第4章
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朝から喉が痛いし、かなりダルい。
重い身体をなんとか動かして隣の部屋に行った。
「ごほごほ…。」
咳き込みつつ、朝食を作ってくれているシュウに近づく。
「ナマエ、おはよう。…大丈夫か?」
「なんか、喉痛いんだよね…。」
「風邪を引くなんて珍しいな。熱は?」
「まだ測ってない。」
シュウが額に手を当ててくれた。ひんやりした手が気持ち良い。
「熱いぞ。熱あるんじゃないか?もうすぐ朝食できるから座って待っていろ。しんどかったら寝ていても構わん。」
「うん…ありがとう。ここで待ってる。」
熱いお茶と共になんとかパンを流し込むと倦怠感が限界だった。
「薬はないのか?」
「あるにはあるんだけど…。」
「作らないとないのか?」
「ううん、前に作ったのがある。」
「ならさっさと飲め。」
「うん…。」
「…何を渋っている?」
「あのね…薬の名前、元気爆発薬っていうんだけど…恥ずかしい副作用があって。」
「なんだ?今更俺達の間柄で恥ずかしがるような事はないだろ。」
「…じゃあ、見ても笑わないでね。」
部屋から持ってきた元気爆発薬を一気に煽った。
味は不味いがこの薬の効果は高い。
1回飲めば大抵治る。
飲んだ瞬間、身体がじわじわ熱くなってきた。
そこから段々と顔も熱くなってきた。
耳に違和感が出てきたのはそのすぐ後だった。
「これね、飲むと数時間耳から煙が出てくるの。」
恥ずかしくなって手で耳を塞いだが指の間からもくもくと煙が出てくるのは変わらない。
「ホォー…。変わった副作用だな。」
シュウの顔を見ると真顔だった。
「変でしょ?」
「変わってるなとは思うが、別に今更驚かない。
俺は箒で飛んだり、鉢に顔を突っ込まれて記憶を見させられたりしているんだぞ?
耳から煙が出ている所でなんとも思わない。」
「ありがとう…。でも個人的には恥ずかしいからしばらく部屋に閉じこもる…。」
「ダメだ。」
部屋に戻ろうとした瞬間、抱き抱えられてシュウのベッドに横にさせられた。
「心配だ。ここにいろ。何か適当に甘い物買ってくる。どうせ欲しい物はプリンとかアイスとかだろ?」
「えへへ…。ついでにチョコケーキも!」
「…分かった。ちゃんと寝てるんだぞ。」
子供にするように頭をくしゃくしゃ撫でると額にキスをし、財布を手に出かけて行った。
ーーーーーー
目が覚めたら何故か工藤邸の家の前で倒れていた。
家で寝ていたはずなのに…なんで?
とりあえず家に帰ろう。
魔法で移動を試みるも、何故か魔法が使えなかった。
「なんで…??」
「どうされました?」
声をかけてきた男はよく見知った顔。
「昴…。」
「どちら様でしょうか?」
「え…。」
「どこかでお会いしましたか?」
「私の事、知らないの?」
「僕は割と記憶力は良い方ですが…。お見かけした事はないかと。」
「そんな…。」
思い切って彼のハイネックを掴んで捲った。
「嘘……。ない……。」
「貴女は誰かと勘違いされているのでは?」
試しにそっと彼の顔を触ってみたが、変装などではなかった。
「本物の…沖矢…昴…。」
「本物?なんですかそれ。僕みたいな偽物がいるんですか?」目の前の男は困ったように笑った。
2・3歩後ずさりをして、急いで家まで走った。
マンションに入っていつも通り上に上がったが、表札の名前は別の人のものだった。
「そんな…。」
「どうしました?」
声をかけられて、パッと横をみると工藤新一君が立っていた。
「新一君!ねぇ、ここって…。」
「うちに何か用ですか?」
「うち…?」
