Put on a happy face
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ここか。煌びやかで重厚感のある外装。
外にいたボーイが扉を開けてくれた。
後ろでは男達が
"昴さん、こういうお店来るんですね!"などと騒いでいた。
「新規のお客様4名です。」
店内に入ると早速風見君が居た。
目が合った瞬間顔が強ばった。
まさか俺が来るとは思わなかったんだろう。
「4人じゃキツイから、2・2でわかれようぜー。」
「OK。昴さん、俺と座ろ!」
「えぇ。」
助けた男と共にソファー席に座った。
恐らく、風見君の事だから"彼女"を連れてきてくれるはず。
他のボーイからシステムの説明を一通り聞いた後、
背後からハイヒールのカツカツという規則的な音が聞こえてきた。
左側からすっと現れたのはやはり彼女だった。
「初めまして。来店ありがとうございます、レイで…す…。」
案の定、ほんの少しだけ引き攣った顔をしていた。
「レイさん、ですか。大変可愛らしいですね。」
源氏名は降谷君の名前を借りたのか。
作り笑いをしてナマエを見上げた。
「うわ、当たりじゃん!こんなすっげぇ美人来るなんて!昴さん、もしかして常連なの?」
「いえ、初めて来ました。しかし噂でとても美しい人がいると聞いて来ましたが…これ程とは。」
「ねぇねぇ、レイちゃん!俺たちの間に座ってよ!」
「お邪魔しま〜す。」
隣に座る彼女はいつもと違ってハッキリとしたメイクをしていた。
目の黒いラインは彼女の瞳の色をより強調している。
湯上りのような血色の良いピンクの頬、赤い口紅。
色気が増してよく似合っている。
彼女から香る上品な甘い香りは癖になりそうな感覚だった。花や果物、香木と違う、魅惑的な香り。
恐らくこれは媚薬の類だろう。
同席の男のズボンが少々テントを張っているので恐らく間違いない。
「何呑みます〜?」
「俺、高いのはちょっと。…ビールとか?」
俺が奢るとは言ったが、高いものを頼むのは気が引けるんだろう。正直散々ビール呑んでいるので違うものが呑みたいが、彼が何を呑めるのか知らない。
「僕もビールで良いですよ。」
「ビール瓶お願いします!」
「俺、こういうお店初めてで…。緊張しちゃうな。」
「大丈夫。ここは思ってる事を言って、楽しく話をする所だよ。」
「じゃあ遠慮なく!レイちゃんって顔めっちゃ綺麗っすね!」
「ぇへへ〜。ありがとうございます。」
普段と違ってかなり隙のある女性を演じているようだ。これはこれで可愛らしい。
ビールを呑みながら彼女を観察した。
随分と露出の高いドレスだな。
胸元もだが、背中が開きすぎではないか?
大胆なカットから見える真っ直ぐ綺麗な背骨や筋。
そこから下に目をやると丸みの帯びた臀部、そこから伸びる太腿。つい手を伸ばしたくなってしまう。
これは媚薬が効いているからではなく、純粋に恋人としての気持ちだ。
今すぐにでもここから連れ去ってしまいたい。
気持ちを押し殺すようにビールを一気に飲み干すと、ナマエがニコニコしながらお酌をしてくれた。
その笑い方、安室君にそっくりだ。
そんな作り笑い、俺にしなくても良いのに。
…いや、深く考えるのはやめよう。
これは彼女の潜入捜査、あくまで仕事だ。
そう思わないと心が負の感情で満たされそうだ。
にも関わらず、連れの男がそんな俺に追い打ちをかけた。
「えへへ、俺すげぇタイプ〜!マジで付き合いたい!」
酔いと香水の影響だろうか。男は随分荒れだした。
「ホントですか〜?
そんな事言って、皆に言ってるんでしょう?」
「そんな事ない!本気だよ!」
そう言って両手を握りしめていた。
「こんなお店辞めて、俺と付き合ってよ!
