第3章〈完結〉
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結局その日は目を覚まさなかった。
CTを撮ったが脳に損傷は見られず身体も特に異常はなく問題なし、とのことだった。
おそらく数日中には目を覚ますだろうと。
それでも不安だったので、無理を言って病院に一晩付き添いをさせて貰う事にした。
結局夜一睡も出来ずにシュウの寝顔を見つめて外から聞こえる電車の音に耳を傾けた。
朝方になってようやくウトウトしていると声が聞こえた。
「…おい。起きろ。」
「ん…?シュウ!!目が覚めたの!?今ナースコール押すから…。」
「誰だお前は。」
「え?」
「ナースコールは自分で押すから良い、失せろ。」
「な…っ…、」
言葉の意味が全く分からなかった。いや、分かりたくなかったのかもしれない。
血の気がさっとひき、冷や汗が出た。
手が震える。ダメだ、ちょっとでも気を許すと涙が溢れそうだった。
「わたしのこと…おぼえてないの?」
かろうじて絞り出して出た声は蚊の鳴くような声だった。
「知らんな。…いや、1度だけ会ったような…。
そうだ、俺が媚薬で苦しんでた時に路上で会った女だな。お前が快楽に歪んでいた顔は覚えているよ。
とても楽しませてもらった。」
鼻で馬鹿にしたような笑い方をして、さも面倒くさそうな顔をした。
「俺に簡単にホイホイ騙されるような馬鹿な女に興味はない。さっさと帰れ。」
「っ…。」悲しくて仕方がなくて、思わず頬に涙がつたう。それ以上何も言えなくなった。
そうこうしているうちに看護師が来て血圧を測ったり色々処置をした。
居心地が悪くてドアの近くで立ったまま看護師を眺めた。
少しして看護師は部屋を出ていった。
「…まだいたのか。そういえばこの髪を切ったのはお前か?…伸ばしていた理由は忘れたが、とても気に入っていたんだがな。」
ため息混じりに襟足を触る。
「ねぇ、名前は?」
「何故教えないといけない。俺は帰れと言ったんだ。二度と来るなよ。クソ女。」
胸ぐらを強く掴まれ、部屋の外にカバンと共に放り出された。
手加減なく強い力で掴まれ放り出され、呆然とした。
おそらく彼の記憶は…
「名前だけは教えてやる。俺は…ライだ。」
そう言って個室のドアを強く閉められた。
涙が止まらない。通りの邪魔になると分かりつつもその場から動けなかった。足が震えて上手く立てない。
少しすると看護師が声をかけてくれて医師と共に話をする事になった。
「おそらく外傷が原因の逆行性健忘、つまり記憶喪失でしょう。脳の損傷はありませんでしたし、一時的なものだとは思いますが…。」
「彼は…とある所に潜入捜査していた事があったんです。その時の記憶は保持されているみたいなんですが…。」
「…多分ですが彼にとって強烈な思い出なんでしょう。悲しみや辛さは記憶に残りやすいでしょう?かといって過度な辛さは解離をおこしますがね…。
とにかくゆっくり、赤井さんが思い出せるように一緒に支えてあげましょう。」
「二度と来るなと言われてしまったんですが…。」
「そうですか…。とりあえず今日は土曜日ですから2日後週明けまで入院させます。我々が初めにアプローチしてみます。様子を見て入室してもらいますから。」
「分かりました。よろしくお願いします。彼の身の回りの物を持ってきます。」
「分かりました。」
【赤井秀一視点】
目が覚めて白い天井が見えた。
ここはどこだ?
