な痛み。
多分筋肉痛。普段鍛えているはずなんだけどなぁ。
やっぱりこういう時にしか使ってない筋肉というか、部位ってあるような気がするな。
それと同時に股に違和感。初めての時と似ている。
ヒリヒリするようだけど、不思議と痛くはない。
…そういえばいつの間に寝たんだろう。
額を手で覆ってボーッとしていると、タバコの香りが部屋に漂っている事に気付いた。
「わっ、びっくりした!」
右を見ると、シュウがベッドの傍に持ってきた椅子に座っていた。背もたれを前にして。
「煙草!布団の近くでは危ないでしょう!」
びっくりした反動でつい小言を言ってしまった。
「あぁ、すまない。
…裸体の恋人を見ながらの一服は…なかなか…。」
「ヒョォォォ」
「…一体何処からその声は出ているんだ?
さっきから百面相をしていたり奇声を発したり、忙しい奴だな。」
ニヤける彼とは正反対に私はゾンビみたいな顔をして慌てて出ていた上半身を布団で隠した。
いたたまれない気持ちになって、布団にくるまったままもにょもにょと動く。
あぁ、どうしよう。今更シュウの顔を見るのが恥ずかしい。
正直30女が性行為1つで動揺するなんて、って思うかもしれない。けどセカンドバージンを捧げるというのは結構自分の中では重いものだった。
それをシュウに捧げられるのは勿論嬉しい事だ。
バージンだけでなくセカンドまでも。
布団から目だけを出してシュウを盗み見ると、いつもよりほんの少し気だるげに見えた。
それでも煙草の火を消しながら余裕そうにこちらを見ていた。
これはやっぱり経験の差と体力の差なんだろうか。
いったいどれだけの人達と…なんて野暮な事を考えてしまう。私達はアラサーだぞ、今更そんな子供っぽい事を……。
それでも、少し、悔しい…。
布団から出ようとすると、サッと冷たい風が吹いた。
私が注意した為か、シュウはカーテンの揺れる窓際へ寄って取り出した煙草に火をつけた。
煙草の煙は風に揺られて外へと流れていった。
煙草を吸う手を見ていると、昨晩触られた箇所が熱くなる気さえした。そして唇の感触も、舐められた時の舌の感覚…。
「嬉しかった。」
彼の一言が部屋に響き、回想から意識を戻した。
「ずっと望んでいた事が叶って、こんなに幸せな事はない。FBIに入局して以来、こんなに生きていて良かったと思った事はない。
…改めてボウヤに感謝したよ。」
「あはは…ホントだよ。
…シュウの遺体だと思って、楠田の遺体に手を合わせた私の気持ちを返して?」
「ホォー?わざわざ俺だと思って手を合わせてくれたのか。すまないな。次は頼んだ。」
「もぅ!…次は最低でも50〜60年後にしてよね。」
「あぁ。勿論、努力する。」
軽口をこうやって言い合えている事自体が幸せだなぁと思った。
下着だけを身につけて彼の所に寄ろうとしたが、視界に入ってしまったゴミ箱を見て青ざめた。
使用済みと思われるゴムやティッシュ等がこれでもかと山盛りになっていた。
1番上にはゴムの空箱が投げ込まれている。
いったい何回分…?
「すまない。今まで堪えていたものが、一気に…。
我ながらティーンみたいに盛ってしまったと反省している。」
そう言ってバツが悪そうに苦笑いを浮かべていた。
その笑みは再会してから一番気を許した笑みだった。
その中に少しだけ昔の面影を感じる。
なんだかそれが悲しくも嬉しくて、シュウにぎゅっと抱きついた。
タバコの香りがより強くなって、鼻がツンとする。
それに気付いたのかタバコを遠ざけながら反対の手で抱きしめ返してくれた。
「…おなかすいた。」
「そうだな。何か食おう。それと、早く服を着てくれないか?俺の食欲が性欲に変わる前に。」
朝食を終えて、気になっていた事を尋ねた。
「あ、そういえば私、後半記憶ないんだけど…?
