「明日、この件で一緒に来てくれないか？」
「え？私もですか。」
「あぁ。女性の意見も聞きたい。」
「分かりました。」

風見さんとそんな会話をしたのは昨日。
そして今、米花町にあるショッピングモールに来ている。
「すまない、待たせてしまった。」
「大丈夫ですよ。」
風見さんが小走りに駆け寄ってきた。
意外とオシャレなんだよね、風見さん。
シンプルながら色合いとかデザインに高級感がある服装。
「…この格好、変か？」
「ジロジロ見ちゃってすいません。風見さん、オシャレだなぁと。」
「なるべく歳相応で悪目立ちしない服を選んで気をつけているんだ。場に馴染んでいないと何かあった時に目をつけられる。」
「なるほど。」

今日の仕事内容は…仕事というのかよく分からないけど、降谷さんの代わりに服を買って渡す事。
降谷さんは本当に多忙だし、あまり人が大勢いる所にしょっちゅう顔を出すのもはばかられるという事で代行している。
降谷さんは主にスーツだけど、安室やバーボンになる時は色々服が必要だから定期的に買っている。

ショッピングモールのメンズコーナーで、割とよく買うという店に入った。
「これなんてどうですか？」
「なるほど、女性はこういうのが好きなのか。」
「そうですね。ズボンは細身が好きです。」
「何点か試着してみる。」

試着室に入って出てきたが、ズボンの裾が随分余っている。
「こちら、裾上げいたしましょうか？」
「いや、自分が着る訳ではないので、このままで大丈夫です。」
「そ、そうですか。」
ほんのり風見さんの顔が悔しそうだ。
身長はほんの少しだけ風見さんが高いのに足の長さではかなり負けている。

その店では結局ズボンを色違いで2点購入。
続いて入った店ではシャツやTシャツなど数点購入。
その後は靴を買おうと歩いていた。
「…あの服…。」
「良さそうなのがあったか？」
「風見さんに似合いそうだなって。」
キャメルのカジュアルめなジャンパー。
「そうか？買ってみようかな。」
少し照れくさそうにしながら風見さんはジャンパーを手に取った。
そのジャンパーを奪って風見さんの前に当ててみると、とてもよく似合っていた。
「凄い似合ってますよ！」
「そうか。買ってくる。」
そう言って風見さんが私の手からジャンパーを取った時、横を見知った人物が通った。
「すばる…。」
彼なら私に気付かないはずはないが、私を無視して行ってしまった。
「か、風見さん！後の買い物はお任せします！すいません！」

慌てて昴を探しに走った。
少しすると昴の後ろ姿が見えたので、名前を呼ぶも全く振り返らない。
追いついて腕を掴むとようやく振り返ってくれた。
「ナマエ。何か用ですか？」
「何か用って…。彼氏を見かけて声をかけるのは当然でしょ？」
「彼氏？ﾌﾝ……。本当はあっちが本命なのでしょう？僕を監視する為に恋人のフリをしていただけでは？」
「違う！これは仕事で！」
「あぁ…そうですか。その割には楽しそうに服を選んでましたね。ナマエが選んだ服、彼にお似合いでしたよ。センスが良いですね。」
ニコニコと"沖矢昴"の笑みを浮かべ立ち去ろうとするので更に腕を強く掴んだ。
弁明しようと口を開いた瞬間、いとも簡単に掴んだ手を離されてしまった。
「俺に触るな。」
拒絶されたショックで呆然としていると、私のネックレスのチェーンを左右に強く引っ張った。
「もうこの指輪は必要ありませんね。…では。」

ようやく状況が読み込めた時、シュウから貰った指輪ごと、ネックレスがない事に気付いた。
これは私にとってのお守り。

それに、もう二度と彼の手を離したくはない！
込み上げてくる涙は抑えられなかった。
涙を拭いながら走り回って昴を探した。

ショッピングモールの駐車場でようやく昴を見つける事が出来た。
「待って！昴！待ってよ！」
全力で掴みかかったが避けて軽く突き飛ばされた。
この程度で倒れる事はないが、武術では圧倒的に不利だ。彼に近付けない事を悟った。
「指輪…返してよぉっ…大事なの！」
「…そんなに大事なら返してやる。」
そう言うと昴が指輪を潰して適当に放り投げた。

なんとか指輪を掴んだ瞬間、昴はさっさと車で走り去った。
手に残ったのはぺしゃんこに潰れた指輪。

思い出の物がこんな状態になっていることに酷くショックを受けて更に涙は止まらなくなった。
「ひどい………ひどいよ。」
泣き崩れて思わずその場にしゃがみ込んだ。