俺将来有望だし!東都大学だから、良い所勤められるんだよ!」
「そういうウザ絡みはやめましょうね。」
彼女に触れられたのが我慢ならなくて、男から無理矢理手を剥がし肩をグッと寄せた。
「す、すいません昴さん。」
「水、貰えますか?」
近くのボーイに頼んで受け取った水に細工をして男に渡した。すんなりと彼は目を閉じた。
「shhh…。大丈夫、寝ているだけだ。」
「ちょっ、睡眠薬盛ったでしょ!」
「すまない、2人で話をしたかったんだ。」
「はぁー…。」
悪いな。これで彼女と2人きりで話せる。
「そろそろグラスが空になりそうですが、何にされますか?」
「そうだな、アルマn」
「ビール、ビール追加でぇ!!」
明らかに注文を止められた。
「馬鹿じゃないの!こんな犯罪組織が経営するような所で、バカ高い酒呑もうとしないで!!」
「いやぁ、すまない。公式にナマエに貢げると思うとついな。」
いつもの素の彼女の態度に思わず笑いそうになる。
「アルマンド頼もうとしたでしょ!!いったいいくらすると思ってんの!」
「良いやつで100万。」
「……。」
「俺は100万払っても構わないが。
…怒られそうだから中間の25まn」
「絶ッッッッ対にやめて?マジで。」
「…了解…。」
「ずっと気になっていたんですが…随分甘ったるい匂いの香水ですね。」
「あぁ、これ?お店指定の香水でね。昴ってこういう甘ったるい匂い、キライでしょ?
気持ち悪くなったら困るから、あんまり近づきすぎないほうが。」
「いや、その香りは嫌いではない。むしろ興奮する。」
俺の言葉に明らかに不快感を示す。
呑みの場とはいえ冗談が過ぎたか。
「…昴って、薬に耐性ないの?もしかして、FBIってそういうのやってないの…?」
どうやら心配されているらしい。
「フフッ。冗談ですよ。やはり媚薬入りの香水なんですね。大丈夫ですよ、耐性あるので別に効いている訳ではないんです。
ただ、君の香りだと思うと少し反応してしまうだけで。」
そう言うとほんのり彼女がニヤけた。
彼女のポーカーフェイスを崩せると思うと楽しい。
その後連れの男の話をして、仕事の成果を尋ねる。
案の定あまり進展はないようだ。
帰宅してからジェイムズに頼んで無理を言って、最優先でこの犯罪組織を捜査してもらった。
その結果、犯罪組織のアメリカ支部は潰せたようだ。
後は各国の支部と、本部である日本を潰せば終わる。
纏めた資料を入れたメモリースティックを持って、数日後再び店に訪れた。
メモリースティックを渡してさっさと帰ろうとしたのにこんな事になるとは。
恐らくアメリカ支部が壊滅した事で、日本から手早く撤退しようという事になったのかもしれない。
とりあえず風見君が持っていた拳銃を借りたおかげで、人質は誰も死なずに済んだ。
隣にいる風見もなんとか犯人を抑え込んでいる。
「応援はいつ来るんですか?」
「もう少しで来るはずです!沖矢さん、耐えてください!」
俺は余裕だが、風見君は辛そうだ。
10分弱でようやく公安と思われる人達が武装して大勢入ってきた。
客やキャストを保護し犯人を連行していった。
奥は大丈夫か?まぁナマエなら大丈夫だろう。
奥へと足を進めようとした時、突然奥の部屋のドアが開き女性3人が押し出された。
次の瞬間、ドアの隙間から強烈な光が漏れ爆発音が響く。
ドアがガタガタと酷く揺れ、女性達の悲鳴が上がる。
「閃光弾か?」
慌てて女性達を押しのけ部屋に入ろうとしたが開かない。何かで塞がってしまっているのかもしれない。
ドアは重厚で、1人ですぐさま蹴破って壊せそうにない。
舌打ちして裏へと回ろうとすると銃声が聞こえた。
「!」
無我夢中でドアを蹴破ってみたが机が引っかかってドアは開かない。
床にあった拳銃を掴み裏へと回った。
風見の叫ぶような声が聞こえたがそれどころではない。
裏へ行こうとすると車が急発進して出ていった。
「チッ…逃げられたか…。」
店内に戻って車のナンバーを伝え、拳銃を返した。
「沖矢さん、何処へ行くつもりですか?」
「勿論助けに行くつもりだ。」
「駄目です。こちらでなんとかします。
彼女は我々の仲間ですから。
貴方は動かない方が良い。」
「…では…こうしましょう。」
ーーー
撃たれた右足が焼けるように痛い。
足に包帯を巻いて応急処置はしてくれているようだが、弾はまだ中に残っている気がする。
閃光弾で目や耳もまだ使い物にならないし、さっさと病院に行きたい。
普通の閃光弾はこんなに長く見えなくなったり聞こえなくなったりしないので、何か特殊なモノなのだろう。
耳鳴りのようなキーンとした音は聞こえているので、完全に鼓膜が逝ったという訳ではないと思いたい。
