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1冊目

「えーみさーん、いるんやろー?」

玄関からゾムさんの声が聞こえてくる。…鍵、閉めたはずなんやけどなぁ。

「はいはい……って何ですかその大荷物」
「家出てきた、泊めてくれや」

やれやれと思いつつ玄関まで迎えに行くと、ゾムさんが大荷物を抱えて立っていた。それも雪まみれになりながら。

「出てきたって…君一人暮らしじゃ」
「ダメなん…?」

上目遣いで迫られ、言葉に詰まる。俺本当上目遣いに弱いな…
結局俺はゾムさんの上目遣いに負け、彼を泊めることになった。
部屋に上げると、彼は抱えていた荷物からさっそく何かを取り出し、テーブルの上に出した。

「ゾムさん、これは…?」
「見ればわかるやろ、ケーキや」
「分かりますが…何故…?」

俺は不思議に思い訪ねてみる。
彼は箱を開封しながら楽しそうに答えた。

「だって今日クリスマスやし」

クリスマス。すっかり忘れていた。もうそんな時期なんやな…

「このケーキ、エミさんと一緒に食べたかったんや」

そう言うと彼は、付属の使い捨てフォークを使い、嬉しそうにケーキを一口含む。
ほんとこの人はどこまで可愛いお人なんや。あ、頬に生クリーム付いとる。
俺は彼の頬に付いた生クリームを救い取り、ぺろりと舐める。甘いなぁ。
ふと彼の動きが止まる。どうしたのかとそちらを見ると、彼は頬を真っ赤に染めてこちらを見ていた。

…これは、今夜は寝かせられへんな。
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