急いで着替えて下の階へ行くと秀一君は新聞を読みながら朝食を食べていた。
「それが部屋着だったのか。」
フワフワで肌触りが凄く良い、ネイビーのワンピースタイプの部屋着。胸元には小さいネコのキャラクターが描かれている。
「こんなモコモコしたの、外じゃ着ないよ。」
「そうなのか。女性のファッションには疎くてな。」
そう言って彼はコーヒーを啜った。
立っているのも何なので目の前に椅子に座った。

しばらくコーヒーを飲みながら新聞記事を読んでいたようだが、読み終わると私に新聞を寄越した。
「ナマエがこんなにヘロヘロになるまで働かされたのは、この事件に関してか？」
「あー、そうそう。これ。ほんと酷かった。」
ついでにほかの記事も見てみた。
…本当にこの米花町は事件が多いよな…。
なんとかならないものか。
新聞をペラペラめくっていると玄関から知った声が聞こえた。

「昴さ……。」
「……やぁ、ボウヤ。何か取りに来たのか？」
「〜〜！？」
玄関からダイニングに現れたのはやはりコナン君だった。私と秀一君を見るなり何やら聞き取れないような叫び声をあげた。
「あか…あか…赤井さぁぁん！？なんで！？変装！？」
「落ち着け、ボウヤ。大丈夫だ。」

なるほど、私の前で赤井秀一の姿で居る事に驚いたのか。
「おはよう、コナン君。」
とりあえず愛想良くニコニコしながら手を振ってみた。
「ナマエ、もうボウヤに正体を言っても良いか？」
「勿論。コナン君、私は組織の人間じゃなくて"安室"と同じだよ。」
コナン君が降谷さんの正体を知っているというのは聞いていた。だからこう言えば分かるだろう。

「…公安の…ゼロ…？」
「そうだよ。今まで黙っててごめんね。
だってただ"公安"です、って言っても私の事興味示さないでしょ？
意地でも秀一君が生きてるって知りたかったし…。
利用させてもらったの。」
両手を合わせてコナン君にめちゃくちゃ謝罪した。
ごめんよ…。

「赤井さん…最初から教えてよ…。」
「すまんな、こちらにも色々事情があるんでね。」
「コナン君、学校の時間大丈夫？」
「あっ、やべぇっ！急がないと。新一兄ちゃんの部屋に本を取りに来ただけなんだ。」
そう言って2階に駆け上がり本を手にすると慌てて家を出ていった。


「嵐のようだったね。」
「そうだな。」何事も無かったように彼はまたコーヒーを啜った。私も新聞をパラパラと捲った。
同じ部屋に居て、穏やかな時間が流れる。
なんかいいなーこういうの。落ち着く。
新聞の活字を見ていたら段々また眠気に襲われた。
あんなに寝たはずなのに…私は本当にどうしたんだろう。
「眠いのか？寝てきていいぞ。」
「うん…。」でもせっかく一緒にゆっくりしてるし、寝るのが勿体ない気がする。
「なんだ？寂しいのか？」冗談めいて言われた言葉に素直に頷いてみた。少し驚いた顔をされたが"そうか"と一言言うと私の腕を掴んで寝室に誘導された。

ベッドに横になると一緒に秀一君も潜り込んできた。
遠慮がちに軽く彼のシャツを掴んでみた。
タバコの残り香なのか香水なのか分からないけど、
とても良い匂いがする。
うとうとしていたら優しく頭を撫でられた。
瞼が重い…。
「おやすみ。」

彼の言葉に返事をする前に眠りについた。