「もしかして、探偵の依頼ですか?それなら事務所に来て下さい。家に押しかけるなんて、ストーカーかと思われても仕方がないですよ。
もしかして、ここのマンションの方ですか?」
「そんな…。私の事、知らない?」
「知りませんが…。…もし良かったら、話を聞きましょうか?」
「お願いします。」
「風邪を引いて寝ていたら道路で倒れていた。
その上、知っている人間から存在を忘れ去られていると。」
「…はい。」
「お名前は、ナマエベルナドットさん。FBI所属ですね。確認取ってみます。」
「もしもし?先生?調べて欲しい事があるんだけど。」
どこかに電話をして、私の名前を伝えてくれている。
先生とは誰なんだろう。
「そんな人は居ない?…じゃあ写真送ってみるから確認して。」
彼に手招きされて近づくと写真を撮られた。
「……見れた?…やっぱり知らない?…ありがとう。何かあったらまた連絡する。」
彼が電話を切って困ったような顔で見下ろされた。
「貴方はどうやら、ここでは存在しないようです。」
「えっ…。」
「僕が前に読んだ小説みたいですね。…同じ世界線にあって、いる人物も一緒なのに違う点がいくつもある。パラレルワールド、というらしいですが。」
「パラレル…ワールド…。ねぇ、ここでは赤井秀一さんって人、いる?」
「その人の事も、ご存知なんですね。いますよ。
彼は裏社会のボス、というべきか。
知る人は知る"黒の組織"のトップと呼ばれる人物。」
「組織のトップ!?」
何がなんだか分からない。ありえない。
なんでシュウが逆に組織のトップなの!?
「貴女は彼の知り合いだったのかもしれませんね。もしかしたら、ここがパラレルワールドだと思い込まされる薬を飲まされたのかもしれません。
貴方が思っていた世界は、貴女が脳内で作り上げた世界で、現実はこっちという事でしょうか…。」
「そんなはずない!だって、だって全部覚えてる!シュウと知り合った時も、一緒に仕事してきた事も…。」
「残念ながら、作られた記憶かもしれません…。」
「そんな…。」
ショックを受けて慌ててマンションを飛び出して工藤邸に行った。
「ここ…工藤邸じゃない…。」
外観は工藤邸そっくりなのに、表札は沖矢になっていた。
「また来たんですか?」
「お、沖矢さん…。赤井秀一という男を知っていますか?」
「……。貴女はどういう関係ですか?」
「妻なんです…。」
「……。仕方がない。こちらへ来てもらおう。」
沖矢さんの車に乗り込んだ。
いつもと違って車はsubaru360ではなかった。
黒塗りのベンツだが車種は分からない。
どれくらい走ったか。気付いたら空は随分と暗かった。
「ここは……来葉峠…。」
「えぇ。」
頂上に近づくともう空は真っ暗だった。
灯りは街頭と車のライトだけ。
そこに1台の車が止まっていた。
赤いマスタング。
近くに立っていたのは赤井秀一だった。
彼は私を見るなり焦った顔をした。
「やはり、ナマエまでこっちの世界に来てしまったのか…。」
「シュウ!私が分かるの?」
「当たり前だろ。…気付いたらこちらに来ていた。
俺が組織のボスなんて馬鹿げた世界だよな。」
自傷気味に笑うと私に近付こうとした。
「誰が貴方に無償で引き渡すと言いました?」
隣の沖矢が怪しく笑った。
「何が目的だ?」
「それはですね…。」
次の瞬間発砲音が響いた。
「グ…ッ…!」
シュウが膝立ちになって倒れ込んだ。
慌てて駆け寄って起こすと息が出来ないのかパクパク金魚のように酸素を求めて口を動かしていた。
胸をみると左右どちらも肺の辺りを撃ち抜かれていた。
傷口を素手で抑えて人工呼吸をするも、傷から空気が漏れているようだった。
