Put on a happy face
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最近、シュウが凄く忙しそう。物凄く。
勿論組織壊滅後の後始末もあるが、それはだいぶ落ち着いてきたはず。それなのに。
反比例するようにしょっちゅうどこかへ電話をかけている。
しかも随分と嬉しそうに。
微かに電話口から聞こえる声は男性のようなので、浮気ではないだろう。
「最近忙しそうね。」
「あぁ。」
何か問い詰めたいが、聞いたところで"あぁ"とか"大した事じゃない、気にするな"としか返ってこないだろう。
1つ気がかりなのが、辞める前の最後の大仕事として潜入捜査を任されるのではないかということ。
そういうことだったら私には詳しく話せないだろうし、仕事上言えない事も沢山あるだろう。
でも、潜入になってしまったら次会えるまで数年かかる事もあるし、何よりも危険だ。
…なーんてカッコよく言ってるが、はっきり言うと寂しい。一緒にいる時くらいゆっくり出来ると思ったのに。
ソファーの肘掛に顔を突っ伏し、モヤモヤした気持ちをクッションと共に押し潰した。
「ナマエ、そんな所で寝ていたら風邪ひくぞ。眠いのか?」
跪いて私の顔を覗き込もうとする。
「大丈夫、眠くない。
ちょっと疲れただけ。」
「……すまない。どうやら寂しがらせてしまったようだな。」
「なっ…!そんな事!」
「俺には分かる。何か言いたい事があったり、寂しかったりすると…この可愛い唇が内に引っ込んでしまうからな。」
そう言って優しくキスをされた。
どうやら無意識に唇をギュッと一文字に閉じてしまっていたらしい。自分でも気づかなかった癖を指摘され恥ずかしくなる。
彼の首元に腕を巻き付けて引き寄せると、今度は自分から唇を重ねた。
体温を感じながら何度か唇ではみ、ふにふにとした感触を味わう。
少しするとそっと唇を離された。
「言っておくが、浮気はしていないぞ。」
「分かってる。」
ケタケタ笑いながらシュウの頬を軽くつねった。いつも私が不安になる度、シュウは見逃さずこうして安心させてくれるのだ。
本当にいつもよく私の事を見ていてくれる。昔から。
シュウは私を抱き上げるとベッドに連れて行き、お姫様抱っこのまま寝かされる。
「本当はこのまま抱きたい所だが…またのお楽しみにしておこう。」
何度も優しくキスをされた後、いつものように抱きしめられながら眠りについた。
翌日、目を開けると何やら物音がした。
薄ら目を開けるとそばでキャリーケースに最低限の荷物を纏めていた。
「おはよ…。どこか行くの?」
「イギリスへ行ってくる。一つ用事が片付いたらすぐに戻ってくる。」
その言葉を聞いて一気に目が覚めた。
ついに、潜入捜査をする時が来たんだ。
これじゃあいつ帰って来れるかも分からないじゃない。
急に心細くなった私は、無言で勢いよく抱きついた。顔を上げたら泣いてしまいそうだ。それでもやっぱり堪えきれずに涙が一滴頬を伝った。
「ナマエ。」
「どれくらい…。
どれくらいの期間、潜るの…。」
「何を言っているんだ?」
「私には分かってる!潜入捜査でしょ!
私はどれくらい待ってればいいの!!?」
怒りと悲しみで心がぐちゃぐちゃだった。
もうなりふり構わない。
涙でボロボロな顔でシュウにすがりついた。
「違う、落ち着け」
「嘘つき!」
叫んだと同時に突然身体を引き寄せられ、力強く抱きしめられた。
驚いて抵抗する気も起きず、大人しく腕の中に収まる。
そのままゆっくりと背中をさすられると段々と落ち着きを取り戻してきた。
そのままじっとしていると、落ち着いた頃を見計らって口を開いた。
「俺はもう二度と潜るつもりはない。
イギリスに行くのは、組織壊滅と何も関係はない。
その上FBIの仕事で行く訳ではない。
完全にプライベートな問題でだ。」
「プライベート…。」
その部分を教えてはくれないのだろうか。
「帰ってきたら教えてやる。
遅くても明後日には帰ってくる。
不安にさせて悪かった。」
少し身体を離すと、涙目になっている私を真っ直ぐ見つめてこう言った。
「俺はもう二度と離れないと誓った。
それを破るつもりはない。」
シュウの言葉を噛み締めるように何度も小さくうなづいた。
昼過ぎ、シュウは出掛けていった。
見送りをして自分も登庁した。
溜まっていた仕事を終わらせてしまおうと思いデスクにつく。画面と睨めっこをしてどれくらい経っただろう。降谷さんから声をかけられた。
「例の件で話がある。落ち着いた頃にでも後で話をしよう。」
「分かりました。今でも大丈夫です。」
「そうか。じゃあ会議室へ行こう。」
席を立ち、降谷さんの後に続く。
会議室の中には当然誰も居なかった。
無機質なパイプ椅子に座る。
冷たい金属に少し身体が驚いた。
降谷さんも雑に椅子を引き座った。
「それで…何処の部署に行きたい?」
「私、捜査一課に行きたいです。」
「それは…随分大変な所へ行くな…。
いいのか?せっかく公安から離れるのに、
危険な所へわざわざ…。」
「降谷さん!私は危険かそうでないかで仕事を選びたくありません!
