荷物をまとめ、しみじみと空っぽの家を眺める。
しばらく住んでいたこの家とは今日でお別れだ。
あちらで買い足すものは敷布団くらいだ。
元々ベッドだった為敷布団はあいにく持っていない。

荷物を持って部屋を出た。
ハロと共に車に乗り込み家へと向かう。

ピンポーン
「零くん、荷物入れるの手伝うよ！」
「ありがとう、ハロを頼むよ。あ、この鉢植え、庭に置かせてもらってもいいかな？セロリなんだけど。」
「もちろん！好きな所に置いて。」

荷物を運び入れて一息休憩。
彼女はお昼にうどんを作ってくれていた。
キッチンに立つ彼女を眺めているとインターホンが鳴った。
「僕が出ようか。」
「うん、お願い。」
インターホンを確認するとタッパーを持った年配の女性だ。顔は口元しか見えない。
玄関のドアを開けると見た事のある顔があった。
「あらっ、まぁ！？安室さん！！！なんでここにいらっしゃるの！？」
「た、田中さん！」
ポアロで僕のファンクラブ会長だった田中さんが居た。
「もしかして、えれなちゃんと同棲！？結婚！？」
「実はえれなと付き合っていて、今日から一緒に住む事になりまして。」
「そう！安室さんなら大歓迎だわー！こんな奇跡あるかしら！本当に凄い！嬉しいわー！
姪っ子と安室さんがくっつくなんて！」
「姪っ子！？」
「そうなの。弟夫婦の子供だったんだけど、両親を亡くしてから本当に苦労していたわ。もちろん時々手助けはしたけど、私も子供が3人もいたからなかなか沢山手はかけられなくてね。でもえれなちゃんは本当に頑張り屋さんだから、安室さん沢山助けてあげてね。」
「もちろんです。」
「おばちゃん！！」なかなか戻ってこないから心配したんだろう、えれなが来た。
「えれなちゃん、良かったわねぇ！素敵な彼氏が出来て！実は私は安室さんのファンクラブ会長だったのよ！」
「前に言ってたファンクラブって透くんのだったの！？びっくりー！」
「ポアロで皆安室さん目当てで来ている人多かったわよ。ハンサムで料理も上手くて気配り上手で優しくて、本当に完璧！そんな人が付いているならおばちゃん安心だわ。あ！そうそう、筑前煮沢山作ったから食べてちょうだい！作りすぎちゃってね。安室さん、今度またお邪魔するわねぇー！じゃあね！」
あっという間に帰って行った。
「あの田中さんが伯母だったなんて驚いたよ。そういえば同じ田中だよね。」
「うん、お父さんの姉なの。自分の子供のように本当に良くしてくれて。沢山助けてもらったんだ。」
「そうだったんだ。伯母さんはよくポアロに来てくれて、色々気を配ってくれていたよ。ほんと優しい方だよね。」
「うん。…ファンクラブかぁ、分かるなぁ。零くん、モテそうだもん。」
「いやいや…。」
「さ、うどん伸びちゃう。食べよ！」
「そうだね。」
「ワンッ！」
「ハロもごはんにしよう。」
うどんを啜りながら何処に敷布団買いに行くか思案した。