もしかして、私って疲れて寝ちゃってた…?ごめんね。少しは体力あると思ってたんだけど…。」
「いや。寝た、というか…。少々トんでたな。」
「え?」
「あーとか、うーとか、きもちいいしか言わなくなった。意識が混濁しているようだったな。
流石にやめないとマズイな、と思ったんだが…。
すまない、我慢出来なかった。」
よく分からない状況になってそのまま意識を失ったって事?え?怖。
「…毎回こうだったら嫌だよ?」
「本当に悪かった。もうこんな無茶はさせない。
…多分。」
「多分?」
「…誓うよ、ゴム一箱使い切るまでヤるなんて事はもうしない。今回は多めに見てくれ。
17年間、君を考えて慰めていたのに、本物をみたら…な。」
しどろもどろなシュウが可愛く思えて許すことにした。
後片付けを終え、報告兼ねて風見に連絡を取った。
「もしもし?風見さん?」
「電話出来ているという事は耳は治ったようだな。
良かった。目は?」
「目も耳もおかげさまで治りましたよ。後は足だけですが、大して痛みはありませんしこれならすぐにでも治ると思います!」
「良かったな。今は工藤邸か?」
「そうです。」
「…療養中悪いんだが、来て欲しい所がある。
来れるか?もちろん無理にとはー」
「勿論です!これから向かいます。」
「住所を伝える。入口で待っている。急がなくて良い。」
「はい。」
シュウに出てくる事を伝えると送ってくれる事になった。
支度をして玄関で靴を履いているとマフラーを手渡された。ボルドーと鉛白色の横ストライプ。
上質な物だとすぐに分かるくらい、生地が滑らかで柔らかだった。
「これを巻いていくと良い。室内でも外すなよ。」
「えっ、これシュウの?借りて良いの?」
「あぁ。」
「でも、室内は流石に暑いと思うんだけど…。」
「いいから、巻いていろ!」
語気が強い。何故かは分からないけど、そこまで言うのなら。首に巻いてみると薄いのにびっくりするくらい温かくて、まるでシュウに包まれてるみたいだと思った。ほんのり煙草の匂いもするし。
ーーー
車で送ってもらい、着いた先は米花総合病院。
車を止めた駐車場からでも入口に立っている風見さんをすぐに認識出来た。
病院だというのに、かっちりと着込んだスーツに上質なコートはなんだか場にそぐわない気がした。
医師か、病院に営業に来たサラリーマンのようにも見えた。
「風見さん。お待たせしました。」
「すまなかった。怪我人なのに…。もう大丈夫なのか?」
「大丈夫ですよ。…それで?」
「病院の会議室を借りて説明する。」
風見さんの言葉に、ピリつくような圧を感じた。
あの日、昴が初めに単身で建物に乗り込んだらしい。
その数分後に風見達が乗り込んだのだが、最奥の部屋で年配の男が頭を撃ち抜かれて死んでいたらしい。
死亡推定時刻としては恐らくだが、風見達が乗り込んだ位の時間だという。
男の身元を調べた所、米花水産会社の役員だった。
"米花水産"というのはかなりの大手だ。
もしかして、水産物の輸出と称して人身売買していたのか?
「建物内には他には部下と見られる男が10名ほどいた。全員確保した。
それと…。」
「何ですか?」
「他に男が一人、捕らえられていた。手錠に目隠しをされていて、ろくに食ってなかったのか少し衰弱していた。
それで今、この米花中央病院に入院している。」
男性の人身売買に手を出そうとしていたのだろうか。
「なるほど…。
で、私にその人に会って話を聞いて欲しいという事ですか?」
「それもある。それと、これは降谷さんからの情報と、推測だ。覚悟して聞いて欲しい。」
ーーー
部屋は個室だった。公安の仲間が部屋の外で監視していた。
お疲れ様です、と軽く挨拶をしてドアをノックすると部屋の中から声が聞こえた。
この声は公安の新人君かな。
「失礼します。」
中に入るとベッドには線の細い、見かけは30代後半と思しき男が座っていた。
どれくらい捕まっていたのか分からないが、明らかにげっそりしていた。
「初めまして。警察の者ですが、少しお話を…、」
男がこっちを向き、目が会った瞬間に思い出した。
「あれ…?未良(みら)さん、ですよね?