…私、時々コナン君たちと一緒に事件に巻き込まれて、捜査一課の方達と関わる事が何度かあったんです。
捜査一課の方達は、本当にしっかりとした信念を持って仕事をしていて、公安にさえ突っかかって来ようとした。
事件解決の為ならどんな努力も惜しまない。そんな方達と一緒に仕事をしてみたいと思ったんです!」
しばらく考え込んでいたようだが、ニヤリと笑うと口を開いた。
「……なるほどな。確かに彼らは正義感が強いし、実力もある。ただ……あまり危ない事に首を突っ込むのは辞めてくれよ。赤井だって、自分の妻が殉職するのは耐えられないだろう。」
「はい、もちろんです!」
「よし、じゃあ早速だが……今日にでも異動願いを出しておく。」
「えっ?もう?」
「ああ。僕から推薦するから大丈夫だ。
それにナマエの実力なら何処へでも行けると分かっている。」
「ありがとうございます。
でも、もう異動…。正直まだ異動したくないです。」
「僕もまだ居なくなられるのは困るよ。
3ヶ月後位でどうだ?」
「はい。よろしくお願いします。」
3ヶ月後には、きっと新しい生活に慣れている筈だ。
その後しばらく降谷さんと話し、会議室を後にした。
家に帰ると、当然真っ暗。明かりひとつなく。
カーテンも閉まっているせいか闇が広がる。
電気を点けるのもなんだか億劫で、明かりもつけずにベッドに横たわった。
寂しい。悲しい。
公安として頑張ってきたつもりだったけど、
結局私はあの二人には勝てない。
こんな事なら普通の生活を送れば良かったのかな。
何度考えても無駄な思考回路が頭の中を巡る。
気分が落ち込んでるせいか、お腹も空かない。
昼もほとんど食べられなかったのに。
…あぁ、だめだ。このまま横になっていてもマイナス思考にしかならない。
とりあえず勢いよく起き上がってマンションを出た。
特に目的はない。
ただ無性に外に出たかった。
夕食どきだからか、外で歩いている人は少ない気がした。
通りがかったレストランは満員。
外にいてもカトラリーがカチャカチャと鳴る音が響いている。中にいる人は満面の笑みを浮かべて食事を楽しんでいた。思わず私も笑顔になる。
そう。私はこの人達や、皆んなの笑顔を守りたい。
そのために警察官になったんだもんね。
自分に言い聞かせるように心の中で呟く。
そういえば、あそこはどうなったんだろう。
電車に乗って数駅。
人が多い繁華街に着いた。
そこから少し歩き、路地へと入る。
狭い道を通り、広い道に出ると目的地に着いた。
そこには見覚えのある人物が立っていた。
「あれ…店長!?」
「あれ?嘘!!!レイちゃん!!」
そう、ここは私が潜入したキャバクラの前。今は店の看板が外されてくすんだホワイトのシャッターが閉められている。
そういえば私、レイって名乗ってたな。懐かしい。
「お久しぶりです、店長。お元気ですか?」
「元気よぉ〜っ!」
以前より少し痩せたようだが、相変わらず筋肉隆々なのとオネェ言葉は変わらない。
「レイちゃんと飛田さん、警察官だったのね。
あの時はお店の人達を助けてくれてありがとう。」
「店長、こちらこそありがとうございました。
ずっと気になってたんです。
なんであの時、私だけ逃がそうと守ってくれたんですか?」
レイちゃんだけでも逃げなさい、と体を張って私を庇おうとした。
昴が弾道を変えなければ確実に撃たれて死んでいたかもしれないというのに。
「ふふ。それはね、貴女が私の命の恩人にそっくりだったからよ。」
「命の恩人?」
「そう。昔ね、ヘアメイクを勉強する為に海外に行きたくて。
手始めに語学留学の為にイギリスへ行ったの。
そこである日、帰りが遅くなっちゃってね。
その日に限って何故か道に迷っちゃって、ヤクザの抗争みたいなのに巻き込まれそうになって。
ひょろひょろだった私はどうする事も出来なくて、パニックになっていたんだけど…。
そんな時、神と女神が同時に現れたのよ!」
手をグッと握って熱弁する。
「その二人は本当に強くてカッコ良くて。
あっという間に全員倒しちゃったのよ!武器も使わずにね!それで私を逃がしてくれたの。
今でも忘れないわぁ。」