車はしばらく走っていた。
車の振動が嫌でも傷に響いて痛い。
1時間は走っていただろうか。
途中二度も車を乗り換えた。
無理やり動いたせいで更に痛くなった気がする。
これからどうなるんだろうか。
ーーー
「貴方を助手席に乗せたなんて降谷さんにバレたら…オレ、クビですよ。」
「大丈夫だ、誰にも言わんよ。」
「赤井さん、口調が素になってますよ。」
「僕は沖矢です。」
「…沖矢さんがなんで拳銃とライフル持っているんですか。」
こっそり公安から拝借した。
「今回だけです。少々目をつぶって下さい。
ナマエを死なせたくはない。」
「はぁー…。
降谷さんといい沖矢さんといい、強引な方達だ…。
それで、本当にこっちで良いんですか?」
「えぇ、合っています。
既に車を乗り換えているでしょうね。
犯人は酷く用心深い。
そこ、右です。」
ーーー
ようやく車から降ろされて、身体に縛られた縄を掴んで引きずられる。
足が痛くて重くて上手く動かなくなってきていた。
引きずられた後は硬い処置室のベッドのような所に寝かされた。
足にぶすりと針が刺さった後、右太腿から下の感覚がなくなった。局部麻酔か。
どうやら弾を取り除いて適切な処置をしてくれているらしい。その後耳と目をチェックしていた。
耳鳴りのようなキーンとした音は聞こえているので、完全に鼓膜が逝ったという訳ではないと思いたい。
正直に言うとものすごく怖い。
ヘレン・ケラーはこんな感覚だったのか。
まるで暗闇にいるようだ。
自分以外誰もいないような、
世界にたった1人残されてしまったような感じ。
耳や目、足が瞬時に治って彼の元へ行けたら良いのに。
…なんて、そんな非現実的な考えをしてしまう。
「あーぁ。来世は魔女になりたいなぁ。」
思わず呟いた。
このまま皆に迷惑がかかる前に死ぬべきだろうか。
でも別に公安だとはバレていないだろうし…。
でもこのまま世界のどこかに売られて一生女を使われるのも嫌。
最初も最後も、抱かれるなら彼が良い。
赤井秀一が良い。
最期に、出来ることならもう一度、
彼の腕の中で女になりたかった。
外にいたボーイが扉を開けてくれた。
後ろでは男達が
"昴さん、こういうお店来るんですね!"などと騒いでいた。
「新規のお客様4名です。」
店内に入ると早速風見君が居た。
目が合った瞬間顔が強ばった。
まさか俺が来るとは思わなかったんだろう。
「4人じゃキツイから、2・2でわかれようぜー。」
「OK。昴さん、俺と座ろ!」
「えぇ。」
助けた男と共にソファー席に座った。
恐らく、風見君の事だから"彼女"を連れてきてくれるはず。
他のボーイからシステムの説明を一通り聞いた後、
背後からハイヒールのカツカツという規則的な音が聞こえてきた。
左側からすっと現れたのはやはり彼女だった。
「初めまして。来店ありがとうございます、レイで…す…。」
案の定、ほんの少しだけ引き攣った顔をしていた。
「レイさん、ですか。大変可愛らしいですね。」
源氏名は降谷君の名前を借りたのか。
作り笑いをしてナマエを見上げた。
「うわ、当たりじゃん!こんなすっげぇ美人来るなんて!昴さん、もしかして常連なの?」
「いえ、初めて来ました。しかし噂でとても美しい人がいると聞いて来ましたが…これ程とは。」
「ねぇねぇ、レイちゃん!俺たちの間に座ってよ!」
「お邪魔しま〜す。」
隣に座る彼女はいつもと違ってハッキリとしたメイクをしていた。
目の黒いラインは彼女の瞳の色をより強調している。
湯上りのような血色の良いピンクの頬、赤い口紅。
色気が増してよく似合っている。
彼女から香る上品な甘い香りは癖になりそうな感覚だった。花や果物、香木と違う、魅惑的な香り。
恐らくこれは媚薬の類だろう。
同席の男のズボンが少々テントを張っているので恐らく間違いない。
「何呑みます〜?」
「俺、高いのはちょっと。…ビールとか?」
俺が奢るとは言ったが、高いものを頼むのは気が引けるんだろう。正直散々ビール呑んでいるので違うものが呑みたいが、彼が何を呑めるのか知らない。
「僕もビールで良いですよ。」
「ビール瓶お願いします!」
「俺、こういうお店初めてで…。緊張しちゃうな。」
「大丈夫。ここは思ってる事を言って、楽しく話をする所だよ。」
「じゃあ遠慮なく!レイちゃんって顔めっちゃ綺麗っすね!」
「ぇへへ〜。ありがとうございます。」
普段と違ってかなり隙のある女性を演じているようだ。これはこれで可愛らしい。
ビールを呑みながら彼女を観察した。
随分と露出の高いドレスだな。
胸元もだが、背中が開きすぎではないか?