「ッ…ガ…ッ……。」
何か言いたそうにしていたが、数秒で苦しそうにもがいて白目を向いて動かなくなった。
「シュウ!シュウ!!そんな…!」
「死んでしまいましたね?」
沖矢昴は平然とニコニコしている。
「なんで!なんで殺した!?」
「今度は…僕が赤井秀一になる番です。
僕こそが組織のトップになるべき男ですから。」
そういうと私のこめかみに銃を突きつけ、昴が私にキスをした。
ダメだと分かっているのに、沖矢昴に抵抗する事が出来なかった。
「さ よ う な ら」
その言葉を聞きながら意識を失った。
「起きろ、ナマエ。」
「ん………!?シュウ!?シュウ!」
思い切り目の前のシュウに抱きついた。
「うなされていたぞ。大丈夫か?」
「こわ……怖かった!!」
「もう大丈夫だ。ここは夢の世界ではない。」
「うん。」
そこで気付いた。
「ねぇ、なんで今変声機つけてるの?」
「…あぁ、さっき梓さんに会ったんだ。
ナマエが体調悪いと聞いてポアロから差し入れしたいと言っていてな。沖矢昴に変装するために用意をしていたんだ。」
「そう…。」
それでもなんだか怖くて、試しに彼の変声機を外した。
「!?」何故かシュウは驚いて私から変声機を奪おうとした。
「ねぇ…私の名前を呼んで?」
「… ナマエ。」シュウから出た声は沖矢昴の声だった。
「なんで…?変声機つけてないのに……。」
「言ったでしょう?今度は僕が赤井秀一になる番なんですよ。」
「…い、おい!起きろ!」
シュウの声に飛び起きて戦闘態勢をとった。
「沖矢昴!今度は騙されない。」
「いったいどうしたんだ?うなされていたから起こしただけだが…?」
「嘘!シュウを殺して、私も殺そうとしてるんでしょ!」
「俺はここにいるが?」
「嘘つき!シュウの仇!」
目の前のシュウに殴り掛かりながら武器になるような物を探した。
ペンがある。咄嗟にそれを振り上げた。
「やめろ!」私の攻撃を避けると後ろから羽交い締めにしてきた。
「いい加減にしろ!正気に戻れ!」
シュウの怒気に気圧されてペンを落とした。
ペンが落ちた先には私が飲んだ薬瓶があり、ガチャンとガラスがぶつかる音がした。
その音でようやく今が元の世界だと気付いた。
「ほんとに?本当に…シュウ?」
「そんなに信用ならないか?今全て脱いでやっても良いが。」
シュウを確認すると変声機もウィッグも何もつけてない。髪や顔を軽く引っ張ってみたが地のようだった。
「今は現実だ。夢の世界に惑わされ過ぎだ、馬鹿。
流石に驚くぞ。」
「ご…ごめんなさい!!!」
お茶を飲みながら夢の世界での事を話した。
「はははは!俺が黒の組織のトップ?傑作だな。
この世界では、赤井秀一と沖矢昴は月と太陽のようなものだ。
どちらかが出ている時、もう一方は影を潜める。
だから安心しろ。
沖矢が俺に取って代わる事はない。
元は有希子さんと優作さんが作り出したキャラクターだからな。夢は夢だ。」
「そうだよね…。本当にごめん。」
「体調が良くなったら薬を作り直した方が良いんじゃないか?薬の副作用にしてはタチが悪すぎる。
今回の魔法薬、失敗作かもしれないぞ。」
「そうかも…。」
「欲しがっていたケーキも買ってきたぞ。
何か食べれば元気が出るだろ。」
「ありがとう。いただきます。」
パラレルワールドというのは本当にあるのかもしれない。
例え色んな世界があったとしても、やっぱりこの今いる世界が心地良い。
…もう二度とあんな嫌な夢は見たくないな。
後日薬を確かめると、元気爆発薬と隣にあった悪夢を見させる薬瓶の中身が漏れていることに気付いた。