お店にお客で来ていた…!」
「あれ!えっ、うそ!レイちゃん!?なんでここに!?」
「えっ!やっぱり未良さんだ!!
私が店に入ってから、初めの1ヶ月位は毎日のように来てくださってましたよね…?
そういえば先月から急に来なくなったと思って気になっていたんですよ…。」
「そ、そうなんだよ…。実はさ…お酒代がかさんで、お金が足りなくて…最後の日に、無銭飲食して逃げちゃったんだ…。
だけど結局お店の人に捕まっちゃって…怖い人たちに車に押し込まれたかと思ったら監禁されて、えらい目にあったよ…。ほとんど飲まず食わずだったし…。
死ぬかと思った。まぁ元々悪いのは俺だったんだけどさぁ…酷いよね。」
未良さんの目にはうっすら涙が浮かんでいた。
「そうだったんですか…。」
「それと、よく分からない薬を打たれたせいか記憶が一部朧気で…。今も、頭に霧がかかってるみたいで頭がはっきりしないんだ。
覚えてない事も多いし。
だから、悪いんだけど何でもかんでも答えられないかもしれない。
あ、レイちゃんの事ははっきり覚えてるよ!
凄く印象が強かったし、綺麗だし、大好きだったから…。
ここにいるってことは、君、警察官、だったのか…?
あ、もしかして、潜入捜査ってやつ…?」
「未良さんが無事で良かったです。
薬ってどういうものか分かります?」
「うーん、透明な液体だったよ。注射だったんだけど、何かは分からない…。打つと、訳が分からなくなる感じ…。ぼーっとして何も考えられなかった。
まぁそのおかげで気が狂わなかったのかも。」
「最後に来店した時から考えると、1ヶ月以上監禁されてたという事ですよね。」
「多分…そうだと思う。カレンダーとか窓とかなかったから、時計だけで日にちの感覚を掴んでたせいで確証はないけど…。」
「…頭がはっきりしない割にはちゃんと話せてますね、良かった。」
「レイちゃんの為に頑張って頭を働かせてるんだよ。あはは…。」
部屋には未良さんのから笑いだけが響いた。
浮かべた笑顔は酷く引きつっていた。
今にも泣きそうな笑みだった。
「犯人の顔、わかりますか?」
「そうだなぁ。1人は随分年配だったよ。恰幅の良さそうな。
後はひょろっとした白衣着た若そうな男と、ごつい男が何人かいた…気がする。」
年配の男はきっと亡くなっていた犯人だろう。
白衣の男というのは私の怪我の応急処置をした人物かもしれない。
考え込んでいるとコンコンとノックの音が聞こえた。
どうやら看護師が来たらしい。
女性看護師がカートを押して入ってきた。
「お話ありがとうございました。我々は、ここで。」
立ち上がろうとすると未良が突然カートから注射器を掴み、新人君の首元に近付けた。
「動くなよ。
この中には毒薬が入っている。
しかも1滴でも身体に入ったらたちまち死に至る。
こいつを死なせたくなかったら着いてこい。」
急にがらりと未良の雰囲気が変わった。
顔は無表情になり、目は光を宿していないかのようだった。
後ろにいた看護師は私の腰元に銃を突きつけていた。
「この男を殺したくなければ言うことを聞け。」
未良が看護師と場所を替えた。
今度は私の首元に注射器が突きつけられた。
「一緒に来てもらおう。」
両手を挙げて、未良と共に部屋を出た。