「私に似てたって、どんな感じの人でした?」
「びっくりするくらい2人とも美形だったわ。
男性の方は鳶色の髪にグレーの優しい目をしてた。
女性の方は黒髪で、顔が貴女に瓜二つよ。
あの方達に子供がいたらきっとレイちゃんみたいだったでしょうね!」
「まさか…。」
スマホを取り出し、両親の写真を見せた。
「もしかして、この人達ですか?」
「キャー!!!そうよ!!まさに、この人達!
私の神と女神よ!!」
興奮してその場を数回跳ねたかと思うと、うっとりとした表情で写真を眺める店長。
「これ、私の両親です。」
「キャー!本当に!?運命感じちゃうわね!!」
「そ、そうですね。」
圧を感じて思わず頷いてしまった。
「是非ご両親にお礼を伝えて貰える?
あの時助けて下さって、本当に有難かった。あれがなかったら私、死んでたわよ。」
「はい。しっかり伝えておきます。」
「ご両親も、イギリスの警察官だったの?」
「えぇ、そんなようなものです。」
MI6でした、なんて言えない。
「そう。ご両親と同じ道を歩んだのね。
…でも貴女、酷く悩んでる顔してる。
迷いがある。」
図星だった。
「……どうして分かるんですか。」
「伊達に長く生きてませんからね。
それに、私、メイクをした人の1番輝いている時の顔をしっかり覚えているから。
違いがあればすぐ分かるわよ。
ねぇ、レイちゃん。貴女の尊敬している人、大好きな人の眼は迷いのある濁った眼をしているかしら?
いつも光輝いているんじゃない?」
「…はい。いつもしっかりと前を見据えていて、輝いています。目的を果たすために。」
「そうでしょう?…尊敬している人達のように、迷いなく思うがまま進みなさい。
貴女は貴女よ。他と比べる必要はないけれど、誰かと自分を比べてしまうのが人間だから。だからたまにこうして迷ってもいいけれど、立ち止まっちゃ駄目よ!!」
「……店長、ありがとうございます。」
「いいのよ。」
「店長、また会えますか?」
「いつでも待ってるわ。実はね、私この店を建て直そうと思って。美容室とヘアメイクをする店にするつもり。ここら辺はキャバクラも多いから、客に女の子が沢山来てくれるでしょうし。
それに私、顔が広いから。物理的にも。」
そう言っておどけて笑わせてくれた。
そうだ。私は両親のように、降谷さんのように、赤井秀一にように多くの人を助けるんだ。あれだけ落ち込んでいたのに今は晴れやかな気持ちだ。
「……店長、私、頑張ります!」
「応援してるわ。あ、そうそう。これをプレゼントするわ。」手渡されたのは2本のルージュ。
1つは真っ赤。もう1つは自然な血色感になりそうな上品なナチュラルなピンク。
「いいんですか?」
「えぇ。絶対に似合うと思うわ。
貴女は赤が似合う。強気に頑張りなさい。
もうひとつはね、キスをしても落ちないルージュよ。男は真っ赤で派手な物はちょーっとびっくりしちゃうかもしれないから。」
店長が明るく笑った。
「店長、私結婚したんです。」
「おめでとう!相手はあのメガネでピンクブラウンの髪の人?」昴の事を言われてドキッとした。
「えっ!!なんで分かったんですか?」
「貴女を死ぬ気で守るという顔をしていたから。
私にはなーんでもお見通しなのよ。」
この店長には勝てないな。
お礼を言って、最後に握手をして別れた。
私はやるべき事をやるだけ。
シュウを信じて待つ。それだけ。
勿論組織壊滅後の後始末もあるが、それはだいぶ落ち着いてきたはず。それなのに。
反比例するようにしょっちゅうどこかへ電話をかけている。
しかも随分と嬉しそうに。
微かに電話口から聞こえる声は男性のようなので、浮気ではないだろう。
「最近忙しそうね。」
「あぁ。」
何か問い詰めたいが、聞いたところで"あぁ"とか"大した事じゃない、気にするな"としか返ってこないだろう。
1つ気がかりなのが、辞める前の最後の大仕事として潜入捜査を任されるのではないかということ。
そういうことだったら私には詳しく話せないだろうし、仕事上言えない事も沢山あるだろう。
でも、潜入になってしまったら次会えるまで数年かかる事もあるし、何よりも危険だ。