何らかの原因で少し混ざったのかもしれない。
今度新しい薬瓶買いに行こうかな…。
重い身体をなんとか動かして隣の部屋に行った。
「ごほごほ…。」
咳き込みつつ、朝食を作ってくれているシュウに近づく。
「ナマエ、おはよう。…大丈夫か?」
「なんか、喉痛いんだよね…。」
「風邪を引くなんて珍しいな。熱は?」
「まだ測ってない。」
シュウが額に手を当ててくれた。ひんやりした手が気持ち良い。
「熱いぞ。熱あるんじゃないか?もうすぐ朝食できるから座って待っていろ。しんどかったら寝ていても構わん。」
「うん…ありがとう。ここで待ってる。」
熱いお茶と共になんとかパンを流し込むと倦怠感が限界だった。
「薬はないのか?」
「あるにはあるんだけど…。」
「作らないとないのか?」
「ううん、前に作ったのがある。」
「ならさっさと飲め。」
「うん…。」
「…何を渋っている?」
「あのね…薬の名前、元気爆発薬っていうんだけど…恥ずかしい副作用があって。」
「なんだ?今更俺達の間柄で恥ずかしがるような事はないだろ。」
「…じゃあ、見ても笑わないでね。」
部屋から持ってきた元気爆発薬を一気に煽った。
味は不味いがこの薬の効果は高い。
1回飲めば大抵治る。
飲んだ瞬間、身体がじわじわ熱くなってきた。
そこから段々と顔も熱くなってきた。
耳に違和感が出てきたのはそのすぐ後だった。
「これね、飲むと数時間耳から煙が出てくるの。」
恥ずかしくなって手で耳を塞いだが指の間からもくもくと煙が出てくるのは変わらない。
「ホォー…。変わった副作用だな。」
シュウの顔を見ると真顔だった。
「変でしょ?」
「変わってるなとは思うが、別に今更驚かない。
俺は箒で飛んだり、鉢に顔を突っ込まれて記憶を見させられたりしているんだぞ?
耳から煙が出ている所でなんとも思わない。」
「ありがとう…。でも個人的には恥ずかしいからしばらく部屋に閉じこもる…。」
「ダメだ。」
部屋に戻ろうとした瞬間、抱き抱えられてシュウのベッドに横にさせられた。
「心配だ。ここにいろ。何か適当に甘い物買ってくる。どうせ欲しい物はプリンとかアイスとかだろ?」
「えへへ…。ついでにチョコケーキも!」
「…分かった。ちゃんと寝てるんだぞ。」
子供にするように頭をくしゃくしゃ撫でると額にキスをし、財布を手に出かけて行った。
ーーーーーー
目が覚めたら何故か工藤邸の家の前で倒れていた。
家で寝ていたはずなのに…なんで?
とりあえず家に帰ろう。
魔法で移動を試みるも、何故か魔法が使えなかった。
「なんで…??」
「どうされました?」
声をかけてきた男はよく見知った顔。
「昴…。」
「どちら様でしょうか?」
「え…。」
「どこかでお会いしましたか?」
「私の事、知らないの?」
「僕は割と記憶力は良い方ですが…。お見かけした事はないかと。」
「そんな…。」
思い切って彼のハイネックを掴んで捲った。
「嘘……。ない……。」
「貴女は誰かと勘違いされているのでは?」
試しにそっと彼の顔を触ってみたが、変装などではなかった。
「本物の…沖矢…昴…。」
「本物?なんですかそれ。僕みたいな偽物がいるんですか?」目の前の男は困ったように笑った。
2・3歩後ずさりをして、急いで家まで走った。
マンションに入っていつも通り上に上がったが、表札の名前は別の人のものだった。
「そんな…。」
「どうしました?」
声をかけられて、パッと横をみると工藤新一君が立っていた。
「新一君!ねぇ、ここって…。」
「うちに何か用ですか?」
「うち…?」
「もしかして、探偵の依頼ですか?それなら事務所に来て下さい。家に押しかけるなんて、ストーカーかと思われても仕方がないですよ。