大胆なカットから見える真っ直ぐ綺麗な背骨や筋。
そこから下に目をやると丸みの帯びた臀部、そこから伸びる太腿。つい手を伸ばしたくなってしまう。
これは媚薬が効いているからではなく、純粋に恋人としての気持ちだ。
今すぐにでもここから連れ去ってしまいたい。
気持ちを押し殺すようにビールを一気に飲み干すと、ナマエがニコニコしながらお酌をしてくれた。
その笑い方、安室君にそっくりだ。
そんな作り笑い、俺にしなくても良いのに。
…いや、深く考えるのはやめよう。
これは彼女の潜入捜査、あくまで仕事だ。
そう思わないと心が負の感情で満たされそうだ。
にも関わらず、連れの男がそんな俺に追い打ちをかけた。
「えへへ、俺すげぇタイプ〜!マジで付き合いたい!」
酔いと香水の影響だろうか。男は随分荒れだした。
「ホントですか〜?
そんな事言って、皆に言ってるんでしょう?」
「そんな事ない!本気だよ!」
そう言って両手を握りしめていた。
「こんなお店辞めて、俺と付き合ってよ!
俺将来有望だし!東都大学だから、良い所勤められるんだよ!」
「そういうウザ絡みはやめましょうね。」
彼女に触れられたのが我慢ならなくて、男から無理矢理手を剥がし肩をグッと寄せた。
「す、すいません昴さん。」
「水、貰えますか?」
近くのボーイに頼んで受け取った水に細工をして男に渡した。すんなりと彼は目を閉じた。
「shhh…。大丈夫、寝ているだけだ。」
「ちょっ、睡眠薬盛ったでしょ!」
「すまない、2人で話をしたかったんだ。」
「はぁー…。」
悪いな。これで彼女と2人きりで話せる。
「そろそろグラスが空になりそうですが、何にされますか?」
「そうだな、アルマn」
「ビール、ビール追加でぇ!!」
明らかに注文を止められた。
「馬鹿じゃないの!こんな犯罪組織が経営するような所で、バカ高い酒呑もうとしないで!!」
「いやぁ、すまない。公式にナマエに貢げると思うとついな。」
いつもの素の彼女の態度に思わず笑いそうになる。
「アルマンド頼もうとしたでしょ!!いったいいくらすると思ってんの!」
「良いやつで100万。」
「……。」
「俺は100万払っても構わないが。
…怒られそうだから中間の25まn」
「絶ッッッッ対にやめて?マジで。」
「…了解…。」
「ずっと気になっていたんですが…随分甘ったるい匂いの香水ですね。」
「あぁ、これ?お店指定の香水でね。昴ってこういう甘ったるい匂い、キライでしょ?