…点滴が腕に刺さっている。病院か。
ぼんやりとしたまま起き上がり横をチラッと見ると一人の女が頭をガクガクさせながらうたた寝をしていた。
見た事があるような気がする。
必死に記憶を辿った。
「っ…。」思い出そうとして後頭部が痛んだ。
そして少しずつ自分の事を思い出した。
俺は多分、名前は"ライ"だ。
ライと呼ばれていた記憶があった。
ぼんやりと思い出した顔は人の良さそうな髭を生やした男と金髪に褐色の肌の童顔の男。
「そうだ…スコッチとバーボンだ。」
変な名前だ。ライにスコッチにバーボン、酒の名前か。よく3人で行動を共にしていたのはよく覚えている。
俺が何か任務でヘマをしたんだろう。
そのせいでおそらくほとんど記憶がなくなってしまった。
ライが本名なのか偽名なのかよく分からない。
しかし一つ確かな事がある。
"俺は人殺しだ。"
ライフルを手にして狙撃をしていた記憶がある。
時には容赦なく急所を撃った。
その撃った感覚はしっかりと覚えていた。
どうやったら撃てるかという事も。
「そうか、俺は犯罪者なのか。」
自傷気味に笑い、隣の女を起こすことにした。
「…おい。起きろ。」
「ん…?シュウ!!目が覚めたの!?今ナースコール押すから…。」
女にはきっとシュウという偽名を使ったんだろう。
「誰だお前は。」
「え?」
「ナースコールは自分で押すから良い、失せろ。」
「な…っ…、」
女は目を見開いて随分驚いた顔をする。
「わたしのこと…おぼえてないの?」蚊の鳴くような声が聞こえた。
「知らんな。…いや、1度だけ会ったような…。
そうだ、俺が媚薬で苦しんでた時に路上で会った女だな。お前が快楽に歪んでいた顔は覚えているよ。
とても楽しませてもらった。」
わざと鼻で馬鹿にしたような笑い方をして、さも面倒くさそうな顔をした。
1度だけ会った事は覚えている。
誰かに薬を盛られて苦しんでいた俺に声をかけてくれた。
どうやって行ったか覚えていないが、ホテルへ行ってヤったのはぼんやりと覚えていた。
こんなに美人な顔はそうそう忘れはしない。
それが何故病院に一緒にいるんだろうか。
ホテルで会った後は会っていないはずだ。
とにかくおそらく犯罪者であろうこの俺に、もう二度と近づけさせてはいけない。
この女性を巻き込む訳にはいかないと思った。
正直見惚れるほど美しい彼女に一目で心を奪われた。
だからこそ危険な目に合わせたくないと思った。
俺を諦めさせる為に酷く罵倒する事にした。
…二度と顔も見たくないと思わせられるように。
「俺に簡単にホイホイ騙されるような馬鹿な女に興味はない。さっさと帰れ。」
とりあえず彼女の事はこれ以上無視しよう。
手元にあったナースコールを押して看護師を呼ぶ。
彼女の顔はおそらく酷く悲しみに満ちた顔をしているんだろう。
そうだ、それでいい。
俺の事を嫌いになってくれ。頼む。
バタバタと忙しなく看護師が来て俺に質問をしつつ血圧等測った。
少しして看護師は部屋を出ていった。
顔を上げるとドア横に彼女か突っ立っていた。
「…まだいたのか。そういえばこの髪を切ったのはお前か?…伸ばしていた理由は忘れたが、とても気に入っていたんだがな。」
俺は髪が随分長かったはずだ。
何か髪を切らないといけない状況だったのかはよく分からない。無駄に彼女に当てつけをした。
そもそもなぜ俺は女みたいに髪を伸ばしていたんだろうか。
全く記憶にない。
「ねぇ、名前は?」
また蚊の鳴くような声で女が声を出した。
「何故教えないといけない。俺は帰れと言ったんだ。二度と来るなよ。クソ女。」
まだ懲りていないのか?
