警視庁から出てすぐに昴さんにメールを入れた。
数分としないうちに目の前にsubaru360が現れた。

「昴さん。」ほっとした顔で彼を見ると助手席のドアを開けて手招きした。
乗り込むとドアを閉めて彼も運転席に乗り込んだ。

「お疲れ様でした。」
「お迎えありがとう。頑張ったけど流石に定時は無理だった。資料が高層ビルレベルだったから。」
「それは大変でしたね。」
「私だけ特に山積みでびっくりしちゃった…。」
「頼られてるって事じゃないですか。」
「うーん、そう思えば悪い気はしないけどね。」


工藤邸に着くとダイニングの椅子に座らされた。
「夕食はビーフシチューです。」
目の前に出されたのはお肉がゴロゴロ入っている美味しそうなビーフシチュー。
物凄く良い匂いがする。ろくにお昼を食べてなかったからお腹空いていた。
「美味しそう…！」
「どうぞ、召し上がれ。」
「いただきます！」
私が食べ始めたのをみて彼もスプーンを手にした。

美味しすぎて無言でがっついた。
このお肉、柔らかい…！凄く良いお肉な気がする。
「お肉、松坂牛使ってみました。」
「ｺﾞﾌｯ。」思わずむせてお茶を飲み干した。
「も…勿体ない…！ビーフシチューに入れるお肉じゃないでしょう…！それはステーキとか、もっとお肉の味が感じられる味付けにした方が！」
「そうなんですか。高い方が美味しいかなと思っただけなんですが。」

この人金銭感覚ヤバいのか…？一瞬そう思ったが、恐らく逆にほとんどお金を使わないから何がどれくらいの金額だとか分かってないのかもしれない。
これは色々教えないと…。

「後で日本での金銭感覚、教えてあげます。アメリカと物価はだいぶ違うかもしれませんけど。」
「それは助かります。」

食べ終えて、ネットで見れるスーパーのチラシを使って大体の物価を教えた。今後、あまり高い商品を買う事は控えるべきだと忠告した。
だって大学院生がホイホイ高いものを買ってたら確実に怪しまれるし。

「分かりました。ネットでチラシが見れるのは便利ですね。…今度から時々一緒に買い物へ行ってもらえますか？実践しないと分からない事もあると思うので。」
「…休みの時は一緒に行きます。」
「えぇ、お願いします。」


時計を見ると21時過ぎていた。
「そろそろ帰らないと。…ご馳走様でした。」
「…帰っちゃうんですか…？」
私の手首を掴むと寂しそうに言った。
か…かわいい！その顔ずるいよ昴さん！
「明日も仕事なんです。」
「ここ最近忙しいんでしょう…？それなら明日からしばらくここに泊まると良い。夕食の心配をしなくて済みますよ。
今日は送りますが、明日からの着替えなどを僕に預けて下さい。」
「そ、それは…。」
「ダメですか？」
「だ、だめじゃ…ないです。」
これが惚れた弱みか…。断れない。

家に着いてキャリーケースにいくつか服と下着を詰めて昴さんに渡した。
「お預かりしますね。また明日の朝迎えに行きますので。」
「お願いします。」
良いのかな…と思いつつ、一緒に居られることが嬉しい。ニコニコしながら彼に手を振って立ち去ろうとすると手首をまた掴まれた。
なんだろうと振り返ると唇に柔らかいものが触れた。
「！？」
「またな。おやすみ。」
彼の翠眼が私を優しく見つめる。
呆然と立ち尽くす私を置いてさっさと車を走らせて行ってしまった。

慌ててマンションの階段をかけ登って部屋のドアを閉めて座り込んだ。
この早い心臓の鼓動を階段のせいにしてなんとか平常心を保った。