…なーんてカッコよく言ってるが、はっきり言うと寂しい。一緒にいる時くらいゆっくり出来ると思ったのに。
ソファーの肘掛に顔を突っ伏し、モヤモヤした気持ちをクッションと共に押し潰した。
「ナマエ、そんな所で寝ていたら風邪ひくぞ。眠いのか?」
跪いて私の顔を覗き込もうとする。
「大丈夫、眠くない。
ちょっと疲れただけ。」
「……すまない。どうやら寂しがらせてしまったようだな。」
「なっ…!そんな事!」
「俺には分かる。何か言いたい事があったり、寂しかったりすると…この可愛い唇が内に引っ込んでしまうからな。」
そう言って優しくキスをされた。
どうやら無意識に唇をギュッと一文字に閉じてしまっていたらしい。自分でも気づかなかった癖を指摘され恥ずかしくなる。
彼の首元に腕を巻き付けて引き寄せると、今度は自分から唇を重ねた。
体温を感じながら何度か唇ではみ、ふにふにとした感触を味わう。
少しするとそっと唇を離された。
「言っておくが、浮気はしていないぞ。」
「分かってる。」
ケタケタ笑いながらシュウの頬を軽くつねった。いつも私が不安になる度、シュウは見逃さずこうして安心させてくれるのだ。
本当にいつもよく私の事を見ていてくれる。昔から。
シュウは私を抱き上げるとベッドに連れて行き、お姫様抱っこのまま寝かされる。
「本当はこのまま抱きたい所だが…またのお楽しみにしておこう。」
何度も優しくキスをされた後、いつものように抱きしめられながら眠りについた。
翌日、目を開けると何やら物音がした。
薄ら目を開けるとそばでキャリーケースに最低限の荷物を纏めていた。
「おはよ…。どこか行くの?」
「イギリスへ行ってくる。一つ用事が片付いたらすぐに戻ってくる。」
その言葉を聞いて一気に目が覚めた。
ついに、潜入捜査をする時が来たんだ。
これじゃあいつ帰って来れるかも分からないじゃない。
急に心細くなった私は、無言で勢いよく抱きついた。顔を上げたら泣いてしまいそうだ。それでもやっぱり堪えきれずに涙が一滴頬を伝った。
「ナマエ。」
「どれくらい…。
どれくらいの期間、潜るの…。」
「何を言っているんだ?」
「私には分かってる!潜入捜査でしょ!
私はどれくらい待ってればいいの!!?」
怒りと悲しみで心がぐちゃぐちゃだった。
もうなりふり構わない。
涙でボロボロな顔でシュウにすがりついた。
「違う、落ち着け」
「嘘つき!」
叫んだと同時に突然身体を引き寄せられ、力強く抱きしめられた。
驚いて抵抗する気も起きず、大人しく腕の中に収まる。
そのままゆっくりと背中をさすられると段々と落ち着きを取り戻してきた。
そのままじっとしていると、落ち着いた頃を見計らって口を開いた。
「俺はもう二度と潜るつもりはない。
イギリスに行くのは、組織壊滅と何も関係はない。
その上FBIの仕事で行く訳ではない。
完全にプライベートな問題でだ。」
「プライベート…。」
その部分を教えてはくれないのだろうか。
「帰ってきたら教えてやる。
遅くても明後日には帰ってくる。
不安にさせて悪かった。」
少し身体を離すと、涙目になっている私を真っ直ぐ見つめてこう言った。
「俺はもう二度と離れないと誓った。
それを破るつもりはない。」
シュウの言葉を噛み締めるように何度も小さくうなづいた。
昼過ぎ、シュウは出掛けていった。
見送りをして自分も登庁した。
溜まっていた仕事を終わらせてしまおうと思いデスクにつく。画面と睨めっこをしてどれくらい経っただろう。降谷さんから声をかけられた。
「例の件で話がある。落ち着いた頃にでも後で話をしよう。」
「分かりました。今でも大丈夫です。」
「そうか。じゃあ会議室へ行こう。」
席を立ち、降谷さんの後に続く。
会議室の中には当然誰も居なかった。
無機質なパイプ椅子に座る。
冷たい金属に少し身体が驚いた。
降谷さんも雑に椅子を引き座った。
「それで…何処の部署に行きたい?」
「私、捜査一課に行きたいです。」
「それは…随分大変な所へ行くな…。
いいのか?せっかく公安から離れるのに、
危険な所へわざわざ…。」
「降谷さん!私は危険かそうでないかで仕事を選びたくありません!