立ち上がり点滴スタンドをガラガラ動かして彼女のカバンを掴んだ。
そのまま彼女の方へ行き、胸ぐらをぐっと掴んだ。
部屋の外にカバンと共に強く突き放した。
よろめいたものの転んだりはしなかった。
怪我をさせていない事に内心安堵した。
「名前だけは教えてやる。俺は…ライだ。」
安堵の気持ちから、つい名乗ってしまった。
まぁいい、もう二度と会うことはないだろうから。
その後しばらくドアの前ですすり泣く声が聞こえた。
彼女の泣き声は俺の心を強く揺さぶった。
聞きたくない。もう泣くな、俺なんか忘れてくれ。
縋るような思いで頭から布団を被った。
気づいたら寝ていたようだ。
寝ていたのはほんの1時間。
もう泣き声は聞こえなかった。
CTを撮ったが脳に損傷は見られず身体も特に異常はなく問題なし、とのことだった。
おそらく数日中には目を覚ますだろうと。
それでも不安だったので、無理を言って病院に一晩付き添いをさせて貰う事にした。
結局夜一睡も出来ずにシュウの寝顔を見つめて外から聞こえる電車の音に耳を傾けた。
朝方になってようやくウトウトしていると声が聞こえた。
「…おい。起きろ。」
「ん…?シュウ!!目が覚めたの!?今ナースコール押すから…。」
「誰だお前は。」
「え?」
「ナースコールは自分で押すから良い、失せろ。」
「な…っ…、」
言葉の意味が全く分からなかった。いや、分かりたくなかったのかもしれない。
血の気がさっとひき、冷や汗が出た。
手が震える。ダメだ、ちょっとでも気を許すと涙が溢れそうだった。
「わたしのこと…おぼえてないの?」
かろうじて絞り出して出た声は蚊の鳴くような声だった。
「知らんな。…いや、1度だけ会ったような…。
そうだ、俺が媚薬で苦しんでた時に路上で会った女だな。お前が快楽に歪んでいた顔は覚えているよ。
とても楽しませてもらった。」
鼻で馬鹿にしたような笑い方をして、さも面倒くさそうな顔をした。
「俺に簡単にホイホイ騙されるような馬鹿な女に興味はない。さっさと帰れ。」
「っ…。」悲しくて仕方がなくて、思わず頬に涙がつたう。それ以上何も言えなくなった。
そうこうしているうちに看護師が来て血圧を測ったり色々処置をした。
居心地が悪くてドアの近くで立ったまま看護師を眺めた。
少しして看護師は部屋を出ていった。
「…まだいたのか。そういえばこの髪を切ったのはお前か?…伸ばしていた理由は忘れたが、とても気に入っていたんだがな。」
ため息混じりに襟足を触る。
「ねぇ、名前は?」
「何故教えないといけない。俺は帰れと言ったんだ。二度と来るなよ。クソ女。」
胸ぐらを強く掴まれ、部屋の外にカバンと共に放り出された。
手加減なく強い力で掴まれ放り出され、呆然とした。
おそらく彼の記憶は…
「名前だけは教えてやる。俺は…ライだ。」
そう言って個室のドアを強く閉められた。
涙が止まらない。通りの邪魔になると分かりつつもその場から動けなかった。足が震えて上手く立てない。
少しすると看護師が声をかけてくれて医師と共に話をする事になった。
「おそらく外傷が原因の逆行性健忘、つまり記憶喪失でしょう。脳の損傷はありませんでしたし、一時的なものだとは思いますが…。」
「彼は…とある所に潜入捜査していた事があったんです。その時の記憶は保持されているみたいなんですが…。」
「…多分ですが彼にとって強烈な思い出なんでしょう。悲しみや辛さは記憶に残りやすいでしょう?かといって過度な辛さは解離をおこしますがね…。
とにかくゆっくり、赤井さんが思い出せるように一緒に支えてあげましょう。」
「二度と来るなと言われてしまったんですが…。」
「そうですか…。とりあえず今日は土曜日ですから2日後週明けまで入院させます。我々が初めにアプローチしてみます。様子を見て入室してもらいますから。」
「分かりました。よろしくお願いします。彼の身の回りの物を持ってきます。」
「分かりました。」
【赤井秀一視点】
目が覚めて白い天井が見えた。
ここはどこだ?