もしかして、ここのマンションの方ですか?」
「そんな…。私の事、知らない?」
「知りませんが…。…もし良かったら、話を聞きましょうか?」
「お願いします。」
「風邪を引いて寝ていたら道路で倒れていた。
その上、知っている人間から存在を忘れ去られていると。」
「…はい。」
「お名前は、ナマエベルナドットさん。FBI所属ですね。確認取ってみます。」
「もしもし?先生?調べて欲しい事があるんだけど。」
どこかに電話をして、私の名前を伝えてくれている。
先生とは誰なんだろう。
「そんな人は居ない?…じゃあ写真送ってみるから確認して。」
彼に手招きされて近づくと写真を撮られた。
「……見れた?…やっぱり知らない?…ありがとう。何かあったらまた連絡する。」
彼が電話を切って困ったような顔で見下ろされた。
「貴方はどうやら、ここでは存在しないようです。」
「えっ…。」
「僕が前に読んだ小説みたいですね。…同じ世界線にあって、いる人物も一緒なのに違う点がいくつもある。パラレルワールド、というらしいですが。」
「パラレル…ワールド…。ねぇ、ここでは赤井秀一さんって人、いる?」
「その人の事も、ご存知なんですね。いますよ。
彼は裏社会のボス、というべきか。
知る人は知る"黒の組織"のトップと呼ばれる人物。」
「組織のトップ!?」
何がなんだか分からない。ありえない。
なんでシュウが逆に組織のトップなの!?
「貴女は彼の知り合いだったのかもしれませんね。もしかしたら、ここがパラレルワールドだと思い込まされる薬を飲まされたのかもしれません。
貴方が思っていた世界は、貴女が脳内で作り上げた世界で、現実はこっちという事でしょうか…。」
「そんなはずない!だって、だって全部覚えてる!シュウと知り合った時も、一緒に仕事してきた事も…。」
「残念ながら、作られた記憶かもしれません…。」
「そんな…。」
ショックを受けて慌ててマンションを飛び出して工藤邸に行った。
「ここ…工藤邸じゃない…。」
外観は工藤邸そっくりなのに、表札は沖矢になっていた。
「また来たんですか?」
「お、沖矢さん…。赤井秀一という男を知っていますか?」
「……。貴女はどういう関係ですか?」
「妻なんです…。」
「……。仕方がない。こちらへ来てもらおう。」
沖矢さんの車に乗り込んだ。
いつもと違って車はsubaru360ではなかった。
黒塗りのベンツだが車種は分からない。
どれくらい走ったか。気付いたら空は随分と暗かった。
「ここは……来葉峠…。」
「えぇ。」
頂上に近づくともう空は真っ暗だった。
灯りは街頭と車のライトだけ。
そこに1台の車が止まっていた。
赤いマスタング。
近くに立っていたのは赤井秀一だった。
彼は私を見るなり焦った顔をした。
「やはり、ナマエまでこっちの世界に来てしまったのか…。」
「シュウ!私が分かるの?」
「当たり前だろ。…気付いたらこちらに来ていた。
俺が組織のボスなんて馬鹿げた世界だよな。」
自傷気味に笑うと私に近付こうとした。
「誰が貴方に無償で引き渡すと言いました?」
隣の沖矢が怪しく笑った。
「何が目的だ?」
「それはですね…。」
次の瞬間発砲音が響いた。
「グ…ッ…!」
シュウが膝立ちになって倒れ込んだ。
慌てて駆け寄って起こすと息が出来ないのかパクパク金魚のように酸素を求めて口を動かしていた。
胸をみると左右どちらも肺の辺りを撃ち抜かれていた。
傷口を素手で抑えて人工呼吸をするも、傷から空気が漏れているようだった。
「ッ…ガ…ッ……。」