…私、時々コナン君たちと一緒に事件に巻き込まれて、捜査一課の方達と関わる事が何度かあったんです。
捜査一課の方達は、本当にしっかりとした信念を持って仕事をしていて、公安にさえ突っかかって来ようとした。
事件解決の為ならどんな努力も惜しまない。そんな方達と一緒に仕事をしてみたいと思ったんです!」
しばらく考え込んでいたようだが、ニヤリと笑うと口を開いた。
「……なるほどな。確かに彼らは正義感が強いし、実力もある。ただ……あまり危ない事に首を突っ込むのは辞めてくれよ。赤井だって、自分の妻が殉職するのは耐えられないだろう。」
「はい、もちろんです!」
「よし、じゃあ早速だが……今日にでも異動願いを出しておく。」
「えっ?もう?」
「ああ。僕から推薦するから大丈夫だ。
それにナマエの実力なら何処へでも行けると分かっている。」
「ありがとうございます。
でも、もう異動…。正直まだ異動したくないです。」
「僕もまだ居なくなられるのは困るよ。
3ヶ月後位でどうだ?」
「はい。よろしくお願いします。」
3ヶ月後には、きっと新しい生活に慣れている筈だ。
その後しばらく降谷さんと話し、会議室を後にした。
家に帰ると、当然真っ暗。明かりひとつなく。
カーテンも閉まっているせいか闇が広がる。
電気を点けるのもなんだか億劫で、明かりもつけずにベッドに横たわった。
寂しい。悲しい。
公安として頑張ってきたつもりだったけど、
結局私はあの二人には勝てない。
こんな事なら普通の生活を送れば良かったのかな。
何度考えても無駄な思考回路が頭の中を巡る。
気分が落ち込んでるせいか、お腹も空かない。
昼もほとんど食べられなかったのに。
…あぁ、だめだ。このまま横になっていてもマイナス思考にしかならない。
とりあえず勢いよく起き上がってマンションを出た。
特に目的はない。
ただ無性に外に出たかった。
夕食どきだからか、外で歩いている人は少ない気がした。
通りがかったレストランは満員。
外にいてもカトラリーがカチャカチャと鳴る音が響いている。中にいる人は満面の笑みを浮かべて食事を楽しんでいた。思わず私も笑顔になる。
そう。私はこの人達や、皆んなの笑顔を守りたい。
そのために警察官になったんだもんね。
自分に言い聞かせるように心の中で呟く。
そういえば、あそこはどうなったんだろう。
電車に乗って数駅。
人が多い繁華街に着いた。
そこから少し歩き、路地へと入る。
狭い道を通り、広い道に出ると目的地に着いた。
そこには見覚えのある人物が立っていた。
「あれ…店長!?」
「あれ?嘘!!!レイちゃん!!」
そう、ここは私が潜入したキャバクラの前。今は店の看板が外されてくすんだホワイトのシャッターが閉められている。
そういえば私、レイって名乗ってたな。懐かしい。
「お久しぶりです、店長。お元気ですか?」
「元気よぉ〜っ!」
以前より少し痩せたようだが、相変わらず筋肉隆々なのとオネェ言葉は変わらない。
「レイちゃんと飛田さん、警察官だったのね。
あの時はお店の人達を助けてくれてありがとう。」
「店長、こちらこそありがとうございました。
ずっと気になってたんです。
なんであの時、私だけ逃がそうと守ってくれたんですか?」
レイちゃんだけでも逃げなさい、と体を張って私を庇おうとした。
昴が弾道を変えなければ確実に撃たれて死んでいたかもしれないというのに。
「ふふ。それはね、貴女が私の命の恩人にそっくりだったからよ。」
「命の恩人?」
「そう。昔ね、ヘアメイクを勉強する為に海外に行きたくて。
手始めに語学留学の為にイギリスへ行ったの。
そこである日、帰りが遅くなっちゃってね。
その日に限って何故か道に迷っちゃって、ヤクザの抗争みたいなのに巻き込まれそうになって。
