心臓が早鐘を打つ。しかし頭は冷静だった。
前にもこういった事はあった。
だから今度は同じミスはしない。
唇をぐっと噛んでゆっくり玄関のドアを開けた。

「久しぶり、メアリー。」
「お前は誰だ！またベルモットか！何故ここが分かった！」
銃口をしっかりと目の前の人物に向けた。

キャスケットを目深に被り、そこから伸びる真っ直ぐな黒髪。髪の隙間から覗く鋭い目が私を見下ろす。
目の前には夫がいた。
いや、夫の見た目をしている怪物か？

以前黒の組織のベルモットが夫に変装して私にAPTX4869を飲ませた。
今回もまたベルモットかもしれない。

ベルモットはコードネームがある組織のメンバーの中で、唯一捕まえる事が出来ていなかった。
自由に見た目も声も変えられる。
そのせいで雲隠れされてしまった。
それが何故今頃私の前に姿を現すのか？
今度こそ私を消しに来たのか？
いや、秀一やナマエさんを狙ってかもしれない。

「久しぶりに会うのに、最初にみるのがそんな顔とは残念だ、メアリー。
その物騒なものをしまってくれないか？
俺はベルモットじゃない。
赤井務武。…正真正銘、君の夫だ。」
「嘘をつくな、もう騙されない。」
しっかりとトリガーを引き、引き金に手をかけた。
「母さん、そこにいる父さんは本物だ。」
後ろからのそりと秀一が来た。
「MI6から俺の元に連絡が来た。
１ヶ月より少し前の事だ。」

秀一の話では突然MI6からFBIの方へ連絡が来た。
赤井務武を名乗る男が現れたと。
息子である赤井秀一に務武本人かどうか確認して欲しい、それと念の為親子を証明する為の遺伝子検査をさせて欲しいとの事だった。

「ここに遺伝子検査の証明書がある。」
「ほら、首に継ぎ目なんてないだろ？
変装もしていないさ。なんなら身体検査を隅から隅までしてくれて構わない。」
「ほ…本当に？本当に務武さんなの？」
一気に緊張が解けていく。
それでも念の為銃口は下げなかった。
溢れた涙で、前がよく見えない。
「驚かせてすまなかった。
まぁ、驚かせたくてメアリーには黙っていて貰うようにしたからな。な、秀一。
ドッキリ大成功だ！」
務武さんがくしゃっとした顔で笑った。
「務武さん！今まで何処に居たのよ！馬鹿！」
ようやく拳銃を置いて最愛の夫の胸へと飛び込んだ。

…この世で最も愛しい人。
私の心の中にずっと居座っていた人。
彼はもうこの世にはいないと思っていた。
ずっと会いたいと願ってやまなかった人が目の前にいた。
懐かしいタバコの匂い。
その懐かしさに私は更に涙を流した。
涙を流す私の頭を優しく撫で、強く抱き締め返してくれた。

「メアリー、1人でよく子供達を育ててくれた。
頑張ったな。
それと秀一、前も言ったが随分と大きくなった。
俺とあまり変わらない位の体格になった。」
「……あぁ。」
「FBIでは、随分活躍したそうだな。
…辞めるようだが。」
「…いや、辞めるのは止めた。」
「そうか。それは良い。
…あぁ、それと結婚おめでとう。
秀吉にも言わなくては。」
「中にいる。」
「そうか。

……なぁメアリー、悪いがそろそろ中に入れてもらえないだろうか？ご近所さんに見られたら、妻を泣かしているようで罰が悪い。」
「ご、ごめんなさい務武さん。入って。」


「！？父さん！？」
秀吉が目を見開いて驚く。
真純もナマエさんも驚いていた。
「秀吉も大きくなったな。
七冠王達成と、結婚おめでとう。」
「嘘…本物…？
あ、でも耳の形が一緒だ！父さん！！
会いたかった！！」
秀吉が涙ぐみながら近付いていった。
「……おや、その子は？」
「真純。貴方の子よ。」
「パパ！？ほんとに？本当にボクのパパなの！？
わー！！嬉しい！！」
真純も務武の元へ駆け寄って抱きついた。
「…娘だと？…今いくつだ？」
「今年19だよ。」
「19？

…………まさか、あの時ヤったt」
「務武さん！」
「ﾝﾝ……失礼。次は女の子が良いかな、と冗談混じりに言っていたが…本当に娘が出来るとはな。
"ますみ"というのか。良い名前だ。」
「真剣の真に、純粋の純さ。名前の通り真っ直ぐ清く育ったよ。ママのおかげでね！」
「そのようだ。もっと顔を見せてくれ。」
嬉しそうに笑うと大きな手で愛おしそうに真純の顔を包んだ。