何か言いたそうにしていたが、数秒で苦しそうにもがいて白目を向いて動かなくなった。
「シュウ!シュウ!!そんな…!」
「死んでしまいましたね?」
沖矢昴は平然とニコニコしている。
「なんで!なんで殺した!?」
「今度は…僕が赤井秀一になる番です。
僕こそが組織のトップになるべき男ですから。」
そういうと私のこめかみに銃を突きつけ、昴が私にキスをした。
ダメだと分かっているのに、沖矢昴に抵抗する事が出来なかった。
「さ よ う な ら」
その言葉を聞きながら意識を失った。
「起きろ、ナマエ。」
「ん………!?シュウ!?シュウ!」
思い切り目の前のシュウに抱きついた。
「うなされていたぞ。大丈夫か?」
「こわ……怖かった!!」
「もう大丈夫だ。ここは夢の世界ではない。」
「うん。」
そこで気付いた。
「ねぇ、なんで今変声機つけてるの?」
「…あぁ、さっき梓さんに会ったんだ。
ナマエが体調悪いと聞いてポアロから差し入れしたいと言っていてな。沖矢昴に変装するために用意をしていたんだ。」
「そう…。」
それでもなんだか怖くて、試しに彼の変声機を外した。
「!?」何故かシュウは驚いて私から変声機を奪おうとした。
「ねぇ…私の名前を呼んで?」
「… ナマエ。」シュウから出た声は沖矢昴の声だった。
「なんで…?変声機つけてないのに……。」
「言ったでしょう?今度は僕が赤井秀一になる番なんですよ。」
「…い、おい!起きろ!」
シュウの声に飛び起きて戦闘態勢をとった。
「沖矢昴!今度は騙されない。」
「いったいどうしたんだ?うなされていたから起こしただけだが…?」
「嘘!シュウを殺して、私も殺そうとしてるんでしょ!」
「俺はここにいるが?」
「嘘つき!シュウの仇!」
目の前のシュウに殴り掛かりながら武器になるような物を探した。
ペンがある。咄嗟にそれを振り上げた。
「やめろ!」私の攻撃を避けると後ろから羽交い締めにしてきた。
「いい加減にしろ!正気に戻れ!」
シュウの怒気に気圧されてペンを落とした。
ペンが落ちた先には私が飲んだ薬瓶があり、ガチャンとガラスがぶつかる音がした。
その音でようやく今が元の世界だと気付いた。
「ほんとに?本当に…シュウ?」
「そんなに信用ならないか?今全て脱いでやっても良いが。」
シュウを確認すると変声機もウィッグも何もつけてない。髪や顔を軽く引っ張ってみたが地のようだった。
「今は現実だ。夢の世界に惑わされ過ぎだ、馬鹿。
流石に驚くぞ。」
「ご…ごめんなさい!!!」
お茶を飲みながら夢の世界での事を話した。
「はははは!俺が黒の組織のトップ?傑作だな。
この世界では、赤井秀一と沖矢昴は月と太陽のようなものだ。
どちらかが出ている時、もう一方は影を潜める。
だから安心しろ。
沖矢が俺に取って代わる事はない。
元は有希子さんと優作さんが作り出したキャラクターだからな。夢は夢だ。」
「そうだよね…。本当にごめん。」
「体調が良くなったら薬を作り直した方が良いんじゃないか?薬の副作用にしてはタチが悪すぎる。
今回の魔法薬、失敗作かもしれないぞ。」
「そうかも…。」
「欲しがっていたケーキも買ってきたぞ。
何か食べれば元気が出るだろ。」
「ありがとう。いただきます。」
パラレルワールドというのは本当にあるのかもしれない。
例え色んな世界があったとしても、やっぱりこの今いる世界が心地良い。
…もう二度とあんな嫌な夢は見たくないな。
後日薬を確かめると、元気爆発薬と隣にあった悪夢を見させる薬瓶の中身が漏れていることに気付いた。
何らかの原因で少し混ざったのかもしれない。
今度新しい薬瓶買いに行こうかな…。