…点滴が腕に刺さっている。病院か。
ぼんやりとしたまま起き上がり横をチラッと見ると一人の女が頭をガクガクさせながらうたた寝をしていた。
見た事があるような気がする。
必死に記憶を辿った。
「っ…。」思い出そうとして後頭部が痛んだ。
そして少しずつ自分の事を思い出した。
俺は多分、名前は"ライ"だ。
ライと呼ばれていた記憶があった。
ぼんやりと思い出した顔は人の良さそうな髭を生やした男と金髪に褐色の肌の童顔の男。
「そうだ…スコッチとバーボンだ。」
変な名前だ。ライにスコッチにバーボン、酒の名前か。よく3人で行動を共にしていたのはよく覚えている。
俺が何か任務でヘマをしたんだろう。
そのせいでおそらくほとんど記憶がなくなってしまった。
ライが本名なのか偽名なのかよく分からない。
しかし一つ確かな事がある。
"俺は人殺しだ。"
ライフルを手にして狙撃をしていた記憶がある。
時には容赦なく急所を撃った。
その撃った感覚はしっかりと覚えていた。
どうやったら撃てるかという事も。
「そうか、俺は犯罪者なのか。」
自傷気味に笑い、隣の女を起こすことにした。
「…おい。起きろ。」
「ん…?シュウ!!目が覚めたの!?今ナースコール押すから…。」
女にはきっとシュウという偽名を使ったんだろう。
「誰だお前は。」
「え?」
「ナースコールは自分で押すから良い、失せろ。」
「な…っ…、」
女は目を見開いて随分驚いた顔をする。
「わたしのこと…おぼえてないの?」蚊の鳴くような声が聞こえた。
「知らんな。…いや、1度だけ会ったような…。
そうだ、俺が媚薬で苦しんでた時に路上で会った女だな。お前が快楽に歪んでいた顔は覚えているよ。
とても楽しませてもらった。」
わざと鼻で馬鹿にしたような笑い方をして、さも面倒くさそうな顔をした。
1度だけ会った事は覚えている。
誰かに薬を盛られて苦しんでいた俺に声をかけてくれた。
どうやって行ったか覚えていないが、ホテルへ行ってヤったのはぼんやりと覚えていた。
こんなに美人な顔はそうそう忘れはしない。
それが何故病院に一緒にいるんだろうか。
ホテルで会った後は会っていないはずだ。
とにかくおそらく犯罪者であろうこの俺に、もう二度と近づけさせてはいけない。
この女性を巻き込む訳にはいかないと思った。
正直見惚れるほど美しい彼女に一目で心を奪われた。
だからこそ危険な目に合わせたくないと思った。
俺を諦めさせる為に酷く罵倒する事にした。
…二度と顔も見たくないと思わせられるように。
「俺に簡単にホイホイ騙されるような馬鹿な女に興味はない。さっさと帰れ。」
とりあえず彼女の事はこれ以上無視しよう。
手元にあったナースコールを押して看護師を呼ぶ。
彼女の顔はおそらく酷く悲しみに満ちた顔をしているんだろう。
そうだ、それでいい。
俺の事を嫌いになってくれ。頼む。
バタバタと忙しなく看護師が来て俺に質問をしつつ血圧等測った。
少しして看護師は部屋を出ていった。
顔を上げるとドア横に彼女か突っ立っていた。
「…まだいたのか。そういえばこの髪を切ったのはお前か?…伸ばしていた理由は忘れたが、とても気に入っていたんだがな。」
俺は髪が随分長かったはずだ。
何か髪を切らないといけない状況だったのかはよく分からない。無駄に彼女に当てつけをした。
そもそもなぜ俺は女みたいに髪を伸ばしていたんだろうか。
全く記憶にない。
「ねぇ、名前は?」
また蚊の鳴くような声で女が声を出した。
「何故教えないといけない。俺は帰れと言ったんだ。二度と来るなよ。クソ女。」
まだ懲りていないのか?
立ち上がり点滴スタンドをガラガラ動かして彼女のカバンを掴んだ。
そのまま彼女の方へ行き、胸ぐらをぐっと掴んだ。
部屋の外にカバンと共に強く突き放した。
よろめいたものの転んだりはしなかった。
怪我をさせていない事に内心安堵した。
「名前だけは教えてやる。俺は…ライだ。」
安堵の気持ちから、つい名乗ってしまった。
まぁいい、もう二度と会うことはないだろうから。
その後しばらくドアの前ですすり泣く声が聞こえた。
彼女の泣き声は俺の心を強く揺さぶった。
聞きたくない。もう泣くな、俺なんか忘れてくれ。
縋るような思いで頭から布団を被った。
気づいたら寝ていたようだ。
寝ていたのはほんの1時間。
もう泣き声は聞こえなかった。