気持ち悪くなったら困るから、あんまり近づきすぎないほうが。」
「いや、その香りは嫌いではない。むしろ興奮する。」
俺の言葉に明らかに不快感を示す。
呑みの場とはいえ冗談が過ぎたか。
「…昴って、薬に耐性ないの?もしかして、FBIってそういうのやってないの…?」
どうやら心配されているらしい。
「フフッ。冗談ですよ。やはり媚薬入りの香水なんですね。大丈夫ですよ、耐性あるので別に効いている訳ではないんです。
ただ、君の香りだと思うと少し反応してしまうだけで。」
そう言うとほんのり彼女がニヤけた。
彼女のポーカーフェイスを崩せると思うと楽しい。
その後連れの男の話をして、仕事の成果を尋ねる。
案の定あまり進展はないようだ。
帰宅してからジェイムズに頼んで無理を言って、最優先でこの犯罪組織を捜査してもらった。
その結果、犯罪組織のアメリカ支部は潰せたようだ。
後は各国の支部と、本部である日本を潰せば終わる。
纏めた資料を入れたメモリースティックを持って、数日後再び店に訪れた。
メモリースティックを渡してさっさと帰ろうとしたのにこんな事になるとは。
恐らくアメリカ支部が壊滅した事で、日本から手早く撤退しようという事になったのかもしれない。
とりあえず風見君が持っていた拳銃を借りたおかげで、人質は誰も死なずに済んだ。
隣にいる風見もなんとか犯人を抑え込んでいる。
「応援はいつ来るんですか?」
「もう少しで来るはずです!沖矢さん、耐えてください!」
俺は余裕だが、風見君は辛そうだ。
10分弱でようやく公安と思われる人達が武装して大勢入ってきた。
客やキャストを保護し犯人を連行していった。
奥は大丈夫か?まぁナマエなら大丈夫だろう。
奥へと足を進めようとした時、突然奥の部屋のドアが開き女性3人が押し出された。
次の瞬間、ドアの隙間から強烈な光が漏れ爆発音が響く。
ドアがガタガタと酷く揺れ、女性達の悲鳴が上がる。
「閃光弾か?」
慌てて女性達を押しのけ部屋に入ろうとしたが開かない。何かで塞がってしまっているのかもしれない。
ドアは重厚で、1人ですぐさま蹴破って壊せそうにない。
舌打ちして裏へと回ろうとすると銃声が聞こえた。
「!」
無我夢中でドアを蹴破ってみたが机が引っかかってドアは開かない。
床にあった拳銃を掴み裏へと回った。
風見の叫ぶような声が聞こえたがそれどころではない。
裏へ行こうとすると車が急発進して出ていった。
「チッ…逃げられたか…。」
店内に戻って車のナンバーを伝え、拳銃を返した。
「沖矢さん、何処へ行くつもりですか?」
「勿論助けに行くつもりだ。」
「駄目です。こちらでなんとかします。
彼女は我々の仲間ですから。
貴方は動かない方が良い。」
「…では…こうしましょう。」
ーーー
撃たれた右足が焼けるように痛い。
足に包帯を巻いて応急処置はしてくれているようだが、弾はまだ中に残っている気がする。
閃光弾で目や耳もまだ使い物にならないし、さっさと病院に行きたい。
普通の閃光弾はこんなに長く見えなくなったり聞こえなくなったりしないので、何か特殊なモノなのだろう。
耳鳴りのようなキーンとした音は聞こえているので、完全に鼓膜が逝ったという訳ではないと思いたい。
車はしばらく走っていた。
車の振動が嫌でも傷に響いて痛い。
1時間は走っていただろうか。
途中二度も車を乗り換えた。
無理やり動いたせいで更に痛くなった気がする。
これからどうなるんだろうか。
ーーー
「貴方を助手席に乗せたなんて降谷さんにバレたら…オレ、クビですよ。」
「大丈夫だ、誰にも言わんよ。」
「赤井さん、口調が素になってますよ。」
「僕は沖矢です。」
「…沖矢さんがなんで拳銃とライフル持っているんですか。」
こっそり公安から拝借した。
「今回だけです。少々目をつぶって下さい。
ナマエを死なせたくはない。」
「はぁー…。
降谷さんといい沖矢さんといい、強引な方達だ…。
それで、本当にこっちで良いんですか?」
「えぇ、合っています。
既に車を乗り換えているでしょうね。
犯人は酷く用心深い。
そこ、右です。」
ーーー
ようやく車から降ろされて、身体に縛られた縄を掴んで引きずられる。
足が痛くて重くて上手く動かなくなってきていた。
引きずられた後は硬い処置室のベッドのような所に寝かされた。
足にぶすりと針が刺さった後、右太腿から下の感覚がなくなった。局部麻酔か。
どうやら弾を取り除いて適切な処置をしてくれているらしい。その後耳と目をチェックしていた。
耳鳴りのようなキーンとした音は聞こえているので、完全に鼓膜が逝ったという訳ではないと思いたい。
正直に言うとものすごく怖い。
ヘレン・ケラーはこんな感覚だったのか。
まるで暗闇にいるようだ。
自分以外誰もいないような、
世界にたった1人残されてしまったような感じ。
耳や目、足が瞬時に治って彼の元へ行けたら良いのに。
…なんて、そんな非現実的な考えをしてしまう。
「あーぁ。来世は魔女になりたいなぁ。」
思わず呟いた。
このまま皆に迷惑がかかる前に死ぬべきだろうか。
でも別に公安だとはバレていないだろうし…。
でもこのまま世界のどこかに売られて一生女を使われるのも嫌。
最初も最後も、抱かれるなら彼が良い。
赤井秀一が良い。
最期に、出来ることならもう一度、
彼の腕の中で女になりたかった。