ひょろひょろだった私はどうする事も出来なくて、パニックになっていたんだけど…。
そんな時、神と女神が同時に現れたのよ!」
手をグッと握って熱弁する。
「その二人は本当に強くてカッコ良くて。
あっという間に全員倒しちゃったのよ!武器も使わずにね!それで私を逃がしてくれたの。
今でも忘れないわぁ。」
「私に似てたって、どんな感じの人でした?」
「びっくりするくらい2人とも美形だったわ。
男性の方は鳶色の髪にグレーの優しい目をしてた。
女性の方は黒髪で、顔が貴女に瓜二つよ。
あの方達に子供がいたらきっとレイちゃんみたいだったでしょうね!」
「まさか…。」
スマホを取り出し、両親の写真を見せた。
「もしかして、この人達ですか?」
「キャー!!!そうよ!!まさに、この人達!
私の神と女神よ!!」
興奮してその場を数回跳ねたかと思うと、うっとりとした表情で写真を眺める店長。
「これ、私の両親です。」
「キャー!本当に!?運命感じちゃうわね!!」
「そ、そうですね。」
圧を感じて思わず頷いてしまった。
「是非ご両親にお礼を伝えて貰える?
あの時助けて下さって、本当に有難かった。あれがなかったら私、死んでたわよ。」
「はい。しっかり伝えておきます。」
「ご両親も、イギリスの警察官だったの?」
「えぇ、そんなようなものです。」
MI6でした、なんて言えない。
「そう。ご両親と同じ道を歩んだのね。
…でも貴女、酷く悩んでる顔してる。
迷いがある。」
図星だった。
「……どうして分かるんですか。」
「伊達に長く生きてませんからね。
それに、私、メイクをした人の1番輝いている時の顔をしっかり覚えているから。
違いがあればすぐ分かるわよ。
ねぇ、レイちゃん。貴女の尊敬している人、大好きな人の眼は迷いのある濁った眼をしているかしら?
いつも光輝いているんじゃない?」
「…はい。いつもしっかりと前を見据えていて、輝いています。目的を果たすために。」
「そうでしょう?…尊敬している人達のように、迷いなく思うがまま進みなさい。
貴女は貴女よ。他と比べる必要はないけれど、誰かと自分を比べてしまうのが人間だから。だからたまにこうして迷ってもいいけれど、立ち止まっちゃ駄目よ!!」
「……店長、ありがとうございます。」
「いいのよ。」
「店長、また会えますか?」
「いつでも待ってるわ。実はね、私この店を建て直そうと思って。美容室とヘアメイクをする店にするつもり。ここら辺はキャバクラも多いから、客に女の子が沢山来てくれるでしょうし。
それに私、顔が広いから。物理的にも。」
そう言っておどけて笑わせてくれた。
そうだ。私は両親のように、降谷さんのように、赤井秀一にように多くの人を助けるんだ。あれだけ落ち込んでいたのに今は晴れやかな気持ちだ。
「……店長、私、頑張ります!」
「応援してるわ。あ、そうそう。これをプレゼントするわ。」手渡されたのは2本のルージュ。
1つは真っ赤。もう1つは自然な血色感になりそうな上品なナチュラルなピンク。
「いいんですか?」
「えぇ。絶対に似合うと思うわ。
貴女は赤が似合う。強気に頑張りなさい。
もうひとつはね、キスをしても落ちないルージュよ。男は真っ赤で派手な物はちょーっとびっくりしちゃうかもしれないから。」
店長が明るく笑った。
「店長、私結婚したんです。」
「おめでとう!相手はあのメガネでピンクブラウンの髪の人?」昴の事を言われてドキッとした。
「えっ!!なんで分かったんですか?」
「貴女を死ぬ気で守るという顔をしていたから。
私にはなーんでもお見通しなのよ。」
この店長には勝てないな。
お礼を言って、最後に握手をして別れた。
私はやるべき事をやるだけ。
シュウを信じて待つ。それだけ。